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ナムジャイブログ

2019年02月18日

バングラデシュはいま難民景気?

 一昨日、バングラデシュのクトゥパロンという街にいた。バングラデシュ最大の難民キャンプがある街だ。AFP通信の電子版によると、バングラデシュ軍は、ミャンマーからのロヒンギャ難民の登録が100万人を超えたと発表したという。今年に入り、流入する難民はまだ増えているようだ。その難民が暮らすクトゥパロンキャンプ。一説では、ここだけで100万人を超えているともいわれる。軍の発表と合わないが、未登録の難民がかなりいるのかもしれない。
 まあとんでもない数である。難民キャンプの大半は南部のコックスバザール県に集まっている。コックスバザール県の人口は200万人ほどだから、そこに100万人の難民が流入しているわけだ。
 クトゥパロンの街に入ったとたん、市場の混雑に圧倒された。難民たちが食料を買いに来ているのだという。難民は一銭ももっていないわけではない。援助団体のなかには、月に1000タカ、1300円ほどを支給しているところもある。キャンプ内には仕事もある。急増する難民の家や排水路をつくるなどの仕事。援助団体から報酬が支給されるという。
 難民の金を当て込んで、多くのバングラデシュ人がクトゥパロンに集まっている。食料品だけではない。衣類、日用雑貨、装飾品、医療品……。キャンプ内では毎日、かなりの数の子供が生まれているという。赤ちゃん用の品も必要になる。
 クトゥパロンの難民キャンプの外では、ビルが次々に建ちはじめている。マーケットができるのだという。店員たちの住居も必要になる。建設現場に労働者が集められる。
 難民景気である。大量の難民は、バングラデシュ経済を刺激しつつあるのだ。資金の元は国連や援助団体から出ている。
 実は、バングラデシュ南部に暮らすとう企画で、このエリアに入った。アパートを探したが、なかなかみつからない。どこも援助団体のスタッフが借りてしまったという。
 世界の多くの援助団体が、いま、コックスバザール県にやってきている。現地ではNGOとひとくくりにされているが。そこのスタッフに採用されると、未経験者でも、月に1万タカから2万タカ、約1万3000円から2万6000円の給料をもらえる。若者にとっては魅力的な給料だ。全国から英語を話すことができる若者が集まり、彼らがアパートを借りるのだという。
 家賃も高くなってきている。県庁所在地のコックスバザールよりすでに高くなってきているようだ。
 ロヒンギャ族はもとを辿っていけばベンガル人である。ベンガル語の方言を話す。彼らはバングラデシュ定住の動きをみせているという。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=再び「12万円で世界を歩く」のシリーズが連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。いまは番外編を連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
  

Posted by 下川裕治 at 12:47Comments(0)

2019年02月11日

インフレというエネルギーを生むからくり

『12万円で世界を歩く』という本がある。30年前に刊行された。一応、僕のデビュー作ということになっている。
 このときのルートをもう一度辿ってみるという旅がはじまっている。この旅は、総費用12万円の旅だった。そこには、飛行機代やホテル代、食費……など、旅の費用すべてが含まれたいる。この資金で、どこまで行って帰ってこれるか──という旅だった。
 もう一度辿る旅で、タイ、マレーシア、インドネシア、ネパールを訪ねた。旅の費用が重要なファクターだから、当時といまの為替レートがかかわってくる。訪ねた国のレートはこう変わっていた。
 タイバーツ=5,1円→3.48円
 マレーシアリンギ=50.6円→26.9円
 インドネシアルピア=0.077円→0.0078円
 ネパールルピー=5.6円→1円
 前に記されているのが30年前。後ろがいまである。これを見ると、円はこの30年で高くなったなあ、と思うかもしれないが、そうでもない。現地のインフレが進んでいるのだ。
 インドネシアルピアは、10分の1になってしまったが、物価は10倍あがっていた。どの国も、基本的にインフレ基調である。
 当時訪ねたほかの国も調べてみた。韓国とロシアが大きく変わっていた。
 韓国ウォン=0.018円→0.097円
 ロシアルーブル=212.9円→1.67円
 韓国はウォン=5倍強になっていた。アジアのほとんどの国が円高傾向なのだが、韓国だけ逆になっていた。ロシアは、ひどい。こうなると暴落といってもいい。
 旅行者にしてみれば、為替レートと現地の物価の相関関係のなかで、「安い」「高い」という感覚が生まれてくる。
『12万円で世界を歩く』には、詳しい明細表が掲載されている。
 たとえばタイ。クイッティオというそばが15バーツと記されている。いまは40バーツほどだろうか。3倍弱。為替レートは半分にもなっていないから、この30年でタイはだいぶ高い国になったわけだ。
 いろいろ比べれば面白いだろうが、現地の人は為替レートの変化ではなく、物価の上昇と給料の上昇のほうが関心事である。この給料の上昇が測りにくいから、話はあやふやになっていってしまう。タイでいえば、この30年で、給料は3倍以上にあがったかということだ。
 しかしそこには庶民感覚を突いたようなからくりもある。給料があがると、物価の上昇を忘れて、単純に喜んでしまうのだ。その感覚がアジアのエネルギーを下支えしたような気がしないでもない。
 30年前と同じルートを旅する。アジアのエネルギーというものが少し見えてくる。

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○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
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Posted by 下川裕治 at 11:34Comments(1)

2019年02月04日

死とつきあうということ

 1月31日の昼、我が家で飼っていた猫が死んだ。そろそろ危ない……という予感はあった。
 ちょうど1週間前、獣医師が家に来た。我が家の猫は、犬猫病院に連れていくと、すごく緊張する。少しでもストレスがかからないようにと、往診専門の獣医に治療を依頼していた。いまの日本では、こういうスタイルの獣医師がいる時代なのだと思った。
 癌とわかったのが、1月初旬。それから週に1回のペースで往診に来てもらっていた。
「進行、早いですね。これから1週間が山かもしれません。こうなると犬は2、3日。でも猫は生命力がありますから」
 次は2月1日に日は決まったが、獣医師は時間の約束までしなかった。
「それまでもたないかもしれないってことかもしれないね」
 妻と話した。餌を食べなくなり、水を小さなスポイトで与えることが精いっぱいになっていた。歩くことも難しくなった。死ぬ2日前、口から血を吐いた。鼻の下にできた癌である。口のなかまで浸潤しているのかもしれなかった。
 そして当日。また激しく血を吐いた。その後、空気の通りがよくなったのか、しばらく息をしていたが、それが止まった。
 肉親や知人の死を、何回か経験しているが、死ぬ瞬間に立ちあったことはない。いつも訃報を受けて駆けつけている。しかし今回、猫とはいえ、その瞬間に立ちあってしまった。
 獣医師は、死のサインを教えてくれていた。死ぬしばらく前、不思議な鳴き声を発するという。そしてその瞬間、前足を突っ張ったような体勢をとるらしい。我が家の猫は、血を吐いたとき、たしかに前足に力が入ったような気がした。
 いい獣医師だったと思う。この先に起きることを、いつも説明してくれた。心の準備をつくりやすかった。ペットの死について、いろいろ話もした。
 生きようとする力。そしてその力を削ぎとるような癌の力。猫の体のなかで、そのふたつの力がぶつかっていた。まったく方向が違うベクトルが作用し、癌の力が勝ったときに死が訪れる。その過程とつきあったことになる。いつも寄り添っていたのは妻だったが。
 蓮華寺という寺で遺骨にした。儀式化することで、心の空白を埋めていく人間の知恵。人の死に直面したとき、いつもそう思う。猫も同じだった。
 遺骨になった日、僕は空港に向かった。仕事が待っていた。機内では、次に出る本のゲラをずっと読んでいた。
 こうして死を内包しながら、人は日常に戻っていく。ゲラを読み進めながら、そんなことを考えていた。

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Posted by 下川裕治 at 11:38Comments(1)