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ナムジャイブログ

2020年09月28日

これからがつらい……

 こういった判断を親に強いていいのだろうか。電話口で悩んでしまった。
 話は相も変わらず新型コロナウイルスである。10月1日から、ゴートゥートラベルに東京も組み込まれることになった。これで東京にかかっていた規制は一切なくなる。
 ようやく信州の松本に暮らす母の家へ、大手を振って向かうことができる。
 10月の信州……。だいぶ寒くなってくる。冬の支度をしなくてはならない。こたつを用意したり、廊下にじゅうたんを敷いたり……といった用事がある。80歳代後半の母には無理なことだ。
 10月1日、まず僕の妻が行くことにした。列車の予約もとった。
 母親は毎日ではないが、家の掃除を頼んでいる。介護保険を利用している。たまたま掃除があった日、母は、東京から息子の嫁が来ると伝えた。するとこういわれたという。
「申し訳ないですが、それから2週間、掃除に来ることができなくなります。ルールなんです」
 母親も2週間、人に会うことができなくなってしまうのだという。母の家に訪ねてきそうな知り合いに連絡をしなくてはならない。
 そんなことってあるだろうか。
 調べてみてもはっきりしない。少なくとも国や県といったレベルの通達ではない。介護の世界のルールといったらいいだろうか。
 知人に訊くと、彼も悩んでいた。実家は仙台だという。10月に入り、実家に行くことを伝えると、同じ返事が返ってきたという。
「みつからなければいいんじゃない?」
 母に伝えると、地方ではそういかないという。監視をしているわけではないが、近隣の人々との関係は密だ。
「夜陰に紛れるようにいって、翌日の夜にこっそり帰るしかないわね」
 母はそういって、力なく笑った。
 新型コロナウイルスの感染はいまだ収まらない。しかし経済の減速を食い止めたいと、国は移動を勧める。ゴートゥーキャンペーンはそれなりの効果を生んでいるようで、連休の人出はかなりのものだった。
 遊びに行くのはいいが、いざ、実家にいる高齢者……という話になると、急に暗雲がたちこめてくる。都市と地方の問題が浮き彫りになってくる。
 母親は、「掃除を我慢するか、冬支度を遅らせるか……」の判断を迫られることになってしまった。結局、母は掃除を我慢することになった。
 新型コロナウイルスに限らず、感染症の流行は、社会の弱い部分を直撃する。抱えもっていた病巣があぶりだされる。ウイルスに人格はないが、その動きは的確である。
 これからがつらい……。多くの人が予感している。給付金も底をついた国は多い。日本も同様だ。今回のウイルスがこれほど長引くとは考えていなかった。世界は読み違えていた。そのしわ寄せが、日本は高齢化社会に向かい、アメリカは治安の悪化を引き出し、タイは軍事政権批判に向かっている。
 これからがつらい……。この言葉が現実味を帯びてきてしまった。

■YouTubeチャンネルをつくりました。「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg?view_as=public
観てみてください。面白そうだったらチャンネル登録を。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=沖縄の離島のバス旅がはじまります。
○旅をせんとやうまれけむ=つい立ち止まってしまうアジアのいまを。
○アジアは今日も薄曇り=沖縄の離島のバス旅シリーズがはじまります。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
  

Posted by 下川裕治 at 12:07Comments(0)

2020年09月21日

ユーチューブの収益、諦めました

 ユーチューブをはじめて1ヵ月半ほどがすぎた。知り合いのカメラマンと一緒につくったサイト。「下川裕治のアジアチャンネル」というタイトルをつけた。旅の動画を編集して公開している。
 ユーチューブは観る人が多いと、収益が生まれる。人気のユーチューバーは月収が100万円を超えるなど、なにかと話題になる。子供たちに、「大きくなったら、なにになりたい?」と訊くと、「ユーチューバー」という答えが返ることが多くなり、それも話題になった。
 ユーチューブには収益が生まれる条件がある。それはチャンネル登録者数が1000人以上で、総再生時間が4000時間を超えることと表記されている。チャンネル登録というのは、このサイトが気に入ったという意思表示のようなものだ。
 はじめて1ヵ月半がたち、なんとかその条件を満たしそうになってきた。そこで制作にかかわる3人で集まった。
「さて、これからどうしようか……」
 条件を満たしたところで収益は多くない。正確なところはわからないが、1000円単位。ネットの情報では、概算としてチャンネル登録が1万人で20万円というものもあった。
 1万人? 桁がひとつ違う。
 いくら頑張ってもチャンネル登録は1万人にはならないのではないか。僕ら3人は、ユーチューブで生きていくつもりはない。そんなタイプにとって、収益化はハードルが高すぎる。
 3人で膝をつき合わせた結論。それは収益を望まず、好きなサイトをつくっていくという方向だった。ユーチューブから収益……。それに固執すると、なんだか人気のユーチューブと同じ世界に入っていきそうな予感がしたからだ。そんな感性は3人にはなかった。
 ここまでユーチューブをやってよくわかったことがある。それはテレビという媒体をユーチューブは凌駕しつつあるということだ。よくいわれることだが、改めて実感した。
 サイトのなかで「コロナ禍のアジア」というコーナーがある。その動画を海外に住む知人に依頼した。知人たちの周囲には、しっかりと動画撮影の訓練を受けた人が多くいた。しかしそんな人たちに依頼する予算はない。要は素人動画がユーチューブの主流なのだ。
 ネットでブログが人気になったときと同じだった。原稿を書く訓練を受けていない人たちが、我流の文章をどんどん発表する場がブログだった。僕も含め、もの書きは批判的だった。訓練を受けたこと、いい文章を書くことに切磋琢磨する努力……その代償行為としての人の目に触れる文章を書く、という図式が崩れてしまうからだ。いままでの苦労はなんだったのか。そう唇を噛んだものだ。
 ところがいま、僕はネットでブログを書いている。同じことが、映像の世界で起きていた。素人動画がプロが撮った映像を席けんしつつあった。
 しかし何年か経ち、いい文章は、媒体の違いを関係なく評価されるという事実を知ることになる。映像の世界はその手前。浮足立った状況が続いている。

■YouTubeチャンネルをつくりました。「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg?view_as=public
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Posted by 下川裕治 at 11:42Comments(3)

2020年09月14日

コロナ禍の理不尽さでまた悩む

 新型コロナウイルスは人類に対して平等に悪さをする。その感染に、民族や貧富の差などない。世界の国々は、その感染を防ぐためにさまざまな方策をとっているが、そのなかにいる人間たちはあまりに不平等な環境に置かれる。それは理不尽にも映る。
 昨日、日本にいるバングラデシュ人たちと話をした。
 僕はバングラデシュ南部のコックスバザールの学校運営にかかわっている。バングラデシュは3月からロックダウンが続き、学校の休校も続いている。学校の先生たちの収入もなくなってしまい、急遽、日本でクラウドファンディングをはじめた。
https://a-port.asahi.com/projects/sazanpen_teacher/
 まだ途中だが、いただいた資金をどう支払っていったらいいのか、また、難しい問題を背負ってしまった。
 バングラデシュ人の口から出てきたのは、まず政府批判だった。ロックダウンを国は強いているが補償はほとんどない。融資の道はあるが、最終的には返済しなくてはいけない資金で、工場や商店の経営者は動かず、大量の失業者が出ているという。政府はそんな人たちに米の無料配布をはじめたが、その米も平等には配られていない。分配を担当する役人が転売する事態も起きているようだ。
 日本に暮らすバングラデシュ人は給付金を受けとっている。欧米各国がロックダウンに対して支払う補償も耳にしている。それに比べると、自分の国は……という論調に傾いてしまう。
 先進国とか、発展途上国といった表現をあまり使いたくない。しかし平等に襲われた新型コロナウイルスへの対応で、国というものを浮き彫りにさせてしまった。ここ数年のバングラデシュの発展には目を瞠るものがあった。このまま発展していけば……という期待はあった。ダッカのショッピングモールに入ると、もう発展途上国という枠組みを脱したのではないかと思うことすらあった。
 しかし新型コロナウイルスは、バングラデシュという国を一気に発展途上国に戻してしまった。政府や人々は、昔のままの民度を露呈させてしまった。
「皆、どうやって暮らしているの?」
「ごはんにガビっていうディップを載せて食べてるって友達はいっています。おかずはなしで我慢してるみたい」
 話は学校の先生の給料に及ぶ。給料がなくなってしまった人々が増えるなか、日本から送られる資金が先生に払われていく。
「先生たちの立場も微妙じゃないかな。ねたむ人が絶対に出てくるから」
「大きな額を送金しないほうがいいんじゃないかな。給料は半分ぐらいにするとか。コロナ禍なんだから」
 また悩まなくてはならない。

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Posted by 下川裕治 at 12:37Comments(0)

2020年09月07日

台風は陸地との相性が悪い

 那覇にいる。台風である。強い台風で、中心部の気圧は925ヘクトパスカルもある。
 沖縄に来る機会は多いから、台風には何回か遭遇している。とくに9月と10月。多い年は、毎週のように台風に見舞われる。沖縄の知人が話してくれたふたつの言葉を、強風に吹かれながら思い出す。
「935ヘクトパスカルより気圧が低い台風は怖いよ」
「沖縄では台風は弱くならず、強くなっていくさー」
 本土に暮らしていると、上陸した台風は急速に勢力を弱めていく。しかし沖縄は逆に勢力を強めていく。台風の側から見れば、沖縄は海と同じなのだろう。
 これだけ強い台風に何回も見舞われながらも、沖縄での犠牲者はそれほど多くない。沖縄は平坦な島が多く、川も少ない。川が氾濫するという水害が起きにくい。高い山もないから、土砂崩れの話もあまり聞かない。
 そう考えてみると、台風というものは陸地との相性が悪い。
 だからだろうか。沖縄の人々が台風を語るときの表情は暗くない。1日ほどで去っていくもので、その後はすっきりとした空が広がるからだ。それに比べると、本土の水害や土砂崩れは、台風が去った後も続く。床上まで浸水してしまったエリアは、その復旧に何ヵ月もかかる。家を放棄しなくてはいけないこともある。
 しかし沖縄の台風はとんでもないことを起こす。風が強いからだ。935ヘクトパスカルより気圧が低くなると怖いというのは、風が魔物のように襲いかかることがあるからだ。
 軽い車は簡単に動いてしまい、ときに横転する。思いもつかないものが、路上をころころと転がっていく。
 ときどき起きるのが、屋上にある給水タンクが風に飛ばされ、路上に落下し、転がってしまうこと。車を運転する人は、それを避けるように進まなくてはならない。
 ベランダにあるエアコンの室外機が飛ばされてしまうこともある。台風が去った後、室外機探しをしなくてはならなくなる。冷蔵庫もときに吹き飛ばされてしまうという。
 戦後、沖縄にはバラックづくりのような簡単な家が多かった。台風でその家が丸ごと飛ばされてしまい、翌日、家探しに奔走したという話も聞いたことがある。
 いま、沖縄を強風域に巻き込んでいる台風10号は、明日、九州の西側を北上しそうだ。台風はいつものように沖縄を通っていきそうだ。明日になると沖縄の日常が戻ってくる。新型コロナウイルスを予防しなくてはならない日常である。

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Posted by 下川裕治 at 12:54Comments(0)