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ナムジャイブログ

2019年11月25日

世論調査か住民投票か

 今日、11月24日、香港で区議選挙が行われている。本来なら、その結果が出た段階で、このブログを書きたいのだが、明日の朝からサハリンに行かなくてはならない。投票が締め切られた時点で書かせてもらう。
 以前、香港の選挙について、自著の一部で触れた。そのために、必死で資料を読み込んだが、あまりに難解だった。
 なぜかというと、香港が中国に返還される前、イギリスと中国のぎりぎりの交渉の産物だからだ。民主主義を定着させたいイギリスと、それを受け入れられない中国。選挙制度にも、さまざまな含みがあった。
 争点は普通選挙だった。僕らが投票する選挙が普通選挙。直接選挙である。しかし、中国は共産党の一党独裁体制である。中国はどうしても受け入れられない。
 ではなぜ、区議選挙が直接選挙になったかというと、香港の政治への影響力が少ない選挙だからだ。中国が合意した理由である。実際、区議選挙の結果は、政治にあまり反映されない。人によっては世論調査という人もいるぐらいだ。投票率が低いのもそのためだった。
 しかし香港の民主派は、民意を反映する住民投票のイメージにもっていきたかった気がする。
 雨傘運動にしても、今回の騒乱にしても、対立の争点は、普通選挙に収れんしていく。なぜかといえば、イギリスと中国で合意した香港基本法に、「最終的には全議員が普通選挙によって選出されるという目的に達する」と書かれているからだ。香港基本法は香港の憲法ともいえる。
 普通選挙を要求する民主派に対し、中国はさまざまな理由をつけ、基本法を骨抜きにしようとしてきた。それに対して香港の人たちが怒っているわけだ。
 しかしどんなことがあっても、中国は普通選挙を受け入れることができない。中国共産党の独裁を維持できない危険を孕んでいるからだ。その意味では、香港の民主派や学生の闘いは不毛である。しかしそれでも中国に挑んでいく。香港の人たちの民主主義への思いはそれほど強かったのか、と改めて思う。
 香港が返還されたとき、一国二制度をどう解釈するかでさまざまな意見が出た。この制度は50年続く。そのとき、香港が中国化するか、中国が香港化するか。
 香港返還から22年。この年月を眺めると、香港の中国化の傾向のほうが強い。しかしこれから28年、何回となくデモや騒乱が起きるだろう。それがどう作用していくか。
 区議選挙の投票所には長い列ができた。投票率は、返還後で最も高く、70%に近づいたという。香港の人たちは、ある自信を手にいれたのだろうか。彼らの顔からは、ある種の健全さが伝わってくる。

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Posted by 下川裕治 at 14:19Comments(0)

2019年11月18日

貧窮するほど利他性が高くなる

 利他という言葉がある。自分を犠牲にして他人の利益を図ること……という意味だと説明されている。わかりにくい表現に映る。無私といったほうがしっくりとくる。
 利他という言葉を知ったのは、ある本だった。社会学者が書いていた。そこにはこう書かれていた。
「貧窮するほど利他性が高くなる」
 貧しい人ほど、自分を無にして、他人のために尽くすということになる。逆にいえば、裕福な資産家は他人のために犠牲を払わないということだ。
 実感でもある。30年近く、バングラデシュ南部のコックスバザールで小学校を運営している。僕個人ではない。運営グループの責任者を僕が務めているといったほうがいい。
 運営はすべて寄付でまかなってきた。いつも資金は不足していた。現地の学校から催促がくるわけではないが、先生たちの給料が滞ることは何回かあった。
 しばしばメンバーで集まった。どうしたら寄付が多くなるか……知恵を絞る。いろんなことをした。NGO系のフリーマーケットで、バングラデシュの手作り菓子を売ったこともある。現地で買った民族衣装を販売したこともある。公的な援助を得るために、申請書をいったい何枚書いたことか。そのなかで、必ず、多くの資産をもった方に寄付をしてもらおうという話が出てくる。
 学校運営はひとりの日本人が現地で熱帯熱マラリアに罹り、死亡したことがきっかけではじまった。メンバーは彼の友人が何人かいた。彼らが情報を寄せてくれる。
「A君は家が駅前に広い土地をもっている資産家なんですよ。アパートの家賃収入だけで生活できるっていってた。1万円ぐらいの寄付をくれるんじゃないかな」
 メンバーと一緒にその知人を訪ねてみる。話は聞いてくれる。しかし寄付はもらえないことが多かった。そんなときに味わう複雑な思い……。そこでわかってくるのだ。寄付を送ってくれるのは、資産家ではない普通の人たちだということが。資産家を批判しているわけではない。寄付をいただいた資産家の方もいる。あくまでも傾向の話だ。金というものは、そういう性格をもっているもののようなのだ。
 学校修繕のためのクライドファンディングを行った。総額で200万円を超える寄付をいただいた。クラウドファンディングにはリターンというシステムがある。現地の工芸品や僕の本をお礼に送る。その発送作業をはじめている。これが意外に大変だ。宛名のラベルを貼り、袋に詰め、発送する。
 宛名のシールを貼りながら、いろいろ考える。寄付していただいたお金には、どんな意味が込められているのだろうか。利他という言葉が浮かんでくる。

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Posted by 下川裕治 at 12:58Comments(0)

2019年11月11日

北の港の案山子はカモメ?

 朱鷺という鳥が好きだ。朱鷺色はもっと気に入っている。黄を帯びた桃色といったらいいだろうか。落ち着きのある色だと思う。しかしいちばん好きなのは、朱鷺という漢字。朱色のサギ。そういえば、五木寛之の「朱鷺の墓」という小説を高校時代に読んだ。朱鷺という文字が好きだったからだろうか。
 朱鷺の天敵はカラスだという。卵を奪ったり、雛を襲ったりするらしい。
 その話を聞いたとき、「なぜ?」と疑問に思った。
 あれはいつだったか。津軽半島の蟹田港にいた。ここから下北半島にむけてフェリーが出る。訪ねたのは冬だった。
 津軽半島の冬の港。そこは暗く、寒く……だからそそられるものがあり、つい足を向けてしまったのだが、いざ、港にきてみると、することはなにもない。波止場の縁石に座って、ぼんやりするしかない。蟹田港には、番小屋のようなつくりの小屋が並んでいた。そこで獲れた魚を処理しているようだった。ときおり、ビニールの前かけ姿のおばさんが現れ、魚の内臓や骨などを小屋裏のゴミ捨て場に捨てていた。それをめがけて、カモメとカラスが集まってくる。しかしそこには、はっきりとした力関係があった。カモメの方が強いのだ。カラスはごみ箱を突くカモメの集団に近づけず、遠巻きにして、カモメが食べるおこぼれを狙っていた。
 カモメはカラスに比べて体も大きい。色も白く、猫のようなはかなげな声で鳴く。しかしかなり気が荒いところがある鳥である。それをカラスも知っているのだろうか。
 その光景を見たとき、カラスはカモメの卵や雛を襲わない気がした。そんなヒエラルキーを感じてしまった。
 とすると、朱鷺というのは、かなりおっとりとした性格なのかもしれない。
 今年の9月、カナダの北極海に面した町にいた。トゥクトヤクトゥクという村だった。ホワイトホースから1000キロ以上の道を進んできた。カナダの北極海……と意気込んでやってきたが、いざ到着すると、することはなにもない。そこでインディアンがサケの燻製をつくっていた。小さな小屋がいくつか並んでいた。熾からかすかに煙が出ていた。スモークするサケを処理し、内臓や頭などを彼らは海岸に捨てた。すると、蟹田港とまったく同じことが起きた。カモメがついばみ、それをカラスが遠巻きにしている。北極海の海岸でも、同じ力関係だった。
 サケの燻製小屋の屋根には、カモメの置物がとりつけられていた。北極海から吹きつける冷たい風にくるくるとまわる。
「これってカラス避け?」
 米が実った水田につくられる案山子役が、北極海の港ではカモメ。インディアンの知恵だろうか。

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Posted by 下川裕治 at 11:43Comments(1)

2019年11月04日

予約を検討中

 観光目的で海外に出向くときのビザが、少しずつなくなりつつある。アジアでいうと、インドネシアとミャンマーのビザが免除された。ビザが必要なのは、カンボジア、バングラデシュ、インド、パキスタン、ロシアぐらいだろうか。
 これらの国は、ビザ申請の電子化を進めているのだが、これがなかなか厄介だ。
 たとえばバングラデシュ。事前に大使館で取得する方法と空港でとる方法がある。空港は時間がかかるような気がして、これまで日本のバングラデシュ大使館でとっていた。この場合、ネットで登録し、画面に出てきた申請書に書き込んでいくことになる。しかしこれがなかなか難しい。受け入れ機関を選ぶ欄がある。僕は観光目的だから、受け入れ機関などない。スキップしたいのだが、なにかしらチェックしないと先に進めない。モニターの前で固まってしまうのだ。おそらく、いろんな目的のビザ申請を1枚にまとめているから無理が生まれているのだと思う。
 それでもなんとか書き込む。しかしそれをメールで送るのではなく、プリントし、写真を貼り、大使館に持参する。どこまでが電子化されているのかわからない。
 今月末、サハリンに行く。ロシアのビザをとらなくてはならない。ロシアのビザ取得には、旅行会社がつくるバウチャーが必要になる。訪ねる街や泊まるホテルが明記されたものだ。しかし、そこにはちゃんと安くバウチャーを発行してくれるところがある。1500円ほどで、架空のバウチャーをつくってくれるのだ。それもネットのやりとりになるが。
 受けとったバウチャーや書き込んだ申請用紙をロシア大使館にもち込むことになる。
 ロシア大使館は申請時間を、ネットで予約するシステムに変わった。同行するカメラマンから、混みあっているようなので、早く予約だけでも入れたほうがいい、という連絡を受けた。
 急いで日本のロシア大使館のサイトにアクセスした。11月のカレンダーが出てきたのだが、すべてが埋まっていた。その横に、いまは受付ができないと書かれ、状況を知りたい人は……というアドレスが書かれていた。
 当然、それをクリックする。すると、しばらくしてこんなメールが届いた。
「Appointment under consideration」
 予約を検討中──。
 こんなメールを送られてきても困るのだ。いったいどうすればいいのだろう。待てば予約日が決定し、その連絡がくるのだろうか。
 いまバンコクにいる。突然、明日、といった連絡がきてもどうすることもできない。
 バウチャーをつくってくれる会社から、まだ連絡はない。どうも休みになっているらしい。予約を検討中というメールを送ってきたロシア大使館からの追伸は、当然ない。

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Posted by 下川裕治 at 13:10Comments(0)