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ナムジャイブログ

2017年08月28日

サラダが主食の時代?

 圧倒的にサラダだった。商品棚に並んでいるのは、サラダばかりなのだ。
 7月、僕はロサンゼルスの空港をうろうろしていた。シカゴからロサンゼルスまで列車に乗るという取材だった。終着のロサンゼルス・ユニオン駅には早朝に着いた。日本に戻る飛行機は深夜。さてどうしようか。駅に近いホテルやモーテルに足を運んでみた。「夕方まで休みたい」という要望は、みごとに跳ね返されてしまった。
「部屋は空いてるんでしょ?」
「空いてるけど、チェックインは午後3時以降って決まりなんだ」
「それはわかってるけど」
 アジアだったら、もう少し融通を利かすような気がしたが、ここはロサンゼルス。やけに青い空を見あげるしかなかった。
 バスで空港に向かった。シカゴから4日間の列車旅、シャワーを浴びていない。空港には有料のシャワー室があるような気がしたのだ。しかし空港案内の女性は笑顔でこういった。
「この空港には、そういう施設はありません。近くのホテルに泊まるしかないです」
 カメラマンと顔を見合わせた。なんだかアジアの空港のほうが立派に思えた。
「昼飯でも食おうか」
 到着階にセブン-イレブンがあった。空港で働く人たちで混み合っていた。ランチのコーナーの前に立った。
 サラダばかりだったのだ。
 昼食にパンなどを食べず、サラダだけですませる。アメリカやカナダではそんな人が多い。女性だけではない。体重100キロ級の男もサラダ……。糖質制限はブームというより日常になっている。
 結局セブン-イレブンでサラダを買い、空港ターミナルの外のベンチに座った。レタスやピーマンにドレッシングをかけてばりばりと食べる。おいしくもないが、まずくもない。意外に腹も満たされる。
 涙ぐましい努力の跡もみえる。少しでも腹もちをよくするために、コーンや小さく切った豆腐のようなものも入っている。そしてドレッシングの量が多い。カロリーはドレッシング……といった雰囲気だ。店ではここに鶏肉を少し載せてもらっている人もいる。
 しかしサラダなのだ。
 我が家には20代の娘がふたりいる。時間があるときは弁当をつくって会社にもっていっているが、それがサラダだけなのだ。おにぎりをひとつもっていくこともあるらしいが。
 先日、バンコクで地下鉄を出たところにサラダ屋台をみつけた。切った野菜がトレイに入れられている。客は野菜を指さし、発泡スチロールの容器に入れてもらい、好みのドレッシングをかけてもらっている。朝だったから、昼用のサラダだろう。
 なんだか世界はものすごい勢いでサラダなのだ。もはやサラダの主食?

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=世界の長距離列車の旅。カナダの列車旅を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅。いまは番外編を連載。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
  

Posted by 下川裕治 at 12:30Comments(1)

2017年08月21日

上質な1票、低質な1票

『REAL ASIA』という雑誌の編集にかかわっている。そのなかで、タイの中間層を扱った。その原稿を読みながら、20年前以上前の荒川沖を思い出してしまった。
 当時、茨城県の荒川沖には多くのタイ人が暮らしていた。リトルバンコクとも呼ばれていた。そこに暮らすタイ人の大多数は不法滞在だった。
 知り合いのタイ人が何人もいた。トラブルも多かった。僕はしばしば、荒川沖に行くことになった。
 暑い頃だった。いつものように彼らのアパートに出向くと、タイから頻繁に電話がかかってきていた。そのたびに歓声が部屋を包んだ。皆、興奮していた。
 選挙だった。タイの総選挙が行われ、その開票結果が、電話で逐一伝えれていたのだ。選挙でこんなに興奮するタイ人を見たのははじめてだった。彼ら自身、日本にいるのだから投票はしていない。しかし地元とつながっていた。
 地元? イサーンだった。東北タイ。タイのなかでは貧しい一帯だった。日本に稼ぎにくる男や女は、イサーン出身者が多かった。
 当時の首相はタクシンだった。そして荒川沖のアパートにいるタイ人の多くはタクシンを支持していた。
 その後、タイは政治的に混乱する10年を迎えるのだが、いまになってみると、彼らが興奮する理由がよくわかる。それまでもタイでは選挙が行われていた。しかし彼らの声はタイの政治には届かなかった。貧しい階層の受け皿政党がなかったのだ。
 それをつくったのがタクシンだった。そしてタクシンは、農民の負債の返済猶予や30バーツ医療など、貧しい階層向けの政策を次々に実施していった。
 これに反発したのがバンコクに増えつつあった中間層である。その後のタクシン派と反タクシン派の対立は、あえて説明することもないかもしれない。そのなかで、反タクシン派からはこんな発言が出てくる。
「バンコクの30万票は上質で、地方の1500万票は低質だ」「問題は地方の人たちが民主主義を理解していないこと」
 選挙をすれば、必ずタクシン派が勝利を収める構造がこういう発想を導いていた。
 それは、初歩的な民主主義に対する過ちだった。性別や教育レベル、収入に関係なく、人々には平等に1票が与えられる。その環境のなかの選挙によって政策の逆行を防ぐことができる。その理論が民主主義の根幹である。
 その発想のなかにタクシン派がいたかというと、これも怪しい。つまり両派ともに民主主義を理解はしていないというタイの現実が際立ってきてしまう。
 いまの世界は、グローバリズムの後退の中で、民主主義が危うくなってきている。その問題とタイの混乱は、やはりレベルが違うように映る。
 だが……と思う。荒川沖で興奮していたタイ人は純粋だった。その芽を育てることができなかったタイ。それがタイの混乱をつくり出している気もする。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=世界の長距離列車の旅。カナダの列車旅がはじまります。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅が続く。
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Posted by 下川裕治 at 11:51Comments(1)

2017年08月14日

こいしいたべもの

 台風が去った暑い日に、1冊の本がそっと贈られてきた。森下典子さんの『こいしいたべもの』(文春文庫)である。締め切りに追われているというのに、ついページを開く。やめられなくなってしまった。ひとつの項がそれほど長くないエッセイ集だから、ストーリーを追いかけているわけではない。柿の種、鳩サブレーといった順で食べ物が並び、それにまつわる家族や自分の話が続いていく。
 やめられないのは文章が描く空間が、なんだかひそやかでいとおしく、温かいからだ。
──根詰まりを起こした植木のように、頭の中で思いがからみあい、布団の中で悶々と眠れぬまま、朝を迎えるようになっていた。
「潮干狩りに行きたい」と無性に思った。
 そこで森下さんは三浦半島に向かう。バケツと熊手を手に。浜の砂地に足首まで埋まったときの快感。電気製品についているアースが、溜まった電気を地面に逃すように、なにかが足の裏から抜け出ていく。その日々は祖母と一緒に潮干狩りに行った日々につながっていく。
 なにが起きているわけではない。おかしいわけでもない。しかしあっという間に、彼女の世界に、そう、足首まで埋まってしまうのだ。
 僕はアジアの旅ばかり書いている。彼女の描く世界から眺めると、なんと雑駁な世界かと思う。アジアはのんびりとしていて妙なことがいつも起きるが、日本のようなひそやかなものがない。理由はわかっている。僕が日本人だからだ。
 無理をして書いているという思いがどこかにひっかかっているのかもしれない。いや、旅をすることにどこかつらさの芽生えているのかもしれない。
 彼女とは若い頃一緒に仕事をしていた。週刊朝日の『デキゴトロジー』というコラムページを担当していた。ふたりでほとんどを書いていた時期もあった気がする。よく、これだけ感性が違う人間が、同じコラムページの原稿を書いていたと思う。
 この本にも当時の話が少し出てくる。インスタントのソース焼きそばのペヤングにまつわる話として。あの頃のことは、僕にも思い出が詰まっているが、とても彼女のようには書けない。まだ修業が足りないということだろうか。
 あの頃から、もう30年以上がたった。僕も60代だが、森下さんも60代になったはずだ。互いに週刊誌の仕事からは離れた。僕はそれから、アジアを西へ、東へと歩いてきたが、彼女はじっと日本にいて、家族とか、日本のたべものとかにおいを大切にしてきたのだ。
 別に彼女が枯れているわけではない。本を読んでもらえばわかるはずだ。そう、思い出した。彼女はあの頃から食べることが大好きな女性だった。羨ましいぐらいに。

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Posted by 下川裕治 at 15:53Comments(1)

2017年08月10日

【イベント告知】新刊「東南アジア全鉄道制覇の旅」発売記念

下川裕治の新刊「東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編」発売を記念して、スライド&対談トークショーを開催いたします。

詳細は以下です。


今回は、東京での◆下川裕治さん スライド&トークショー◆新刊「東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編」発売記念のお知らせです。

新刊『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』(双葉文庫)の発売を記念して、旅行作家の下川裕治さんをお招きして、タイとミャンマーの鉄道旅の魅力についてスライドを眺めながらたっぷりと語っていただきます。超過酷なユーラシア大陸を縦断する鉄道旅や東南アジアの「マイナー国境」をひたすら越える旅を体験した下川さんが今回挑戦したのは、東南アジアの鉄道の全路線を完全乗車する旅。本書は、タイとミャンマー国内を、短い盲腸線を行ったり来たり、降りたら誰もいない真っ暗な駅で呆然としたり、時刻表にも載ってない謎の路線を求めてさまよったりと、あと一歩で東南アジア全鉄道を制覇するのがどれほど大変なことかを思い知らされる紀行エッセイになっています。下川さんは、果たしてタイとミャンマーの鉄道路線を完全乗車することができたのでしょうか?下川ファンの方はもちろん、タイやミャンマーが好きな方や東南アジアの鉄道旅に興味のある方はぜひご参加ください!

※トーク終了後、ご希望の方には著作へのサインも行います。

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●下川裕治(しもかわゆうじ)

1954年長野県松本市生まれ。旅行作家。『12万円で世界を歩く』でデビュー。以後、主にアジア、沖縄をフィールドにバックパッカースタイルでの旅を書き続けている。著書に、 『鈍行列車のアジア旅』『「生き場」を探す日本人』『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』『「行きづらい日本人」を捨てる』『シニアひとり旅 バックパッカーのすすめアジア編』 等。

◆下川裕治さんブログ「たそがれ色のオデッセイ」http://odyssey.namjai.cc/

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【開催日時】 
9月7日(木)19:30~ (開場19:00)

【参加費】  
1000円※当日、会場入口にてお支払い下さい

【会場】 
旅の本屋のまど店内

【申込み方法】 
お電話、ファックス、e-mail、または直接ご来店のうえ、お申し込みください。
TEL&FAX:03-5310-2627
e-mail :info@nomad-books.co.jp
(お名前、ご連絡先電話番号、参加人数を明記してください)
 
※定員になり次第締め切らせていただきます。

【お問い合わせ先】
旅の本屋のまど TEL:03-5310-2627 (定休日:水曜日)
東京都杉並区西荻北3-12-10 司ビル1F

http://www.nomad-books.co.jp

主催:旅の本屋のまど 
協力:双葉社  

Posted by 下川裕治 at 12:00Comments(2)

2017年08月09日

【新刊プレゼント】『東南アジア全鉄道制覇の旅タイミャンマー迷走編』

下川裕治の新刊発売に伴う、プレゼントのお知らせです。今回は、タイとミャンマーが舞台です。

【新刊】



下川裕治 (著)


『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』(双葉文庫)


◎ 本書の内容

このブログでもしばしば愚痴やつらさが語られた鉄道旅。東南アジアの全鉄道を乗りつぶすという企画をはじめたばっかりに、タイで戸惑い、ミャンマーでは深みにはまり……。東南アジアの全鉄道を制覇する旅は、まだ道半ばなのだが、まず、タイとミャンマーが1冊の本に。これを読んで、真似するような人はいないだろうが、旅のつらさと列車の遅さだけは共有できる。

【プレゼント】


新刊本『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』を、

抽選で"3名さま"にプレゼントします!

応募の条件は以下です。

1.本を読んだ後に、レビューを書いてブログに載せてくれること。
(タイ在住+日本在住の方も対象です。)

応募は以下の内容をご記入の上、下記のお問合せフォームよりご連絡ください。応募受付期間は2017年8月31日まで。当選発表は発送をもってかえさせていただきます。

えんぴつお問合せフォーム
http://www.namjai.cc/inquiry.php


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『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』(双葉文庫)
  

Posted by 下川裕治 at 12:00Comments(0)