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ナムジャイブログ

2020年05月25日

新型コロナウイルスとスズメバチ

 新型コロナウイルスの感染がはじまったときの話を聞くたびに、ある光景が蘇ってきてしまう。視線の先に、僕に向かって飛び込んでくるスズメバチの姿がある。
 若い頃、週刊誌の記者をしていた。その年は、スズメバチの被害が続出していた。その様子を取材するために、全国を歩くことになった。九州の小倉、大阪の豊中、鎌倉、北海道の小樽……。
 軒先などにスズメバチが大きな巣をつくってしまう。住民は、「なんとか駆除してくれないか」と役所に連絡を入れる。
 役所には、スズメバチの巣を駆除する専門の部署はない。役所も困り、下水道課とか市民生活課といった、なんの縁もない部署の職員が動員されることになる。
 手づくりの防護服をつくり、ネットで顔をガードし、バトミントンのラケットと殺虫剤を手に巣に向かう。いま考えると、あの防護服はいま、病院で看護婦さんたちが身に着ける手づくり防護服によく似ていた。
 バトミントンのラケットは、人に向かって襲撃してくるスズメバチを、打ち返すためだった。役所の予算にも限りがあり、おもちゃ屋で売っている安いラケットを使っていたのが、ある市は職員がもっていた競技用のラケットが人気だった。
「1本しかないんですが、軽くて、ラケットの操作性がまったく違う。やはり競技用はちがいますなぁ」
 ある職員は説明してくれた。
 僕も役所から、スズメバチの巣退治用のセットを借りて身に着け、現場に立ち合った。かなり怖かった。スズメバチは、腹の先にある針を突き刺す体制で迫ってくる。ネットで防いではいるが、目の前に何匹ものハチがへばりついている。それを手袋をはめた指で振り払いながら巣に近づいていく。
 スズメバチの被害が出るエリアはわかっていた。山の斜面が造成され、そこにできた分譲住宅地だった。小倉や鎌倉、小樽といった街は平地が少なく、家は山の斜面に広げざるをえなかったのだ。
 人が入り込むことで、森の均衡が崩れていく。スズメバチが、家の軒先などに巣をつくってしまう理由だった。
 新型コロナウイルスによく似ていた。
 発症の原因がいまひとつはっきりしないのだが、自然界にあったウイルスがなんらかの経緯で、人に感染したとみることが一般的だろう。その原因を突き詰めていけば、地球上の人間の人口増加に辿り着く。人間の生活圏が自然のなかに入り込み、都市では人々が密集して暮らすようになっていった。新型コロナウイルスの感染が、世界的に広まっていった理由である。
 専門家によると、その種のウイルスは、まだ数多くあるという。人類はこのウイルスに対して、隔離やロックダウン、移動の禁止などで収束させようとしている。それが科学だと信じて疑わない国もある。
 さもウイルスを抑えたような口ぶりを耳にするたびに違和感を覚えてしまう。根本的な解決法は、そこにはないと思うのだが。

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Posted by 下川裕治 at 14:09Comments(1)

2020年05月18日

ストレスの海に戻っていく

「新型コロナ禍の先の社会。それは地方の活性化を促すのではないか」
 ある経営者がこんな予測をしていた。
 新型コロナの感染が広まるなかで、企業のテレワーク化が強制的に加速した。そこでわかってきたことは、テレワークでも仕事の効率や質は落ちないことだった。すると、どういうことが起きるか。地方で暮らす社員が増えていく。地方には、膨大な数の空き家がある。そこは大都市よりはるかに安く借りることができる。空気もいい。その結果、地方が活性化していく。三段論法である。
 新型コロナウイルスの感染の広まりは、膨張する都市が重要な条件だった。都市は人々が密集して暮らしている。そこにウイルスが入ると、いとも簡単に感染が拡大してしまうのだ。
 日本は東京や大阪に感染者が多い。アメリカはニューヨーク。タイはバンコク……。
 新型コロナウイルスは、都市を住処にして増殖しているかのようだ。もし、世界の人々が、大都市を嫌い、地方に暮らしていたら、こんなことにはならなかった。
 発生は中国の武漢だといわれている。武漢は人口が1000万人を超える大都市である。地方から多くの人が、仕事を求めてこの街に集まり、一気に膨張していった。
 新型コロナウイルスは、都市への人口集中に歯止めをかけたと見る人もいる。都市型のライフスタイルに警鐘を鳴らした、と。
 しかし文化というものを考えてみる。世界の文明は、人が集まるところで生まれていった。司馬遼太郎の言葉を借りれば、「人が集まるところに文化は生まれる」というわけだ。
 しかし人が集まれば、当然、ストレスが生まれる。差別が生まれ、貧困が目につくようになる。経済格差は、ときに戦争をも起こしてしまう。いいことばかりではない。しかしそれをひとまとめにしたものが文化なのだ。
 テレワークがはじまったとき、底知れぬ開放感を味わったはずである。いやな上司の顔を見る必要もない。同僚との競争意識も薄まり、穏やかに時間がすぎていく。
 仕事の能率はあがるかもしれない。しかしそれは、処理していく仕事の分野であって、新しいアイデアで仕事をつくっていく切れのようなものがない。新しい文化を生んでいくものは、人と人の間に生まれるストレスでもあるのだ。いってみれば、ストレスが人類を進化させてきたともいえる面がある。
 ウイルスは、高等動物が地球上に出現した後で生まれた。人間がつくった文化との親和性は高い。ウイルスは人類の進化に貢献してきたが、ときに悪さもする。
 やがて新型コロナ禍は収まっていく。それを前にしり込みする知人が少なくない。
「またあの会社のデスクに戻っていくと考えると、気分が落ち込むんです」
 新型コロナウイルスと共生していく日々が待っている。それはストレスがいっぱい詰まった人の海に戻っていくことだ。それは人の宿命にも映る。

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Posted by 下川裕治 at 15:25Comments(0)

2020年05月11日

都市封鎖で髪がすごくのびた

「封鎖生活のなかでなにを得ましたか?」
 ディレクターの問いかけに、郭晶さんはこう答えた。
「髪がすごくのびました。美容室はあいたけど、愛おしくてなかなか切りにいけない」
 いいエンディングだった。どこから借りてきたような、そう、日本でいえば、「元気をもらいました」的な言葉にはないリアリティがあった。
 自粛生活のなか、NHKのドキュメンタリーを観た。『封鎖都市武漢』。封鎖期間中、日記を発信し続けた郭晶さんという若い女性と、武漢の声を放送し続けた故事FMというラジオ局を軸にした番組だった。郭晶さんが綴った日記は、『武漢封城日記』として台湾で緊急出版された。たぶん日本語訳も出版されると思う。
 だから詳しい内容がわかるわけではない。番組でとりあげた部分しかわからない。その内容は、72日に及んだ武漢封鎖のなかで暮らした女性の日常である。マンションの管理人から、外出制限が出たことを告げられる。そのなかでのスーパーでの買い出し。日記のなかには、封鎖生活の心情が綴られる。人とのつながりがほしくて、わけもなく長江まで自転車を走らせた話も出てくる。
 日記を発信し続けることは大変だった。中国は検閲のある国だ。削除されそうな部分はアルファベットを加えてまぬがれたり、文字列が波打つように表示されて検閲を免れたり……。故事FMも慎重に放送内容を選んだ。政府は、ネットメディアに対して、放送方針を示していた。
──医療従事者の感動的な物語を宣伝し、プラス面を描くこと。
 その方針を巧みにかわさなくてはならなかった。
 良質な中国……。そんな世界が描かれていたことがうれしかった。
 中国は政府と人々の意識の乖離が激しい国だ。取材活動も制限されているから、日本で得られる中国からの情報は、どうしても政府寄りに傾いていってしまう。それを見聞きすると、心がすさんでくる。こういう環境のなかにいると、嫌中になびいていってしまう感覚はわかる。
 そんなとき、中国に行き、庶民が入る食堂に入るとほっとする。中国人たちは、僕らと同じように悲しみ、同じように笑っている。そして、中国共産党とのつきあい方を知っている。彼らはいい意味で普通なのだ。
 もっと多くの人が、中国に行かなくてはいけないと思っている。そうしなければ、中国人ではなく、中国政府が孤立していってしまう。新型コロナウイルスはいい機会だったのだが……。中国の政権構造は硬直化がかなり進んでいるのかもしれない。

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Posted by 下川裕治 at 13:19Comments(2)

2020年05月04日

新型コロナウイルスと同調圧力

 世界は新型コロナウイルスの感染を防ぐ対策に追われている。多くがロックダウン方式で。しかし完全な鎖国状態にして、国内ロックダウンをしない国や、スウェーデンのように集団免疫をめざす国もある。集団免疫は、多くの人が感染し、免疫をもつことで感染を防ぐ方法だ。致死率を低くできれば、理想的な方法ともいわれる。第二派、第三派の流行を防ぐことができるからだ。
 日本はレベルの違いはあるがロックダウン方向である。しかし、特措法といわれる新型インフルエンザ等対策特別措置法の枠内で措置で自粛要請に留まっている。つまり、「飲食店は夕方8時までの営業に」と自粛をお願いするレベルだ。強制力はなく、罰金規約もない。
 世界の多くの国が、ロックダウンと罰金をセットにしている。日本で緊急事態宣言後の記者会見で、記者が、「世界に類をみない対策」といったのは、自粛要請に留まっていたからだ。
 しかし日本には、自粛要請を強制力として作用させる空気がある。同調圧力である。
 同調圧力とは、少数派の意見をもつ人を、暗黙のうちに多数意見に合わせてしまうことだ。これは日本だけにあるものではないが、日本のその圧力はほかの国より強いといわれる。日本人は他人の行動に敏感なのだ。
 たとえば戦前の日本。軍国主義に走っていくなかでは同調圧力が強く働いていた。
 今回の自粛要請に応じない店があった。その店に対して、日本は同調圧力が強く作用する。「自粛要請なんだから、応じないという自由があるでしょ」という意見は、新型コロナウイルスの蔓延を防ぐという大義を背負った相互監視のなかで、しだいに追い詰められていく。
 ある大臣が、それを、「日本人のDNA」といったが、政府が同調圧力を広めようとしているわけではない。日本人のなかに自然に生まれる。もっとも政府はそれを利用しようとしている節がないではないが。
 繁華街には自粛要請に従わない店はある。それをチェックし、都や県などに伝える自称「自警団」も生まれているという。それは少数派の意見をネット上で攻撃する正論モンスターを思い起こさせる。
 自警団に文句はいいにくい。支持する人もいるかもしれないが、言葉にならない不快感を抱く人もいる。僕もそのひとりだ。自粛要請を否定するつもりはないが、そこから生まれる同調圧力に違和感を覚えてしまう。海外の紛争地へ出かけた日本人が犠牲になったときの「旅の自己責任論」のときも同じ思いを抱いたものだった。
 同調圧力は、ときに日本の美徳のように語られることもあるが、逆のベクトルが作用するとき、日本人であることが嫌になる。仮に日本が同調圧力で新型コロナウイルスを克服したと分析されると、いままで以上に居場所を失ってしまうように思うのだ。

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Posted by 下川裕治 at 12:48Comments(3)