2016年06月06日
仕事よりも風
扇風機が好きだ。冷房があまり得意でないこともあるが、日本の夏もだいたい扇風機で乗り切っている。首がまわる扇風機の風が、ふわっと体に届くときがいい。
タイの宿に泊まっていつも思うのだが、エアコンと扇風機が、セットになっていない。エアコンがある宿の部屋には扇風機はない。扇風機の部屋にはエアコンがない。
タイは暑いのだからエアコンをつけて、扇風機もまわせば……と思うのだが。彼らのなかでは、エアコンと扇風機は別のものになっている。もっとも高いホテルでは、エアコンのほかに、天井にフライファンがついていることが多い。あれはインテリアの意味もある気がするがだ。
中国や台湾、香港、韓国の宿には、エアコンと一緒に扇風機が置いてあることが多い。台湾人を見ていると、だいたい一緒に使う。湿気が多いからエアコンは除湿も兼ね、風は扇風機という発想のように思う。
台北の会社を訪ねても、ビルは冷房が効いているのだが、部屋の隅では扇風機をまわしているところが多い。
「このほうが涼しいし、エアコンの電気代も節約できますから」
理に適っていると思う。台北の空港のトイレに入ると、そのなかで扇風機がまわっていることがよくある。あれはにおいを吹き飛ばす役割だろうか。
タイ人も台湾人を見倣うべきだと思う。エアコンの電気代が高い、と愚痴を口に乗せる前に、扇風機ではと思うのだ。
扇風機の欠点は、書類などが風で飛んでしまうことだ。パキスタンでは、これに何度も泣かされた。パキスタンという国は、滞在許可や通過許可など、オフィスに出向いて書類をつくってもらうことが多い。オフィスはだいたい、天井に扇風機がついているのだが、これが強く、つくった書類を脇に置いておくと、すぐどこかに飛んでいってしまう。彼らも書類の上には重石を置くなど、配慮はしているのだが、忙しい部署になると、しばしば書類が机の上から消える。そのたびに、机の下などに潜りこんで探すのは、申請にきた僕らなのだ。
机の下をのぞくと、何枚もの書類が落ちていたりする。きっと書類がなくて困っている人もいるだろう。文字は手書きのウルドゥ語だったりするから、自分の書類がどれなのかもわからなくなる。そのたびに、あれだ、これだと探さなくてはならない。
扇風機は、非効率の権化のようなものだが、パキスタン人は、風を弱めたりはしない。仕事より風なのだ。
僕は本の原稿は手書きである。しばしば原稿用紙が風で飛ぶ。パキスタン人のことはいろいろいえない。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=ユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅。ロシアに入国。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。いまはタイ南部をうろうろしてます。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
タイの宿に泊まっていつも思うのだが、エアコンと扇風機が、セットになっていない。エアコンがある宿の部屋には扇風機はない。扇風機の部屋にはエアコンがない。
タイは暑いのだからエアコンをつけて、扇風機もまわせば……と思うのだが。彼らのなかでは、エアコンと扇風機は別のものになっている。もっとも高いホテルでは、エアコンのほかに、天井にフライファンがついていることが多い。あれはインテリアの意味もある気がするがだ。
中国や台湾、香港、韓国の宿には、エアコンと一緒に扇風機が置いてあることが多い。台湾人を見ていると、だいたい一緒に使う。湿気が多いからエアコンは除湿も兼ね、風は扇風機という発想のように思う。
台北の会社を訪ねても、ビルは冷房が効いているのだが、部屋の隅では扇風機をまわしているところが多い。
「このほうが涼しいし、エアコンの電気代も節約できますから」
理に適っていると思う。台北の空港のトイレに入ると、そのなかで扇風機がまわっていることがよくある。あれはにおいを吹き飛ばす役割だろうか。
タイ人も台湾人を見倣うべきだと思う。エアコンの電気代が高い、と愚痴を口に乗せる前に、扇風機ではと思うのだ。
扇風機の欠点は、書類などが風で飛んでしまうことだ。パキスタンでは、これに何度も泣かされた。パキスタンという国は、滞在許可や通過許可など、オフィスに出向いて書類をつくってもらうことが多い。オフィスはだいたい、天井に扇風機がついているのだが、これが強く、つくった書類を脇に置いておくと、すぐどこかに飛んでいってしまう。彼らも書類の上には重石を置くなど、配慮はしているのだが、忙しい部署になると、しばしば書類が机の上から消える。そのたびに、机の下などに潜りこんで探すのは、申請にきた僕らなのだ。
机の下をのぞくと、何枚もの書類が落ちていたりする。きっと書類がなくて困っている人もいるだろう。文字は手書きのウルドゥ語だったりするから、自分の書類がどれなのかもわからなくなる。そのたびに、あれだ、これだと探さなくてはならない。
扇風機は、非効率の権化のようなものだが、パキスタン人は、風を弱めたりはしない。仕事より風なのだ。
僕は本の原稿は手書きである。しばしば原稿用紙が風で飛ぶ。パキスタン人のことはいろいろいえない。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=ユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅。ロシアに入国。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。いまはタイ南部をうろうろしてます。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
Posted by 下川裕治 at
17:26
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