2013年09月02日
予約嫌いの戯言
予約というものが苦手だ。いや、嫌いといったほうがいいのかもしれない。今朝もホテルの予約サイトから、丁寧なメールが3通も届いた。つい「鬱陶しいなあ」と呟いてしまった。
そのホテルは、僕の常宿のようなゲストハウスである。いつも予約などしない。満室になったことなどないからだ。しかし今回はふたりの知人と一緒にその宿に泊まる。
「宿をとっておかないと不安なんで、予約しておこうと思うんですが」
満室になることは絶対にない、とはいいきれないから、頷くしかない。
「下川さんの分も予約しておきますね」
「あ、ありがとうございます」
気遣いを断るわけにもいなかい。フロントではきっとこういわれる。
「いつもは予約なしにふらっと来るのに、今回はどうしたんです?」
先日、知人と食事をした。沖縄料理の店だった。知人がメールを送ってくる。
「7時に予約しておきましたから」
『ぐるなび』からプリントした地図を頼りに店を探す。なかなかみつからず、四つ角でネオンを見あげながら、つい、溜息をついてしまった。
予約席に座るときも居心地が悪い。なにか特別の客のような気分にさせられる。もっと密やかに店の席に座りたいと思う。
予約嫌いの理由はわかっている。そこに行かなくてはならないことだ。それが予約というものなのだが、これがどうも性に合わないのだ。駅の改札で待ち合わせ、そのへんの店に入るほうが、はるかに気が楽だ。海外の街に着き、バスターミナル近くの宿に決めたほうが、はるかにスムーズに荷物をおろすことができる。
少数派であることはわかっている。世のなかの人は、効率よく生きているのだ。しかし生理的に合わないのだからしかたない。僕のような男から見ると、インターネットの予約サイトは、大いなる無駄に映る。店と交渉してメニューを紹介し、地図を貼り込み、評価をまとめていく。そういう情報に価値を見いださない人間にしたら、そのサイトに費やされる膨大なエネルギーに首を傾げてしまう。
30年ほど前、アメリカのグレイハウンドのバスに何回か乗った。当時、このバスは予約をする必要がなかった。バス乗り場に行けば必ず乗ることができた。満席になれば、バスは増発された。予備のバスを常に用意していたのだ。このシステムが全米に張り巡らされていた。広い大陸を西へ、東へと移動することができた。
いま考えてみれば、本当に豊かなアメリカだった。コンピュータが導き出す世界は、便利な社会ではなく、せこい社会というロジック……。こんなことをいっていると、世間から白い目で見られることはわかっている。しかし予約社会は息苦しい。
(お知らせ)
朝日新聞のサイト「どらく」連載のクリックディープ旅が移転しました。「アジアの日本人町歩きの旅」。アクセスは以下。
http://www.asahi.com/and_M/clickdeep_list.html
そのホテルは、僕の常宿のようなゲストハウスである。いつも予約などしない。満室になったことなどないからだ。しかし今回はふたりの知人と一緒にその宿に泊まる。
「宿をとっておかないと不安なんで、予約しておこうと思うんですが」
満室になることは絶対にない、とはいいきれないから、頷くしかない。
「下川さんの分も予約しておきますね」
「あ、ありがとうございます」
気遣いを断るわけにもいなかい。フロントではきっとこういわれる。
「いつもは予約なしにふらっと来るのに、今回はどうしたんです?」
先日、知人と食事をした。沖縄料理の店だった。知人がメールを送ってくる。
「7時に予約しておきましたから」
『ぐるなび』からプリントした地図を頼りに店を探す。なかなかみつからず、四つ角でネオンを見あげながら、つい、溜息をついてしまった。
予約席に座るときも居心地が悪い。なにか特別の客のような気分にさせられる。もっと密やかに店の席に座りたいと思う。
予約嫌いの理由はわかっている。そこに行かなくてはならないことだ。それが予約というものなのだが、これがどうも性に合わないのだ。駅の改札で待ち合わせ、そのへんの店に入るほうが、はるかに気が楽だ。海外の街に着き、バスターミナル近くの宿に決めたほうが、はるかにスムーズに荷物をおろすことができる。
少数派であることはわかっている。世のなかの人は、効率よく生きているのだ。しかし生理的に合わないのだからしかたない。僕のような男から見ると、インターネットの予約サイトは、大いなる無駄に映る。店と交渉してメニューを紹介し、地図を貼り込み、評価をまとめていく。そういう情報に価値を見いださない人間にしたら、そのサイトに費やされる膨大なエネルギーに首を傾げてしまう。
30年ほど前、アメリカのグレイハウンドのバスに何回か乗った。当時、このバスは予約をする必要がなかった。バス乗り場に行けば必ず乗ることができた。満席になれば、バスは増発された。予備のバスを常に用意していたのだ。このシステムが全米に張り巡らされていた。広い大陸を西へ、東へと移動することができた。
いま考えてみれば、本当に豊かなアメリカだった。コンピュータが導き出す世界は、便利な社会ではなく、せこい社会というロジック……。こんなことをいっていると、世間から白い目で見られることはわかっている。しかし予約社会は息苦しい。
(お知らせ)
朝日新聞のサイト「どらく」連載のクリックディープ旅が移転しました。「アジアの日本人町歩きの旅」。アクセスは以下。
http://www.asahi.com/and_M/clickdeep_list.html
Posted by 下川裕治 at
12:00
│Comments(1)