2013年08月26日
仕事をみつけるバックパッカー旅
しばらく前のバンコクポストにこんな記事が出ていた。東南アジアにやってくる欧米人のバックパッカーの意識が変わってきているという内容だった。
──自分の国での将来に限界を感じている。バックパッカー旅は、人生の経験ではなく、その旅のなかで、アジアでの仕事をつくりだそうとしている人が多い。
紹介されているのは、バックパッカー向けの雑誌を創刊したり、ゲストハウスをはじめた欧米人である。皆、バックパッカーとしてアジアの旅を経験した人たちだ。
LCCの路線が広がり、安い費用で旅ができるようになった。そしてやってきた東南アジアで、ビジネスのヒントをみつけたのだろう。ネットを使っていけば、それほど資本がなくても、仕事をつくっていくことができる時代でもある。そんな環境も後押ししているらしい。
カオサンにやってくる日本人のバックパッカーが少なくなった。街を歩いていても、あまり日本人に会わない。しかし欧米人の若者の数に変化はないような気がした。欧米人の間には、昔から、「若い頃にバックパッカー旅をするべき」といった伝統のようなものがある。日本人のようなブームとは違うと思っていた。しかしそんな彼らにも、意識の変化が起きているようだった。
欧米の若者たちにとってのバックパッカー旅は、南北格差に裏打ちされていた。「若いうちに貧しい世界を見ておく」という発想である。遠い昔は、親が資金を出したという。日本人バックパッカーも、その枠組みのなかにいた。表現の違いはいろいろあるのかもしれないが、僕自身もその環境のなかで旅をはじめた。
しかし時代は変わった。東南アジアは経済成長のなかにいる。賃金も上がってきた。
しばらく前、上海で聞いた話を思い出す。税金や手当などを考えると、上海人より日本人を雇ったほうが安いというのだった。これから東南アジアの国々も、自国民への保障を充実させていくだろう。それは豊かになった人々の、当然の要求である。その結果、保障という枠からはずれる外国人賃金のほうが安くなる現象がおきてくる。
かつて先進国といわれた国々の若者は、そのあたりに敏感なのだろう。東南アジアに流れる空気のなかに、ビジネスチャンスを嗅ぎとっているようにも思える。
僕はタイに滞在することが多いが、じりじりと上がる物価が応える。屋台の定食が突然5バーツ上がったりする。スクムビット通りに沿ったオフィスビルの賃貸料が倍増することもあるようだ。タイ人スタッフの給料も年を追って上がっているという。東南アジアの物価や賃金は、欧米や日本に近づいている。
バックパッカーの旅が変わるのもしかたないか。
(お知らせ)
朝日新聞のサイト「どらく」連載のクリックディープ旅が移転しました。「アジアの日本人町歩きの旅」。アクセスは以下。
http://www.asahi.com/and_M/clickdeep_list.html
──自分の国での将来に限界を感じている。バックパッカー旅は、人生の経験ではなく、その旅のなかで、アジアでの仕事をつくりだそうとしている人が多い。
紹介されているのは、バックパッカー向けの雑誌を創刊したり、ゲストハウスをはじめた欧米人である。皆、バックパッカーとしてアジアの旅を経験した人たちだ。
LCCの路線が広がり、安い費用で旅ができるようになった。そしてやってきた東南アジアで、ビジネスのヒントをみつけたのだろう。ネットを使っていけば、それほど資本がなくても、仕事をつくっていくことができる時代でもある。そんな環境も後押ししているらしい。
カオサンにやってくる日本人のバックパッカーが少なくなった。街を歩いていても、あまり日本人に会わない。しかし欧米人の若者の数に変化はないような気がした。欧米人の間には、昔から、「若い頃にバックパッカー旅をするべき」といった伝統のようなものがある。日本人のようなブームとは違うと思っていた。しかしそんな彼らにも、意識の変化が起きているようだった。
欧米の若者たちにとってのバックパッカー旅は、南北格差に裏打ちされていた。「若いうちに貧しい世界を見ておく」という発想である。遠い昔は、親が資金を出したという。日本人バックパッカーも、その枠組みのなかにいた。表現の違いはいろいろあるのかもしれないが、僕自身もその環境のなかで旅をはじめた。
しかし時代は変わった。東南アジアは経済成長のなかにいる。賃金も上がってきた。
しばらく前、上海で聞いた話を思い出す。税金や手当などを考えると、上海人より日本人を雇ったほうが安いというのだった。これから東南アジアの国々も、自国民への保障を充実させていくだろう。それは豊かになった人々の、当然の要求である。その結果、保障という枠からはずれる外国人賃金のほうが安くなる現象がおきてくる。
かつて先進国といわれた国々の若者は、そのあたりに敏感なのだろう。東南アジアに流れる空気のなかに、ビジネスチャンスを嗅ぎとっているようにも思える。
僕はタイに滞在することが多いが、じりじりと上がる物価が応える。屋台の定食が突然5バーツ上がったりする。スクムビット通りに沿ったオフィスビルの賃貸料が倍増することもあるようだ。タイ人スタッフの給料も年を追って上がっているという。東南アジアの物価や賃金は、欧米や日本に近づいている。
バックパッカーの旅が変わるのもしかたないか。
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Posted by 下川裕治 at
11:54
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2013年08月19日
【新刊プレゼント】週末台湾でちょっと一息
久しぶりに、下川裕治新刊プレゼントのご案内です。

週末台湾でちょっと一息
◎ 本書の内容
地元の台湾料理店に入り、ごはんとスープを自分でよそって「ああ、台湾だ」と実感。かつてオランダ領だった台湾は、サイクリングが盛ん。自転車50kmコースに挑み、その後はやっぱりビール。ビールも店の冷蔵庫から勝手に取り出すのが台湾流。夜市では屋台で懐かしのライスカレーを頬ばる。日本ですらもう食べることができない、黄色いカレーがここにはまだ残っている。日本じゃないのに懐かしい、それでいて解放感あふれる下川ワールドの週末台湾。
新刊本「週末台湾でちょっと一息」を、
抽選で"3名さま"にプレゼントします!
応募の条件は以下です。
応募は以下の内容をご記入の上、下記のお問合せフォームよりご連絡ください。応募受付期間は2013年8月31日まで。当選発表は発送をもってかえさせていただきます。
お問合せフォーム
http://www.namjai.cc/inquiry.php
今すぐほしい!という方は、下記アマゾンから購入可能です。
週末台湾でちょっと一息 (朝日文庫)
下川裕治 (著)
阿部稔哉 (写真)
アマゾン:
週末台湾でちょっと一息-朝日文庫
【新刊】

『週末台湾でちょっと一息』
下川裕治 (著)
阿部稔哉 (写真)
定価:693円(税込)
下川裕治 (著)
阿部稔哉 (写真)
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週末台湾でちょっと一息
◎ 本書の内容
地元の台湾料理店に入り、ごはんとスープを自分でよそって「ああ、台湾だ」と実感。かつてオランダ領だった台湾は、サイクリングが盛ん。自転車50kmコースに挑み、その後はやっぱりビール。ビールも店の冷蔵庫から勝手に取り出すのが台湾流。夜市では屋台で懐かしのライスカレーを頬ばる。日本ですらもう食べることができない、黄色いカレーがここにはまだ残っている。日本じゃないのに懐かしい、それでいて解放感あふれる下川ワールドの週末台湾。
【プレゼント】
新刊本「週末台湾でちょっと一息」を、
抽選で"3名さま"にプレゼントします!
応募の条件は以下です。
1.本を読んだ後に、レビューを書いてブログに載せてくれること。
(タイ在住+日本在住の方も対象です。)
(タイ在住+日本在住の方も対象です。)
応募は以下の内容をご記入の上、下記のお問合せフォームよりご連絡ください。応募受付期間は2013年8月31日まで。当選発表は発送をもってかえさせていただきます。

http://www.namjai.cc/inquiry.php
1.お問合せ用件「その他」を選んでください。
2.「お問い合わせ内容」の部分に以下をご記載ください。
・お名前
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・ブログURL(記事を掲載するブログ)
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・お電話番号
・ご希望の書名(念のため記載ください)
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週末台湾でちょっと一息 (朝日文庫)
下川裕治 (著)
阿部稔哉 (写真)

週末台湾でちょっと一息-朝日文庫
Posted by 下川裕治 at
21:12
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2013年08月19日
僕の足は汚い
ハーフパンツと呼ぶのだろうか。短めのズボンを穿く若者が増えている。ひざ下10センチ、20センチといった丈である。すね毛も見える。
先日、東京の地下鉄のなかで、すねがむき出しになった何本もの足を眺めていた。
「どうしてあんなにきれいなんだろう」
つい呟いてしまった。
足やすねに虫に刺された跡がまったくないのだ。すね毛はあるのだが、足全体がつるりとしている。素足を出す女性が、足の手入れをするのはわかる。しかし男性もそうしているのだろうか。
僕の足を眺める。自分でも嫌になるぐらいに、毒虫に刺された跡が残っている。最近になって刺された跡ではない。いったいいつ刺された跡かは忘れてしまったが、おそらく10年前、いや20年前。消えることがない跡が残ってしまっている。
南の国を訪ねることが多い。熱帯雨林に分け入ったこともある。そこには、日本では考えられない強い毒をもった虫がいる。海でなにかに刺されたこともある。そういった跡はなかなか消えてくれない。
人間、60年近くも生きてくれば、さまざまな虫に刺される。僕の場合は、その種類がかなり多い気がする。皮膚科のクリニックには何回か通った。毒虫に種類の特定などできないから、レスタミン軟膏を処方してもらうだけだ。その結末が僕の足である。
旅人の足? そういうことかもしれない。とすると、いまの若者のきれいな足は、日本という国しか知らない足ということになるのだろうか。
2週間前、中国の丹東にいた。鴨緑江という川を挟んで北朝鮮と接する街である。ここには、鴨緑江断橋が残されている。朝鮮戦争時代、アメリカ軍の空爆で破壊された日本がつくった橋の跡である。その近くに、北朝鮮レストランがある。これまでも何回か、この店に入ったことがある。ウエイトレスは北朝鮮からやってきた女性たちだ。もちろん選ばれた女性たちで、うっとりするほどの容姿である。料理を運んできた女性の指を見たカメラマンがこういった。
「労働を知らない指ですね」
細い指は農作業には縁がなさそうだった。
体にはさまざまな人生が刻まれていく。農作業は指を太くする。屋外での仕事は、深い皺をつくる。それはときに、人生の勲章のようないわれ方をする。苦労とか努力といったものが、背後に横たわっているからだ。
しかし足に残った虫刺されの跡は、どういったらいいのだろうか。勝手に旅に出て、虫に刺されただけなのだ。人に誇れるようなものではない。
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先日、東京の地下鉄のなかで、すねがむき出しになった何本もの足を眺めていた。
「どうしてあんなにきれいなんだろう」
つい呟いてしまった。
足やすねに虫に刺された跡がまったくないのだ。すね毛はあるのだが、足全体がつるりとしている。素足を出す女性が、足の手入れをするのはわかる。しかし男性もそうしているのだろうか。
僕の足を眺める。自分でも嫌になるぐらいに、毒虫に刺された跡が残っている。最近になって刺された跡ではない。いったいいつ刺された跡かは忘れてしまったが、おそらく10年前、いや20年前。消えることがない跡が残ってしまっている。
南の国を訪ねることが多い。熱帯雨林に分け入ったこともある。そこには、日本では考えられない強い毒をもった虫がいる。海でなにかに刺されたこともある。そういった跡はなかなか消えてくれない。
人間、60年近くも生きてくれば、さまざまな虫に刺される。僕の場合は、その種類がかなり多い気がする。皮膚科のクリニックには何回か通った。毒虫に種類の特定などできないから、レスタミン軟膏を処方してもらうだけだ。その結末が僕の足である。
旅人の足? そういうことかもしれない。とすると、いまの若者のきれいな足は、日本という国しか知らない足ということになるのだろうか。
2週間前、中国の丹東にいた。鴨緑江という川を挟んで北朝鮮と接する街である。ここには、鴨緑江断橋が残されている。朝鮮戦争時代、アメリカ軍の空爆で破壊された日本がつくった橋の跡である。その近くに、北朝鮮レストランがある。これまでも何回か、この店に入ったことがある。ウエイトレスは北朝鮮からやってきた女性たちだ。もちろん選ばれた女性たちで、うっとりするほどの容姿である。料理を運んできた女性の指を見たカメラマンがこういった。
「労働を知らない指ですね」
細い指は農作業には縁がなさそうだった。
体にはさまざまな人生が刻まれていく。農作業は指を太くする。屋外での仕事は、深い皺をつくる。それはときに、人生の勲章のようないわれ方をする。苦労とか努力といったものが、背後に横たわっているからだ。
しかし足に残った虫刺されの跡は、どういったらいいのだろうか。勝手に旅に出て、虫に刺されただけなのだ。人に誇れるようなものではない。
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Posted by 下川裕治 at
11:29
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2013年08月12日
なんの変哲もないことを書いている
バンコクから猛暑の東京に戻った。この時期は、バンコクのほうがはるかに過ごしやすい。40度などという気温を聞いただけで、バンコクに戻りたくなってしまう。
「今年は特別暑い」
という会話は、毎年、耳にする。前年と同じことはないのが気候というもの。そう達観したことを口にすると、ひねくれ者に思われてしまう。ここは、やはり、
「今年は特別暑いね」
と口裏を合わせることが処世術。気候の話は罪がないから、暑いことを口にするのが肝要というものだろう。
『週末台湾でちょっと一息』という本が、朝日新聞出版から出た。よく売れているようである。『週末バンコクでちょっと脱力』に続く本なのだが、僕の本だから、ガイド的な期待をもって買われると困る。この本を手に台北を歩いても、行き方ひとつ書いてないわけだから、なんの参考にもならない。
しかしそういう本でも、買ってもらえることはありがたい。
週末を扱ったアジア本は何冊も出ているのだが、その多くがガイド系である。より充実した週末旅のための情報が詰まっているわけだ。そういう本を否定はしない。しかし僕のような旅行者には向かない。だいたい僕の旅には、計画というものが希薄だ。
「台北も暑いでしょ」
「東京より暑いかもしれません」
「そういうときはどうしてるんです?」
東京も暑いから、そんな会話になる。きっと僕の本を読んでくれたのだろう。
「そうですね。夜になったら、街を歩くんです。これが面白い」
「夜?」
「そう。下町の工場とか商店が遅くまで店を開けてるんです。理由? 暑いからです。シャッターを閉めると、風が通らなくなっちゃうんです。だから店を閉めない。でも、仕事はしたくない」
「それのどこが面白いんです?」
「仕事をしたくないのに、店を開けてるんですよ」
「………」
この人とは、いくら話しても埒があかない……という表情が相手の目の周りに見え隠れして、会話は終わるのだ。
先日、高野秀行さんと対談をした。
高野 下川さんのエッセイを読んですごいと思うのは、なんの変哲もないことを書いていることです。
下川 自分のなかでは、いろいろ変哲はあるんだけど……。(『一冊の本』より)
僕の旅はどうもほかの人たちと違うらしいことは、昔からわかっているのだが……。
朝日新聞のサイト「どらく」連載のクリックディープ旅が移転しました。「アジアの日本人町歩きの旅」。アクセスは以下。
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「今年は特別暑い」
という会話は、毎年、耳にする。前年と同じことはないのが気候というもの。そう達観したことを口にすると、ひねくれ者に思われてしまう。ここは、やはり、
「今年は特別暑いね」
と口裏を合わせることが処世術。気候の話は罪がないから、暑いことを口にするのが肝要というものだろう。
『週末台湾でちょっと一息』という本が、朝日新聞出版から出た。よく売れているようである。『週末バンコクでちょっと脱力』に続く本なのだが、僕の本だから、ガイド的な期待をもって買われると困る。この本を手に台北を歩いても、行き方ひとつ書いてないわけだから、なんの参考にもならない。
しかしそういう本でも、買ってもらえることはありがたい。
週末を扱ったアジア本は何冊も出ているのだが、その多くがガイド系である。より充実した週末旅のための情報が詰まっているわけだ。そういう本を否定はしない。しかし僕のような旅行者には向かない。だいたい僕の旅には、計画というものが希薄だ。
「台北も暑いでしょ」
「東京より暑いかもしれません」
「そういうときはどうしてるんです?」
東京も暑いから、そんな会話になる。きっと僕の本を読んでくれたのだろう。
「そうですね。夜になったら、街を歩くんです。これが面白い」
「夜?」
「そう。下町の工場とか商店が遅くまで店を開けてるんです。理由? 暑いからです。シャッターを閉めると、風が通らなくなっちゃうんです。だから店を閉めない。でも、仕事はしたくない」
「それのどこが面白いんです?」
「仕事をしたくないのに、店を開けてるんですよ」
「………」
この人とは、いくら話しても埒があかない……という表情が相手の目の周りに見え隠れして、会話は終わるのだ。
先日、高野秀行さんと対談をした。
高野 下川さんのエッセイを読んですごいと思うのは、なんの変哲もないことを書いていることです。
下川 自分のなかでは、いろいろ変哲はあるんだけど……。(『一冊の本』より)
僕の旅はどうもほかの人たちと違うらしいことは、昔からわかっているのだが……。
朝日新聞のサイト「どらく」連載のクリックディープ旅が移転しました。「アジアの日本人町歩きの旅」。アクセスは以下。
http://www.asahi.com/and_M/clickdeep_list.html
Posted by 下川裕治 at
15:34
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2013年08月05日
バンコクの路上でアベノミクス
バンコクにいる。今日の昼、ホテルの近くでクイッティオというそばを食べた。1杯40バーツだった。2ヵ月前は35バーツだった気がする。昨年は30バーツだった。
バンコクはいま、値上げラッシュである。気がつくと5バーツ高くなっている、といったことは日常茶飯事だ。円安傾向に値上げが重なって、出費がかさむばかりだ。
タイ人向けの日本料理店の定食は200バーツを超えるメニューが並んでいる。日本円にすると、600円ほど。タイ人が平気な顔で注文する。家族4人で店に入り、飲み物なども頼むと1000バーツ近くになる。
日本がタイ人の短期滞在ビザを免除したことのあり、いまのタイはちょっとした日本ブームが起きている。あるタイ人が、日本の温泉旅館について訊いてきた。
「2食付きで1万5000円ぐらいからあると思いますよ」
と伝えると、彼はこういった。
「高くないね。2食付きなんだろ。タイのリゾートホテルは、シーズンに入ると、4000バーツはする。それには食事代は入っていないでしょ。海に行けばシーフードも食べるから出費は6000バーツぐらいになる。日本円にすると1万8000円だよ」
たしかにひとりでリゾートホテルに泊まると、日本の温泉旅館より高くなる。
タイとのつきあいは長いが、いまだにわからないのが、彼らの金銭感覚である。給料と身につけるものや買い物、食べ物の値段の折り合いがつかないのだ。
月給が1万5000バーツほどのOLが、どうして5000バーツもするバッグを買うことができるのだろう……と悩む。車の価格は日本と大差がない。給料は日本人の3分の1ほどというのに、どうしても簡単にローンを組んでしまうのだろうか。
タイ人の知人とタイの給料日に会ったことがあった。ATMに付き合ったが、彼はそのときに3000バーツもおろした。
「今日は前から食べたかった北京ダックの名店に行くからさ」
「そんなに使って大丈夫なの?」
彼の給料は9000バーツほどなのだ。給料日とはいえ、1回の食事で給料の3分の1を使ってしまう感覚。僕はついていけない。
「あとは毎日、インスタントラーメンでしのぐしかない」
と彼は笑うが、次の給料日までたっぷり1ヵ月があるのだ。
日本政府はアベノミクスに舵を切った。なんとかデフレを脱却したいのだという。しかしその足どりは頼りない。しかしもし、日本人がタイ人のような性格なら、あっという間に効果が出る。そもそも、アベノミクスなどという政策をとらなくてもいいのだ。
政府が標榜するのは、タイ人のように、後先も考えずに日本人が財布の紐を緩める経済環境づくりなのだろう。しかし堅実な日本人の腰は重い。
[政策でデフレを脱却するというより、日本人の性格改善に手をつけたほうが早道じゃないの?]
バンコクに住む日本人が冗談をいう。しかし日本人は性格を変えられない。だから、タイという国に憧れてしまう。インフレのバンコクの路上で、そんなことを考えてみる。
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タイ人向けの日本料理店の定食は200バーツを超えるメニューが並んでいる。日本円にすると、600円ほど。タイ人が平気な顔で注文する。家族4人で店に入り、飲み物なども頼むと1000バーツ近くになる。
日本がタイ人の短期滞在ビザを免除したことのあり、いまのタイはちょっとした日本ブームが起きている。あるタイ人が、日本の温泉旅館について訊いてきた。
「2食付きで1万5000円ぐらいからあると思いますよ」
と伝えると、彼はこういった。
「高くないね。2食付きなんだろ。タイのリゾートホテルは、シーズンに入ると、4000バーツはする。それには食事代は入っていないでしょ。海に行けばシーフードも食べるから出費は6000バーツぐらいになる。日本円にすると1万8000円だよ」
たしかにひとりでリゾートホテルに泊まると、日本の温泉旅館より高くなる。
タイとのつきあいは長いが、いまだにわからないのが、彼らの金銭感覚である。給料と身につけるものや買い物、食べ物の値段の折り合いがつかないのだ。
月給が1万5000バーツほどのOLが、どうして5000バーツもするバッグを買うことができるのだろう……と悩む。車の価格は日本と大差がない。給料は日本人の3分の1ほどというのに、どうしても簡単にローンを組んでしまうのだろうか。
タイ人の知人とタイの給料日に会ったことがあった。ATMに付き合ったが、彼はそのときに3000バーツもおろした。
「今日は前から食べたかった北京ダックの名店に行くからさ」
「そんなに使って大丈夫なの?」
彼の給料は9000バーツほどなのだ。給料日とはいえ、1回の食事で給料の3分の1を使ってしまう感覚。僕はついていけない。
「あとは毎日、インスタントラーメンでしのぐしかない」
と彼は笑うが、次の給料日までたっぷり1ヵ月があるのだ。
日本政府はアベノミクスに舵を切った。なんとかデフレを脱却したいのだという。しかしその足どりは頼りない。しかしもし、日本人がタイ人のような性格なら、あっという間に効果が出る。そもそも、アベノミクスなどという政策をとらなくてもいいのだ。
政府が標榜するのは、タイ人のように、後先も考えずに日本人が財布の紐を緩める経済環境づくりなのだろう。しかし堅実な日本人の腰は重い。
[政策でデフレを脱却するというより、日本人の性格改善に手をつけたほうが早道じゃないの?]
バンコクに住む日本人が冗談をいう。しかし日本人は性格を変えられない。だから、タイという国に憧れてしまう。インフレのバンコクの路上で、そんなことを考えてみる。
(お知らせ)
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