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ナムジャイブログ

2017年04月25日

ミャンマーの隘路に迷い込む

 明日からミャンマーに行くのだが、やや気が重い。旅の目標のようなものがしっかりと決まっているからだ。一応の目的がある旅が最近は多いが、そのタイトさが今回のミャンマー旅は違う。
 ミャンマーの列車。その全路線に乗るという旅をはじめてしまった。乗りはじめて後悔した。予想以上に大変なことだった。
 根本問題に直面していた。走っている路線を正確に把握できないのだ。ある程度は調べて乗りはじめたのだが、現地へ行くと「市場のそばを列車が走っていたよ」とか「その先にも列車が走っているよ」といった声が聞こえてきてしまうのだ。僕にとっては悪魔の囁きにも聞こえる。
 だんだん不安になってきた。ミャンマー人の力を借りることにした。彼が頑張ってくれた。ミャンマー国鉄の運行を管理する部署に辿り着き、完全ではないものの、かなり詳しい状況がわかってきた。
 その連絡を受けて天を仰いだ。線路が老朽化し、不通区間があることはわかっていたのだが、その先の路線を列車が走っていた。どういうことだろうか。ある区間が水害などで不通になってしまう。その先に列車はとり残されてしまうのだが、それが勝手に、なんの接続もない形で、走っているというのだ。
 彼はこんな報告も伝えてくれた。
「今は乗客が少ないので運休しているが、客からの要望が増えれば運行を再開するという路線がいくつかあります」
「はッ?」
 それでは、ミャンマーの列車のすべてに乗るという企画そのものが、永遠に終わらないのではないか。
 しかし締め切りが迫っていた。この締め切りも、出版社に頭をさげて、1ヵ月遅らせてもらったものだ。
 なんとか日程のやりくりをつけ、明日からミャンマーに向かう。気持ちは焦っている。しかしミャンマーという国は、そういう時間に追われることが難しいことも知っている。乗ったことがない路線に乗るといっても、ほとんどが1日に1本しか運行していない。
 きっと駅舎で何時間も待つことになる。そこに流れるのは、疑いもなくミャンマーの時間なのだ。おそらく全路線に乗るという発想は、日本的なものなのに違いない。その不協和音のなかを進まなくてはならない。
 アジアの本を書くときの根本的な矛盾の日々が待っている。時間に追われ、列車に乗っていくことになるが、そこに流れているのはミャンマーの時間なのだ。
 そんなことは前からわかっていたはずである。またしても同じ隘路に迷い込んでしまったようだ。
 明日、ミャンマーに向かう。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=タイからラオスへの旅。そして、世界の長距離列車旅を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅が続く。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
  

Posted by 下川裕治 at 12:15Comments(1)

2017年04月17日

苦味で「生き返った」

 苦いものが好きだ。子供の頃から好きだった。ひねくれた子供だった気もするが、そういう性格とは関係なく、苦い味というものが好きだった。
 こういう味覚をもっていると、春はうれしい季節だ。春野菜は苦いものが多い。「ふきのとう」は好物のひとつだ。味噌を加えて炒めてもいいし、てんぷらも苦味が口のなかに広がる瞬間がいい。「せり」のおひたしにも箸が動く。
 春野菜の苦味は瑞々しく、控えめでもある。夏のゴーヤーなどにくらべると自己主張は弱いが、どこか救われるような風味がある。
「生き返ったね」
 カンボジアで暮らす老人がそういったことを思いだした。その老夫婦は、カンボジアの田舎に暮らしていた。その家に何回も泊めてもらった。
 なにかお礼を買おう……と、カンボジアに向かう前に、バンコクの日系スーパーに寄った。魚売り場に、日本から送られてきた鮎が並んでいた。かなり高かったが、喜んでくれそうな気がした。老人は新潟の出身だった。
 老人の家は、メコン川に近い湖に面していた。そこで鮎を食べた。そのとき、耳にした言葉だった。
 鮎のワタは苦い。
 生き返った……それは苦さの効果だったような気がする。アジアの料理は、苦味がないものが多い。そんな日々の食事のなかで、鮎の苦味は、どこか体をシャキッとさせる要素をもっている。
 その感覚がよくわかる。「ふきのとう」を噛んだとき、口に広がる苦味は、生き返る味でもある。苦味は、日本人の味覚を構成するひとつの要素なのだろう。
 最近、エスプレッソをよく飲む。妻と娘がスペインとイタリアを訪ね、その土産に直火式のエスプレッソメーカーを買ってきた。弱い火の上に乗せ、その蒸気圧でコーヒーを淹れるタイプだ。
 朝、このメーカーで淹れたエスプレッソを飲む。ミルクも砂糖も入れない。かなり強い苦味が口のなかに広がる。
 一気に目が覚める感じだ。
 不思議なことだが、エスプレッソを飲むようになると、普通のコーヒーが物足りなくなってしまう。ブレンドやアメリカンが中途半端な味になってしまうのだ。コーヒーのチェーン店に入っても、ついエスプレッソを注文してしまう。日本では、エスプレッソのない店も多いが。
 エスプレッソの苦味は、頭をシャキッとさせてくれるが、「生き返った」とつい口にしてしまう苦味とは異質である。
 やはり春野菜や鮎の苦味である。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=タイからラオスへの旅。そして、世界の長距離列車旅を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
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○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
  

Posted by 下川裕治 at 12:05Comments(0)

2017年04月10日

桜の下で酒を飲む日本の美学観光

 日本は桜の季節を迎えている。
 3月の末、バンコクから香港経由で帰国した。日本行きの飛行機は、混み合っていた。やっと確保できた便は午前3時台にバンコクを出る便だった。
 乗り込んでみると、機内を埋めるのはタイ人と香港や中国からの人ばかりだった。隣に座ったタイ人は、東京に桜を見にいくのだという。毎年のことらしい。
 数年ほど前から、日本に向かう便に乗る外国人が増えてきた。それまでは日本人の割合が圧倒的に多かった。ようやく日本に絡んだ便もグローバルスタンダードということだろうか。
 花見にやってきた世界の人々が戸惑うことに、日本人の酒の飲み方がある。日本は世界的に見ても、飲酒に寛容な国だ。戸外で人が集まり、酒を飲むことが禁じられている国は少なくないからだ。
 酒と煙草。世界では、このふたつへの風当たりが強い。
 インドネシアでは、昨年あたりから、コンビニでビールを買うことができなくなった。イスラム原理主義の影響か……とも思ったが、ちょっと違う。そのきっかけはスラバヤだった。若者がビールを飲み、騒動を起こしたことがきっかけだという。
 シンガポールでも公共の場所では、夜の10時半から翌朝の7時まで酒類の販売が禁止されるようになった。さらに酒類制限地域がつくられた。リトルインディアやゲイラン地区で、そこでは土曜日の朝から月曜日の朝まで酒を飲むことができない。そのきっかけは、リトルインディアで酒に酔った男たちが起こした騒乱だった。
 タイは酒類の販売時間が制限されていたのだが、軍事政権になり、列車の車内が禁酒になった。ロシアも列車内では酒を飲むことはできない。
 それぞれの事情があるが、飲酒が引き起こす騒乱を政府は警戒する流れである。
 ところが、桜の季節に日本にやってくると、昼間から公園などで酒盛りである。日本人は酔うこともなく、おとなしく飲んでいるかというと、そうでもない。泥酔する人もいる。ときに喧嘩も起きる。
 桜見物にやってきた人は、日本はなんと寛容な国かと思うのかもしれない。
 酒が引き起こす騒乱。それはおそらく、人々が抱えるストレスにつながっている。ということは、日本人は世界の人々に比べて、ストレスを感じていないのだろうか。そういうと、多くの日本人は首を傾げるだろう。しかし日本人は習慣として、酒を飲む花見を受け入れる。
 桜は日本の財産だろう。それを見に世界の人々が訪れる。しかし、彼らが見たいのは、桜の下で酒を飲む日本人の美学なのかもしれない。

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Posted by 下川裕治 at 19:55Comments(0)

2017年04月04日

ダイエットの敵はアジア?

 少し痩せなくては……と思った。
 3月にシベリア鉄道に乗った。この列車の話をすると、「一度は乗ってみたい」という人は多い。ウラジオストクからモスクワまで6泊7日。世界で最も長い距離を走る列車でもある。しかしこう続けると、乗りたいという人の表情が曇る。
「列車にはシャワーがないんです」
 厳密にいうと、一等寝台にはシャワーがある。しかし一般的は二等寝台、三等寝台にはシャワーがない。
 今回乗ってみると、トイレにウエットティッシュが置いてあった。かなり大型の筒型容器だった。直径が15センチ以上ある。
 トイレのなかでひとり悩んだ。1枚抜き取ってみた。ハンドタオルの倍近いサイズだった。アルコールのにおいが鼻につく。
「これで体を拭くのではないか」
 シャワーの代わりにこれを……という発想のようだった。シベリア鉄道も、シャワーがないことを気にしていたようだ。
 同行していたカメラマンに伝えた。写真に撮ることになった。ウエットティッシュの容器だけを撮っても面白くない。ここは僕がモデルになって……とカメラマンの目が訴えていた。
 ひと肌脱ぐしかないか。僕はトイレに入った。上半身、裸になり、大判のウエットティッシュで体を拭いた。そのとき、カメラマンがこういったのだった。
「下川さんも腹が出てきましたね」
 気にはなっていたのだ。最近、運動をする時間もない。部屋にこもって原稿を書く日々が続いている。どうしても太ってしまう。
 アジアに行っても仕事に追われている。ホテルの部屋で原稿を書いている時間が長くなってきている。
 昔からそうなのだが、僕は、アジアに出向くと太る。1週間、2週間とアジアに滞在し、日本に帰って体重を測ると、必ず2~3キロ太っている。そして東京での生活が1週間ほど続くと、いつの間にか、もとの体重に戻っている。
 やはり食べ物だろうか。日本食に比べ、アジアの食事は油が多い気がする。アジアは暑いから、運動不足にもなる。つい、バイクタクシーやタクシーに乗ってしまうのだ。東京はタクシー代が高いから気楽に乗ることはできない。電車が多くなる。駅での電車の乗り換えなど、意外なほどに歩いている。
 きちんと痩せることを考えなくてはいけないのだろう。あと5キロぐらい痩せれば理想的ではないか、などと考える。
 問題はアジアか。
 僕の場合、ダイエットの敵はアジアだと思う。先週までバンコクにいたが、やはり暑かった。つい運動不足になる。難題である。

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Posted by 下川裕治 at 08:27Comments(1)