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ナムジャイブログ

2017年03月27日

映画三昧の日々

「お父さんと伊藤さん」、「超高速!参勤交代リターンズ」、「聖の青春」、「この世界の片隅に」、「シン・ゴジラ」、「湯を沸かすほどの熱い愛」、「嫌な女」、「男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎」。
 これは3月に観た邦画である。これにハリウッド映画を2本、タイ映画を1本……。
 よく観たものだ。
 映画関係の方には申し訳ないが、お金は一銭も払っていない。すべて飛行機のなかで観た。「超高速!参勤交代リターンズ」などは3回も観た。ヨーロッパからの帰国便では、体は疲れているのになかなか眠ることができなかった。そういうときは、軽くて笑える映画に傾いてしまう。
 LCCに対抗しているのか、既存の航空会社は、機内で観ることができる映画を充実させているように思う。そのためか、映画ファンというわけではないのに、観る本数だけは、年を追って増えている。
 反動もある。日本で映画館に足を運ぶことが少なくなってしまった。記憶を辿れば昨年の夏、「すれ違いのダイアリー」というタイの映画を銀座で観ただけだ。
 話題の映画も、すぐに機内映画にとりこまれる。映画館から足が遠のいてしまうのだ。
 日本に帰国し、家族と食事のテーブルを囲む。揺れるミャンマーの列車や、シベリア鉄道の寒々しい風景の話をしても、妻や娘にはリアリティがない。聞いてはくれるが、乗りはよくない。話を帰りの飛行機で観た映画に振ると、急に食卓がにぎやかになる。旅ばかりしている父親は、飛行機の機内で観ることができる映画でやっと会話に参加できるようなところがある。
 機内映画が充実する一方で、ある航空会社は、機内で上映する映画を廃止することを考えたという。最近は、スマホやタブレットに映画をとり込んで観る人が増えている。将来を見越せば、機内の映画はなくてもいいのではないか……と。航空会社にしたら、映画のパッケージを買い、シートテレビのついた機材にしないといけない。映画をやめればかなりの経費節減になる。
 ところが、客室乗務員の反対意見に晒されたという。機内映画で客室乗務員の仕事がずいぶん楽になったのだという。乗客は映画に集中し、飲み物などの注文が減るのだ。
 3月は、日本に数日しか滞在できなかった。旅の仕事がたて込み、日程づくりに四苦八苦している。こういう状態になると、日本の情報に疎くなる。得る情報はまだら状態で、時系列につながらない。日本に帰り、家族や知人と話していると、まったく知らないことが話にのぼり戸惑うことが多い。おそらく、知らずに終わってしまっている話題もかなり多いだろう。
 詳しくなるのは映画ばかりである。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=インドでいちばん長い列車の旅を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅が続く。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
  

Posted by 下川裕治 at 16:42Comments(0)

2017年03月20日

空港の困惑ホテル

 旅の伏線を探せば、オランダのホテルの高さに行きつく話である。アムステルダム市内の都合のいい場所になると、ゲストハウスクラスでも、ツインで2万円近くもする。少しでも安いホテルはないだろうか。同行していたカメラマンが、ホテルの予約サイトを通して1軒のホテルを予約した。スキポール空港のすぐ近くのホテル。ふたりで1万5000円ほどだった。翌日は朝早くに飛行機に乗らなくてはいけない。好都合だった。
 取材を終えスキポール空港に向かった。しかしホテルがみつからない。インフォメーションで訊いてみた。
「セキュリティを通って、出国審査を受けた先にあります」
「はッ?」
 メルキュールホテルだったが、空港内にあるトランジットホテルだったのだ。飛行機の乗り継ぎ時間が長い人向けのホテルである。その国には入国せずに泊ることができる。
 そういうホテルの存在は知っていたが、通常、ホテルの予約サイトには登場しないはずだ。しかしスキポール空港のメルキュールホテルは、普通のホテルとして予約できてしまう。
 セキュリティを通り、出国審査のブースに立った。パスポートはあるが、飛行機の搭乗券はない。チェックインは、翌朝なのだ。事情を話した。職員は隣にいたスタッフとなにやら話し、出国スタンプを捺してくれた。
 ホテルには、問題なく泊まることができた。ひと息つきビールでも……と思った。フロントで訊くと、下の階に降りればレストランや売店があるから、そこで買えという。
 階段を降りると、搭乗フロアーだった。売店でビールを買おうとすると、搭乗券といわれた。当然である。しかし僕はチェックインをしていない。スマホにあるEチケットを見せながら、事情を説明した。店員は近くにいた別のスタッフと相談し、結局は売ってくれた。免税料金だった。
 さて翌朝。チェックインをしなくてはならない。そのためにはオランダに入国しないといけないのだ。訊くと、搭乗フロアーを右にずっと歩くと、ドアがあるという。その先に荷物が出てくるターンテーブルがあるので、そこを通りすぎると入国審査ブースがあるというのだが。
 不安な足どりで進むと、入国審査ブースに出た。
「どうして昨夜、出国して、今朝、入国するんですか?」
 たしかにそうなのだ。そこでまた事情説明である。ようやくチェックインフロアーにでたときは、どっと疲れがでた。刑期を終えた囚人が刑務所を出たときは、こんな心境なのではないかと思った。
 困惑の宿泊。これがオランダの寛容なのだろうか。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=インドでいちばん長い列車の旅を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅が続く。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
  

Posted by 下川裕治 at 12:34Comments(0)

2017年03月13日

民族の殲滅と靴

 ポーランド南部のガトヴィツエという街にいる。路面電車が走る、なかなかいい街だ。
 ここは、アウシュビッツからそう遠くない。電車に乗って、収容所跡まで行ってきた。最寄り駅はオシフェンチムという。これをドイツ語読みすると、アウシュビッツになる。
 アウシュビッツ収容所のイメージは暗くて重い。ホロコースト、ユダヤ人絶滅、ガス室、人体実験……といった不気味な言葉が浮かびあがってくるからだ。この施設で殺された人々は140万人ともいわれる。その多くはユダヤ人だった。
 イメージというものは頭のなかで拡大していく。それを修正していくのは、実際に目にすることだと思う。
 アウシュビッツ収容所──。その建物はなかなか立派だった。世界遺産に登録され整備されている。見ようによっては、刑務所のテーマパークのようにも映る。それはアウシュビッツがポーランドという国にあるからだろうか。ユダヤ人の大量虐殺という事実に、ポーランドのナチスドイツ支配への抵抗運動という事実が加えられた展示が続く。政治犯としてこの収容所に送られたポーランド人も少なくなかった。
 しかし収容所跡を歩くにつれ、残された物の多さに圧倒されていく。犠牲者が履いていたのであろう膨大な数の靴、メガネ、食器、ブラシ……。ナチスドイツはなぜ、これだけの物を残したのか……理解に苦しむのだ。
 アウシュビッツの歴史を辿っていくと、ナチスドイツが傾いていった「ドイツ人こそ純粋なアーリア人」というアーリア人至上主義に行く着く。アーリア人の理想郷をつくろうとしたのだ。その発想がユダヤ人の殲滅に結びついてく。子供を抱くユダヤ人の母親を撃ち抜くドイツ兵、乱暴された後で殺され全裸のまま雪原に放置されたユダヤ人女性……こういう写真は人を寡黙にさせてしまう。しかし人間というものは、ある思想に染まれば、残虐な行為にも手をくだすことができることを歴史は教えている。感性では受け入れられなくても、頭で理解することはできる。
 しかし、人を殺すことと、遺留品を保管する発想が相いれないのだ。
 1室に集められた靴の数は膨大である。そのひとつひとつから、足のにおいとか、爪の汚れなどが蘇ってくる。それを残した感性。
 やはりわからないのだ。
 アジアと比べるのは、僕の悪い癖かもしれないが、カンボジアのポル・ポト時代に起きた虐殺で残ったものは骨だけである。遺留品は本当に少ない。それがアジアの感性なのかとも思う。いや風土なのか。残された衣類や靴は、微生物や昆虫が土に戻していってしまう。
 アウシュビッツはまだ冬である。収容所跡の木々に葉はなく、氷点下の風に晒されていた。

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Posted by 下川裕治 at 11:48Comments(1)

2017年03月06日

【イベント告知】新刊「週末ちょっとディープなタイ旅」発売記念

下川裕治の新刊「週末ちょっとディープなタイ旅」発売を記念して、スライド&対談トークショーを開催いたします。

詳細は以下です。


今回は、東京での◆下川裕治さん スライド&トークショー◆新刊「週末ちょっとディープなタイ旅」発売記念のお知らせです。


新刊『週末ちょっとディープなタイ旅』(朝日文庫)の発売を記念して、旅行作家の下川裕治さんをお招きして、ふらっと行く週末タイ旅行のさらなるディープな楽しみ方についてスライドを眺めながらたっぷりと語っていただきます。前作『週末ちょっとディープな台湾旅』では、台湾の味「滷味(ルーウェイ)」の世界に分け入り、台南で日本の名残に触れ、少数民族に助けられて温泉へ行くなど、台北だけでは知りえないディープな台湾の楽しみ方を紹介していた下川さん。本作では、タイ料理とタイ中華料理の違いを調べ、ガイドブックでは紹介されない裏の乗り物に乗り込み、 気まぐれなタイの各駅停車に揺られてラオスの田舎に迷い込むなど、したたかで、しなやかな「微笑みの国」タイの
ディープな楽しみ方を紹介しています。軍事政権が飲酒や風俗をとり締まり清廉潔白なイメージを演出しようとするなか、国王死去の報が国中を駆け巡ったタイを現地で取材した下川さん独自のタイの情報が聞けるはずです。下川ファンの方はもちろん、タイが大好きな方やバンコクのさらにディープなスポットに興味のある方はぜひご参加ください!


※トーク終了後、ご希望の方には著作へのサインも行います。

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●下川裕治(しもかわゆうじ)

1954年長野県松本市生まれ。旅行作家。『12万円で世界を歩く』でデビュー。以後、主にアジア、沖縄をフィールドにバックパッカースタイルでの旅を書き続けている。著書に、 『鈍行列車のアジア旅』『「生き場」を探す日本人』『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』『週末アジアでちょっと幸せ』『「行きづらい日本人」を捨てる』 等。 

◆下川裕治さんブログ「たそがれ色のオデッセイ」http://odyssey.namjai.cc/

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【開催日時】 
3月31日(金) 19:30~ (開場19:00)

【参加費】  
1000円※当日、会場入口にてお支払い下さい

【会場】 
旅の本屋のまど店内

【申込み方法】 
お電話、ファックス、e-mail、または直接ご来店のうえ、お申し込みください。
TEL&FAX:03-5310-2627
e-mail :info@nomad-books.co.jp
(お名前、ご連絡先電話番号、参加人数を明記してください)
 
※定員になり次第締め切らせていただきます。

【お問い合わせ先】
旅の本屋のまど TEL:03-5310-2627 
(定休日:水曜日)
東京都杉並区西荻北3-12-10 司ビル1F

http://www.nomad-books.co.jp

主催:旅の本屋のまど 
協力:朝日新聞出版  

Posted by 下川裕治 at 13:11Comments(0)

2017年03月06日

厳冬のシベリア鉄道から

 このブログは、週末には書くように心がけている。そのときに日本にいるとは限らず、海外のホテルや空港などで書くこともある。飛行機のなかで書いたことはある気がする。しかし揺れる列車やバスのなかで書くのは、なかなか難しい。
 しかしいま、列車のなかでこの原稿を書いている。アジアの列車に比べると揺れが少ない。なんとか気分が悪くならずに書き進められる。
 シベリア鉄道に乗っている。これまで4回ほど、この鉄道には乗った。しかし始発から終着駅まではさすがに長く、一気に乗ったことはなかった。今回はその最長区間に乗っている。ウラジオストクからモスクワまで6泊7日。いま4日目だ。
 1週間乗り続けるということは、このブログを書く週末が含まれてしまう。そう考えると、やはり長い列車旅なのだ。
 先ほど、エニセイ川に沿ったクラスノヤルスクに20分ほど停車した。気温は氷点下だが、2日前のマイナス20度エリアに比べれば、ずいぶん楽になった。
 車窓に目をやる。雪に覆われたシラカバの林が延々と続く。延々という言葉も、シベリアでは意味が違ってくる。最低でも2~3時間、いや半日……同じ風景が続く。その奥に広がるのはタイガの森だろうか。音ひとつしない。静寂がシベリアの森を包んでいる。
 しかし気分は少し楽になってきている。ウラジオストクからハバロフスクを経て、バイカル湖に近いイルクーツクまで3日列車に乗った。ハバロフスクからイルクーツクまでは寒かった。マイナス20度を下まわっている気がした。停車駅でホームに降りるのだが、3分もいられなかった。
 森には生き物の気配すらなかった。渡り鳥は皆、南に移動しているのだろう。イルクーツクに近づき、川沿いに黒い中型の鳥を目にしたとき、なにかほっとした。あれはカラスだろうか。
 なんとか原稿は書けそうだが、これをどうやって送るかという問題が残る。ロシアのインターネットシムカードをウラジオストクで入れた。電波を拾えば、テザリングができるので送信できる。しかしシベリアは広い。圏外になってしまうことが多い。仮に電波があっても弱かったり……。
 平均すると4、5時間に1回は停車する。大きな街だ。そこでは忙しくなる。キオスクや駅前の売店で食料を補給しなくてはならない。言葉が通じないから思うように買うことはできない。気分転換でホームを歩いたり、少しは運動をもしたいのだが、ネットをつないで原稿を送らなくてはならない。そのためには車内に戻ることになる。
 急いでネットに接続し、作業を進めていくと発車する。そして5分もすると電波は消えてしまう。そのあとはもう、ただ雪原を眺めるしかない。長い旅だ。

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○クリックディープ旅=インドでいちばん長い列車の旅を連載中。
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Posted by 下川裕治 at 12:45Comments(1)