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ナムジャイブログ

2016年11月28日

耳垢をとる

 旅の荷物で悩むものがある。
 耳かきである。
 以前、旅に同行したカメラマンが、市場を歩くたびに耳かきを探していた。
「海外では日本のような耳かきがなかなかみつからないんですよね」
 そう思う。世界は綿棒の方が主流のような気がする。アジアには耳かきがあるが、つくりが雑で、耳垢がしっかりとれた気がしない。ときに耳の内部にあたって痛いときもある。日本の竹でつくられた耳かきはやはり優れものだと思う。
 もっともこれは日本人の感覚であって、世界の人は綿棒に使い勝手のよさを感じているのかもしれない。あるいはインドのように、専門の耳かき屋にゆだねることが快感という人もいる。
 僕もアジアを歩きながら、思い出すたびに耳かきを探していた。しかし結局、いいものは見つからずにいる。
 いま使っているのは、日本の温泉地で買った、竹製の耳かきである。そこそこ気に入ってはいるのだが、難点は柄が長いことだ。シャンプーとか石鹸、髭剃りなどをいれるポーチには収まらないのだ。
 結局、旅には耳かきはもっていかない。
 いまの僕の生活は、旅から帰ると山のような仕事が待ち受けている。本の原稿や連載などが、いくら書いても終わらないぐらいに迫ってくる。
「どういい訳をしようか」
 などと考えながら机に向かうのだが、そうサラサラと書けるわけではない。なかなか浮かんでこない1行目の文章の前で悶々と苦しむことになる。
 そんなとき、ふと思い立って爪を切る。爪切りは旅先にももっていっているから、切る必要がないことが多いが、なんとかいっとき原稿から逃げようとする。そして、おもむろに耳かきを手にする。
 ごそっととれる。とくに3週間、1ヵ月と旅に出た後の耳垢の量は多い。
 今回の旅も3週間を超えた。インド、タイ、ラオスをまわった。掻き出した耳垢をティッシュの上に置き、じっと眺める。
 この黒いのはインドの埃?
 ちょっと茶色いのは、ラオスの道に舞っていたラテライトの砂?
 そんなことがわかったところで、原稿が進むわけではないのだが、耳垢に旅を振り返ってしまう。最近はそれが儀式のようになってしまった。
 爪を切り、耳垢をとると、もうすることがない。原稿を書くしかない。
 そこでまた、原稿が遅れたいい訳を考えはじめる。
 進歩はない。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=ミャンマー鉄道、終着駅をめざす旅がはじまります。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅がはじまる。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
  

Posted by 下川裕治 at 11:28Comments(2)

2016年11月24日

【イベント告知】新刊「アジアの真相」発売記念

下川裕治の新刊「アジアの真相」発売を記念して、スライド&対談トークショーを開催いたします。

詳細は以下です。


今回は、東京での◆下川裕治さん×室橋裕和さん 対談トークイベント◆「アジアで今、何が起きているのか?」のお知らせです。


新刊『アジアの真相』(キョーハンブックス)発売を記念して、旅行作家の下川裕治さん、編集者の室橋裕和さんのお二人をお招きして、一体、アジアで今、何が起きているのか?についてスライドを眺めながら対談トークをしていただきます。現代アジアを鋭く抉るルポマガジンとして新たに創刊された雑誌「アジアの真相」。なにかと世界を騒がせる 「アジアの風雲児」ドゥテルテ大統領の存在からにわかに注目を集めだしたフィリピン、 東南アジアに食い込みつつある「イスラム国」の脅威、国王崩壊後のタイなど、アジア に精通している執筆陣が様々な角度から鋭く切りとったアジア各国のルポが多数掲載されています。今回のイベントでは、編集&執筆に携わった下川さん、室橋さんのお二人のフィリピン、タイ、バングラディシュの話を中心に取材時の裏話や秘話を交えつつ、 貴重なアジアの話が聞けるはずです。下川さん、室橋さんのファンの方はもちろん、フィリピンやタイ、バングラディシュといったアジアの国々の現状に興味のある方はぜひご参加ください!

※トーク終了後、ご希望の方には著作へのサインも行います。

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●下川裕治(しもかわゆうじ)

1954年長野県松本市生まれ。旅行作家。『12万円で世界を歩く』でデビュー。以後、主にアジア、沖縄をフィールドにバックパッカースタイルでの旅を書き続けている。著書に、 『鈍行列車のアジア旅』『「生き場」を探す日本人』『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』『週末アジアでちょっと幸せ』『「行きづらい日本人」を捨てる』 等。 

◆下川裕治さんブログ「たそがれ色のオデッセイ」http://odyssey.namjai.cc/

●室橋裕和(むろはしひろかず)

週刊誌記者を経てタイ・バンコクに移住。現地発日本語情報誌『Gダイアリー』『アジアの雑誌』デスクを担当。10年間アジア諸国を取材する日々を送った後、日本に帰国。現在はアジア専門のライター・編集者として活動している。東京スポーツ新聞に毎週「亜細亜スポーツ」を連載中。双葉社の旅のウェブマガジン『タビリスタ』http://tabilista.com では『越えて国境、迷ってアジア』を第2・第4水曜連載中。

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【開催日時】 
12月7日(水) 19:30~ (開場19:00)

【参加費】  
1000円※当日、会場入口にてお支払い下さい

【会場】 
旅の本屋のまど店内

【申込み方法】 
お電話、ファックス、e-mail、または直接ご来店のうえ、お申し込みください。
TEL&FAX:03-5310-2627
e-mail :info@nomad-books.co.jp
(お名前、ご連絡先電話番号、参加人数を明記してください)
 
※定員になり次第締め切らせていただきます。

【お問い合わせ先】
旅の本屋のまど TEL:03-5310-2627 
(定休日:水曜日)
東京都杉並区西荻北3-12-10 司ビル1F

http://www.nomad-books.co.jp

主催:旅の本屋のまど 
協力:キョーハンブックス  

Posted by 下川裕治 at 19:03Comments(0)

2016年11月21日

三江国際商城は中国人の街だった

 ラオスのビエンチャンにいる。三江国際商城を見にでかけた。その規模と流れる空気に少し戸惑ってしまった。
 こうなっていたのか。
 ビエンチャンに中国の物資を扱う市場があるとは聞いていた。しかしそれは、ひとつのビルが、中国商品で埋まっているイメージだった。しかし、三江国際商城は違った。
 街だったのだ。
 三江国際商城には、あらゆるものがあった。絨毯、カバン、化粧品、おもちゃ、タオル、電気製品、健康器具……。隣の棟には家具、農機具。とにかく仕事と生活物資のすべてが並んでいるかのように思える。店の数は、そう1000軒は軽く超えている。そしてさらにいま、その横にビル型のショッピングセンターがつくられているのだ。
 この規模の市場は世界にはあるのかもしれない。しかし三江国際商城には、そこに暮らす中国人向けの施設もぎっしりつくられていた。中国人が泊まる高級ホテル、診療所、アパート、50軒は軽く超える食堂、質屋、マッサージ店……。中国人の街なのだ。
 ここに買い物にやってくるのはラオス人である。店員にもラオス人はいる。しかしオーナーはもちろん、働く人の半数近くが中国人なのだ。
 こういう光景を目の当たりにすると、やはり腰が引ける。
 世界にはひとつの国の人たちが多く集まるエリアがある。中華街、リトルコレア、リトルインディア……。しかしそのエリアは、基本的には商店街である。レストラン街といってもいい。現地の人々が、目先の変わった料理を楽しむことが基本である。
 しかし三江国際商城の食堂には、ラオス人は入らない。だいたい漢字しか店には見つからない。ラオス人がやってくることを想定していないのだ。
 ここは中国人の移住区といったほうが正しい気がする。世界にある中華街とは根本的に違う。
 僕はアジアを歩くことが多いから、進出する中国に接することは多い。とにかく資金があるのだから、しかたのないことだろう。しかし三江国際商城からは異質のものが漂ってくる。膨大な中国の人口を移すために、中国の経済や商品を利用しているようにも思えてくるのだ。
 ここに生きる中国人の多くは、ビエンチャンの街には出ないだろう。ここで完結してしまっているし、ラオス料理も口に合わない。しかしこの街は、これからも発展していく。
 薄気味悪さを感じてしまうのは、僕だけではない。当のラオス人が戸惑っている。
 彼らの街から出ない中国人は、やはり異様なのだ。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=ミャンマー鉄道、終着駅をめざす旅がはじまります。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅がはじまる。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
  

Posted by 下川裕治 at 18:24Comments(1)

2016年11月14日

ラープママーの困惑

 日本で生まれたインスタント麺は、アジアでさまざまな味の麵になり、欧米ではスナックの道を走っている。しかしそこにはもうひとつの進化系がある。それは米やパンと並ぶような主食への道である。
 アジアでは麵はもともと主食の一部を占めていたから、そこにインスタント麺がすりすりと入り込んでいっても不思議ではない。
 しかしまったく別の料理にインスタント麵が投入されると、若干の戸惑いがある。
 たとえば韓国料理のブテチゲ。キムチに豆腐や野菜、肉などのほか、ソーセージやランチョンミートを入れるB級料理だが、その最後に、インスタント麵を入れる。日本の鍋の最後にうどんを入れる感覚に似ているが、それがインスタント麵となると、やはり戸惑ってしまう。インスタント麵はそれほどのものかという思いが錯綜してしまうのだ。
 しかし、タイの大衆食堂に入ると、さらに広いインスタント麵ワールドが待っている。
 タイでは、インスタント麵をママーと呼ぶ。ママーというインスタント麺のブランドが固有名詞化した例だ。そして大衆食堂には、ヤムママーという料理がしっかりと定着している。ヤムは和えるという意味になる。インスタント麵をベースに、さまざまな香辛料を入れ、エビや玉ねぎを加えている。おかずと主食の境界線上にある料理でもある。
 店によって味はかなり違うが、僕の好物でもある。
 先日、あるショッピングセンターのフードコートで、ママーカーム―という料理に出合った。カームーというのは豚足という意味。豚足をたれで煮込み、その肉と野菜などをご飯の上に載せるカオカームーは、タイ人の昼食の定番でもある。その米の代わりにママー……。
 どんなものかと食べてみた。店のおばさんは、ママーの麵をとり出すと、豚足を煮込むたれのなかに投げ入れてしまった。そこで麵を茹でるのだ。後はカオカームーと同じ要領で肉や野菜を麵の上に載せるわけだ。啜ってみたが、まずかった。アイデア倒れの感がある。やがて消えていく料理のように思う。
 さらに後日。有機食材を使い、うま味調味料を一切使っていないことが売り文句のソムタム店に入った。1品がどれも100バーツを超える高級店である。メニューを見ていると、ラープママーという料理に視線が止まった。ラープはミンチ肉を香辛料や野菜を入れて煮炒めした東北タイ料理だ。
 頼んでみた。さすがに高級店という味でラープとママーの絡み具合も絶妙だった。
 しかしふと考える。
 有機食材を使い、うま味調味料を使わない店がママーを使っていいのだろうか。店にいたのは健康志向のタイ人が多い。彼らもラープママーを食べている。
 ママーは別格ということなのだろうか。

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Posted by 下川裕治 at 14:49Comments(2)

2016年11月07日

インドだな……

 インドのディプラガルという街にいる。インドの領土はバングラデシュ、ミャンマーの北側に入り込んでいる。ディプラガルはそこにある。インドの東端に近い。
 久しぶりのインドである。かつてはビザが面倒だったが、最近は大きな空港で到着ビザがとれるようになった。バンコクからインディゴというインドのLCCでコルカタに着き、ビザカウンターに向かった。ビザを申請しようとすると、ビザ代の2000ルピー、約3400円は外貨でなく、インドルピーでの支払いだという。向かいにある銀行窓口に行ったが、そこで、ビザがないと両替できない、といわれた。
「インドだな……」
 つい呟いてしまった。なにも変わっていなかった。
 ここから交渉がはじまる。到着ビザオフィスと、銀行の矛盾を埋めなくてはならない。それぞれが職務をまっとうしようとしている。しかし2000ルピーがなければ、ビザがとれない。結局、暫定的に両替をしてくれ、銀行職員がビザオフィスに同行することになった。
 それから2時間──。
 ビザオフィスの前で、銀行の職員と一緒に待ち続けた。いったいどんなチェックをしているのかわからないが、なかなか進まない。やっとビザのスタンプが捺され、それを手にしながらビザオフィスの職員はこういった。
「とにかく到着ビザは長い、長いプロセスが必要なんです。ログインして、チェックし、その後ログアウトして、またログインして……これを繰り返さなくてはならないんです」
「おう、そうか、そうか」
 と頷いてやるしかない。しかしインド人はなぜか憎めない。隣にいる銀行職員の表情が柔らかくなる。ビザがない外国人の両替には応じてはいけないというルールを、彼の判断で破ったわけだから、もし、僕がビザをとれなかったら大変なことになるのだろう。
 久しぶりにサダルストリートに行ってみようかと思ったが、到着ビザに手間どってしまった。空港近くのホテルに泊まり、翌日の飛行機でデヒプラガルまできた。
 この街にきたのは、インドでいちばん長い列車に乗るためである。ここからインドの南端まで、5日をかけて走る列車が週に1便だけある。
 しかし列車のチケットはまだとれていなかった。話せば長いことになるが、日本から予約は入れてあるものの、まだウエイティング状態なのだ。空港から駅に向かう。予約証明書を差し出す。
「ウエイティングからラックになった。明日来なさい」
「ラックって?」
「ウエイティングの上」
 そんなものがあるのか。でも切符がとれたわけではない。
「インドだな……」
 また呟くしかなかった。

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○クリックディープ旅=台湾のディープ旅を連載中。
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Posted by 下川裕治 at 11:48Comments(1)