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ナムジャイブログ

2012年03月26日

丸いパンとザーサイをいつ食べるか

 久しぶりに夜行便で日本に帰国した。ベトナムのハノイを深夜に発ち、早朝の6時半に成田空港に着いた。
 ハノイを出発したのが0時半だった。飲み物やピーナツが配られ、しばらくハリウッド映画を観ていた。しかしさすがに眠くなる。
 運よく隣の席が空いていた。体を横にしてしばらく寝た。物音で目が覚めた。通路に機内食のカートを前に客室乗務員が立っていた。
「ジャパニーズスタイルとウエスタンスタイルのどちらにしますか?」
「……それは夕食?それとも朝食ですか?」
「朝食です」
 客室乗務員はにこやかに答えてくれたが、時計を見ると午前3時だった。日本時間では午前5時になる。到着時間を考えれば、やはり朝食だろうか。
 タイやベトナムから日本に向かう夜行便の食事にはいつも戸惑う。航空会社も悩んでいるのだろう。ハノイから成田空港に向かうベトナム航空便は、かつて出発して間もなく、夕食が出されたような気がする。ベトナム時刻の午前1時すぎに夕食を提供するか、午前3時に朝食を出すかという問題である。
 航空会社が悩むのはわかるが、こちらの体はひとつなのだ。
 バンコクを深夜に発ち、午前7時頃に上海に着く中国東方航空便がある。この便で出される機内食は、秀逸といっていいのか、斬新といいのかわからない。
 はじめてこの食事を見たときは、目が点になった。ペカペカのプラスチックのボックスが配られ、それを開けると、すべてビニールに入った次のものがでてきた。
 丸いパン
 チョコチップ
 パウンドケーキ
 クッキー
 ザーサイ
 ポテトチップス
 キットカット
 これがすべてである。どう食べたらいいのだろうか。おやつに菓子は食べても、これだけ一度には食べる人がどこにいるだろうか。
 しかし機内食である。飛行機のなかで食事だ出るから……と夕食を抜いた人は、これで腹を満たすことになる。
 難しいのは、パンとザーサイの存在だろう。はじめに食べたらいいのか、途中がいいのか。とくにザーサイはどこで食べても食い合わせが悪い。ザーサイをつまみながら、キットカットというわけにはいかないだろう。
 結局、丸いパンにザーサイを挟んで食べた。それが正しいとか間違っているという問題ではない。
 夜行便の機内食に悩んだ末のメニューなのかもしれないが、菓子を適当にみつくろって詰めただけのようにも思える。
 その後、この便には何回か乗っている。中国東方航空は、この機内食を変えてはいない。ポテトチップスがリンゴチップスになったり、ザーサイが大根漬けになることはあるが。
  

Posted by 下川裕治 at 11:50Comments(0)

2012年03月19日

「宮迫です」で笑えない

 どういう旅人に映っているのだろうか。改めて考え込んでしまった。
 いまカンボジアのシュムリアップにいる。3日前、タイのバンコクから列車とバスでやってきた。僕にとっては、はじめてのルートではない。勝手知ったる……というほどでもないが、ある程度はわかる。
 しかしタイのアランヤプラテートからポイペトに抜ける国境は、そのシステムが変わっていた。カンボジアに入国すると、無料バスが待っていて、バスターミナルまで送るスタイルになっていた。
 シュムリアップに着いて、この無料バスに乗らなくてもいいことがわかった。が、通過する旅行者は皆、無料バスに乗っていく。こういうスタイルになったのか、と僕もバスの席についた。無料だから気も楽だった。
 立派なバスターミナルができていた。相乗りタクシーもあったが、客が集まらず、若い旅行者たちと一緒に、そこからシュムリアップに向かうバスに乗った。9ドルだった。
 乗客のなかに5人ほどの日本人の大学生がいた。ゲストハウスはどこにしようか……とガイドブックを読みながら話していた。
 途中、30分ほどの休憩があった。そこに何人かの子供たちがいて、旅行者に話しかけてくる。ひとりの女の子が、日本人の学生たちの前でこういった。
「宮迫です」
 大ウケだった。学生たちは、「宮迫です」の女の子に向けて何回もシャッターを押す。
 しかし僕は笑えなかった。いったいどれほどの国の子供たちの口から、このギャグを聞いてきただろうか。いまさら笑えというのだろうか。
 休憩が終わり、皆、バスに乗り込んだ。学生のひとりが、話しかけてきた。僕の隣にいたイギリス人と席を替わったらしい。しかし言葉は英語だった。
 そこで日本語で返せばよかったのかもしれない。しかし「宮迫です」に笑いもせずに立っていた僕である。僕は英語で返事をした。
 彼らは再び、「宮迫です」で盛り上がり、ゲストハウスをどこにするか話している。
 ここで口を開いたら、訳知り顔で、シュムリアップの話をすることになるのだろう、と思った。そういう自分が嫌だった。
 アジアを旅することが多い。旅の知識は多くなっていく。しかしそれ話すことが、最近は鬱陶しい。57歳という歳がいけないのかもしれない。
 どんどん気難しそうな旅行者になってきている気がする。なぜ、軽い旅話ができないのだろう。
 バスのなかで黙っている僕を学生たちはどう思ったのだろうか。

  

Posted by 下川裕治 at 12:00Comments(4)

2012年03月12日

パスポートよりパソコン

 中国の悪口を意図して語るつもりはない。しかしときに、いいたいこともある。
 先月である。僕は新疆ウイグル自治区の哈密(ハミ)からウルムチに向かう列車に乗ろうとした。中国の列車は、待合室に入る前に荷物をX線の機械に通さなくてはならない。
 昔からこの機械ではずいぶんもめた。まだ写真がフィルムだった時代、カメラマンがこの機械を通すことを嫌がったのだ。国際空港の機械に比べると、X線の強さがわかりにくかった。しかし最近はデジカメである。その心配はなくなった。
 しかし今回、X線を通すと、職員に公安のオフィスに行くようにいわれた。
「なんだろうか」
 カメラマンとオフィスに行くと、パソコンをチェックするという。そこから荷物検査がはじまった。パソコンだけでなく、メモリースティック、SDカードなどのデータをすべてチェックするらしい。本やノートなどは、女性の職員に任せ、男性の公安職員4人がかりで、僕とカメラマンのパソコンチェックがはじまった。
「なんの断りの書類もなく、こんなことをしていいのだろうか」
 そう思うかもしれないが、ここは中国なのである。ここで公安にたてついてもロクなことはないことぐらい知っている。素直に支持に従うしかなった。
 僕らの感覚では、人のパソコンを触るときには神経を遣う。間違った操作をして、迷惑をかけられないという思いがある。データを消してしまったら大変なことだ。パソコンには個人のデータもいっぱい入っている。だいたいこれまで、人のパソコンをいじったことはあまりない。
 しかし中国の公安には、そういう神経がないらしい。勝手に起動させ、なにやら操作をはじめている。僕もカメラマンも、データを消されるのではないかと落ち着かない。
 しかし彼らは日本語が読めるわけではない。見ることができるのは、写真ぐらいなものなのだ。しかし保存した文書を一生懸命にチェックしている。
「いったいなにを探してるんだろう」
 哈密(ハミ)は新疆ウイグル自治区の入り口の街である。ウイグル人のテロ組織の検索結果でもみつけたいのだろうか。しかし中国はグーグルがあまり通じないから、それを調べるのも難しい。
 先日、新聞を読んでいたら、朝日新聞の記者もチベット自治区で、同じようなチェックを受けていた。どうも最近の中国では、持参するパソコンをチェックするようになってきているようなのだ。
 結局、公安がみつけたのは、カメラマンが台湾に行ったときのチケットの控えだけだった。それを彼らのパソコンにコピーをとっていた。そんなものを記録に残して、どんな意味があるのか疑問が残る。その間、小1時間。なぜかパスポートのチェックはなかった。いまの中国では、パスポートよりパソコン? これをIT化というのだろうか。
  

Posted by 下川裕治 at 14:46Comments(0)

2012年03月05日

3本のズボンを買う

 おしゃれになろうと思ったことがある。50歳になってしばらく経った頃だろうか。インドのバスに揺らる旅を続けながら、唐突に……。
 辛い旅だった。ほぼ2日間、バスに揺られ、インド北部のジャランダーという街に着いた。そこで1泊した朝のことである。鏡に映った顔がやつれていた。疲れが溜まっていた。なんだか年老いて見える。
 この旅は本になる。カメラマンも同行している。こういう姿も写真に収められてしまう。
「若く見せなければいけない?」
 体の衰えに抗うには努力がいる。しかし着るものとか、髪型とか……。
 その日、道端の屋台で朝食をとりながら、カメラマンに向かっていってみた。
「僕はおしゃれになろうと思うんだけど」
「どうしたんですか。急に」
「いや……」
「無理だと思いますよ。おしゃれな人って、若い頃からずっとおしゃれなんです。蓄積が違うんです。急になれるもんじゃありません」
「………」
 今日、ズボンを買いにでかけた。妻も一緒だった。茶系のズボンをもっていたが、後ろのポケットの口が破れてしまったのだ。重い財布を入れるからだといわれたが、破れてしまってはしかたない。
 同じような色のズボンを選び、試着室で穿いてみた。カーテンを開けた。そこにはズボン選びを手伝ってくれた20代の男性店員がいた。彼が訊いてきた。
「同じズボンを何日も穿きますか?」
「はッ?」
 この店員はなにをいっているのかと思った。同じズボンを何日も穿くのは当然ではないか。そんなことは考えたことがなかった。
「ウールのスラックスは、毎日穿くと傷むんですよ。ローテーションを組んで休ませると、皺もなくなります」
「ローテーション?」
 隣にいた妻が笑いをこらえている。世のなかの男は、そんなことをしているのか。話は破れたズボンのポケットの口に及んだ。
「そうなんですよ。だから、僕は後ろのポケットにはハンカチしか入れません。ほら」
 店員はハンカチをとり出した。だったら財布はどこにいれるのだ……とはいわなかったが。
 昔から思うことがある。こういう店の店員はおしゃれなのだ。だから話がかみ合わない。僕はインドでカメラマンが口にした言葉を思い出していた。
 しかし店員の言葉には裏があった。この店はズボンを2本買うと、1本がただになるというサービスを展開していたのだ。
「1本の値段を安くしてもいいんじゃない?」
 すると店員はこういった。
「3本あると、ローテーションが組みやすいと思いませんか」
 最期まで会話が交わらない。
 で、ズボンは何本?
 2本買い、もう1本追加されて3本……。
  

Posted by 下川裕治 at 11:52Comments(0)