2020年11月30日
休息のエネルギー
作家の大城立裕氏が亡くなった。先月、10月27日だった。95歳だった。
本棚にあった彼の本を抜き出す。付箋がいっぱい貼られ、書き込みも多い1冊。
『休息のエネルギー』(農文協)である。
僕は沖縄に関する書籍をかなり読んだが、そのなかでも読み込んだ1冊だった。小春日和が射し込む部屋で、原稿の締め切りがあるというのに、ついページをめくってしまった。
大城立裕氏は、「カクテル・パーティー」という作品で芥川賞をとった小説家である。しかし、『休息のエネルギー』は小説ではない。エッセイ集とも違う。彼の沖縄論といってもいい著作である。
大城氏は一貫して、沖縄は日本から差別されてきた……という主張を続けてきた。「カクテル・パーティー」にしても、その構造が流れている。太平洋戦争だけではなく、薩摩藩の支配、そして琉球処分と続く沖縄史の流れから、差別と被差別の関係を訴えてきた。
しかしその話を進めるためには、沖縄の文化を伝えなくてはならない。『休息のエネルギー』とはそういう本だ。僕はこの本から実に多くの沖縄を学んだ。沖縄のテキストといってもいいかもしれない。
僕はこの本ではじめて、「男逸女労」という言葉を知った。女が働き、男は遊んでいるという意味だ。「男ひとりを養えないようでは女とはいえない」といわれていたという。こんなエピソードも紹介されている。大城氏がある女流作家を市場に案内したときのことだ。その女流作家が、市場の女性に、ご主人はどうしているのか……と訊いた。するとこんな答えが返ってきた。
「子守をして遊んでますよ。アハハハ」
そこから大城氏は、沖縄の女性の自信と優しさに話を展開させていく。
大城氏は県庁で働いていた。あるとき、一本の電話がかかってきた。
「あのですね。日本の天皇が琉球音楽を盗もうとしていますが、どうしたらいいでしょうか」
電話の主はユタのようだった。ユタというのは、沖縄の霊媒師である。しかし彼女の不安を大城氏は分析していく。そこにあるのは日本復帰後の生活様式の変化だと。
沖縄とアメリカの関係にも言及する。そこから、休息のエネルギーという言葉が出てくる。「人間として、おたがいに休むときは平等にともに休んできた」……と。
この本が出たのは1987年である。僕は33歳だった。この本を読んで沖縄にはまっていったといってもいい。それまでの僕の頭のなかは、沖縄を差別してきた日本人のそれだった気がする。同情は差別と同じスタンスなのだ。日本の左翼が陥っていた沖縄への隘路だった。そこから解放させてくれたのが、『休息のエネルギー』だったのだ。
いま沖縄の本を書いている。大城氏の言葉が沁みる。
■YouTubeチャンネルをつくりました。「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg?view_as=public
観てみてください。面白そうだったらチャンネル登録を。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=芭蕉の「奥の細道」を辿る旅がはじまります。
○旅をせんとやうまれけむ=つい立ち止まってしまうアジアのいまを。
○アジアは今日も薄曇り=沖縄の離島のバス旅シリーズを連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
本棚にあった彼の本を抜き出す。付箋がいっぱい貼られ、書き込みも多い1冊。
『休息のエネルギー』(農文協)である。
僕は沖縄に関する書籍をかなり読んだが、そのなかでも読み込んだ1冊だった。小春日和が射し込む部屋で、原稿の締め切りがあるというのに、ついページをめくってしまった。
大城立裕氏は、「カクテル・パーティー」という作品で芥川賞をとった小説家である。しかし、『休息のエネルギー』は小説ではない。エッセイ集とも違う。彼の沖縄論といってもいい著作である。
大城氏は一貫して、沖縄は日本から差別されてきた……という主張を続けてきた。「カクテル・パーティー」にしても、その構造が流れている。太平洋戦争だけではなく、薩摩藩の支配、そして琉球処分と続く沖縄史の流れから、差別と被差別の関係を訴えてきた。
しかしその話を進めるためには、沖縄の文化を伝えなくてはならない。『休息のエネルギー』とはそういう本だ。僕はこの本から実に多くの沖縄を学んだ。沖縄のテキストといってもいいかもしれない。
僕はこの本ではじめて、「男逸女労」という言葉を知った。女が働き、男は遊んでいるという意味だ。「男ひとりを養えないようでは女とはいえない」といわれていたという。こんなエピソードも紹介されている。大城氏がある女流作家を市場に案内したときのことだ。その女流作家が、市場の女性に、ご主人はどうしているのか……と訊いた。するとこんな答えが返ってきた。
「子守をして遊んでますよ。アハハハ」
そこから大城氏は、沖縄の女性の自信と優しさに話を展開させていく。
大城氏は県庁で働いていた。あるとき、一本の電話がかかってきた。
「あのですね。日本の天皇が琉球音楽を盗もうとしていますが、どうしたらいいでしょうか」
電話の主はユタのようだった。ユタというのは、沖縄の霊媒師である。しかし彼女の不安を大城氏は分析していく。そこにあるのは日本復帰後の生活様式の変化だと。
沖縄とアメリカの関係にも言及する。そこから、休息のエネルギーという言葉が出てくる。「人間として、おたがいに休むときは平等にともに休んできた」……と。
この本が出たのは1987年である。僕は33歳だった。この本を読んで沖縄にはまっていったといってもいい。それまでの僕の頭のなかは、沖縄を差別してきた日本人のそれだった気がする。同情は差別と同じスタンスなのだ。日本の左翼が陥っていた沖縄への隘路だった。そこから解放させてくれたのが、『休息のエネルギー』だったのだ。
いま沖縄の本を書いている。大城氏の言葉が沁みる。
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2020年11月23日
ユダヤ人虐殺と感染症
自宅に引きこもっている。コロナ禍とは関係はない。長い原稿を書かなくてはならないからだ。僕の日常は、旅と引きこもりの繰り返しである。それは10年前、いや、20年前から変わらない。
原稿を書かなくてはいけないのだが、こういう時期は、本が輝きを増す。
『疫病と人類』(山本太郎著 朝日新書)をぱらぱらとめくってしまう。
そのなかで、14世紀に起きたユダヤ人大量虐殺に触れている。ペストが流行するなか、ユダヤ人が井戸に毒を投げ込んだという風評が広がる。それが虐殺の正当化につながる。
多くの庶民は、ユダヤ人から金を借りていた。そのとり立ては厳しく、妬みの感情が生まれる。そこにペスト禍。ユダヤ人を悪者にして、借金を棒引きにし、さらに妬みを晴らそうとする。ユダヤ人の処刑には、ペスト禍以前は善良な市民だった人たちが加わったという。
その内容を詳しくしりたくて、『ユダヤ人迫害史』(黒川知文著 教文館)を読む。
新型コロナウイルスの感染が広がるなか、人々はポストコロナに世界に明るい材料を求める。新しい生活スタイルに希望を託そうとする。それは当然のことだ。
しかしそこには、実現不可能な絵空ごとも多く含まれている。それに比べると、歴史はあまりに冷徹だ。
パンデミックの後、国家主義が台頭する傾向が強い。中世にヨーロッパで起きたペストの大流行を経て、教会は権威を失い、国家が前面に出てくる。そして大航海時代、植民地主義へとつながっていった。
直近の話でいえば、分断化した社会は、その溝をさらに深めていく可能性が高い。
マニラに住む知人がとzoomで話をする。フィリピンは世界で最も厳しいというわれる行動制限が敷かれている。いまでも深夜は外出禁止令だ。シャッターを閉めた飲食店もかなりある。失業者はすでに300万人を超えているという。そんな人たちは、ひとつ30円ほどのサバの缶詰だけをおかずにごはんという日々をすごしているという。フィリピンのある調査会社の調べでは、約30%が飢えを感じはじめているという。
この状態が続けばなにが起きるかわからない。新型コロナウイルスを抑え込んでいる国でも、分断はより深刻になりつつある。
ペスト禍のユダヤ人虐殺を過去のできごとと片づけられない状況にしだいに近づいている気がしないでもない。
政治家はコロナ禍のなかで厳しい規制に走りがちだ。規制を緩め、感染が広まることへの非難を避けようとするからだ。そしてこういう時期は、政治家への支持率はあまりさがらない。旗下結集効果という。
しかしそのなかで、分断や格差はますます広がっていく。それほど悲観に走らなくてもいいのかもしれないが。
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原稿を書かなくてはいけないのだが、こういう時期は、本が輝きを増す。
『疫病と人類』(山本太郎著 朝日新書)をぱらぱらとめくってしまう。
そのなかで、14世紀に起きたユダヤ人大量虐殺に触れている。ペストが流行するなか、ユダヤ人が井戸に毒を投げ込んだという風評が広がる。それが虐殺の正当化につながる。
多くの庶民は、ユダヤ人から金を借りていた。そのとり立ては厳しく、妬みの感情が生まれる。そこにペスト禍。ユダヤ人を悪者にして、借金を棒引きにし、さらに妬みを晴らそうとする。ユダヤ人の処刑には、ペスト禍以前は善良な市民だった人たちが加わったという。
その内容を詳しくしりたくて、『ユダヤ人迫害史』(黒川知文著 教文館)を読む。
新型コロナウイルスの感染が広がるなか、人々はポストコロナに世界に明るい材料を求める。新しい生活スタイルに希望を託そうとする。それは当然のことだ。
しかしそこには、実現不可能な絵空ごとも多く含まれている。それに比べると、歴史はあまりに冷徹だ。
パンデミックの後、国家主義が台頭する傾向が強い。中世にヨーロッパで起きたペストの大流行を経て、教会は権威を失い、国家が前面に出てくる。そして大航海時代、植民地主義へとつながっていった。
直近の話でいえば、分断化した社会は、その溝をさらに深めていく可能性が高い。
マニラに住む知人がとzoomで話をする。フィリピンは世界で最も厳しいというわれる行動制限が敷かれている。いまでも深夜は外出禁止令だ。シャッターを閉めた飲食店もかなりある。失業者はすでに300万人を超えているという。そんな人たちは、ひとつ30円ほどのサバの缶詰だけをおかずにごはんという日々をすごしているという。フィリピンのある調査会社の調べでは、約30%が飢えを感じはじめているという。
この状態が続けばなにが起きるかわからない。新型コロナウイルスを抑え込んでいる国でも、分断はより深刻になりつつある。
ペスト禍のユダヤ人虐殺を過去のできごとと片づけられない状況にしだいに近づいている気がしないでもない。
政治家はコロナ禍のなかで厳しい規制に走りがちだ。規制を緩め、感染が広まることへの非難を避けようとするからだ。そしてこういう時期は、政治家への支持率はあまりさがらない。旗下結集効果という。
しかしそのなかで、分断や格差はますます広がっていく。それほど悲観に走らなくてもいいのかもしれないが。
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2020年11月20日
【イベント告知】新刊「台湾の秘湯迷走旅」発売記念
下川裕治の新刊「台湾の秘湯迷走旅」発売を記念して、スライド&トークイベントを開催いたします。
詳細は以下です。
今回は、東京での◆下川裕治さんスライド&トークイベント◆新刊「台湾の秘湯迷走旅」発売記念のお知らせです。
◆下川裕治さんトークイベント◆
「知られざる台湾の秘湯・名湯を巡る旅」
-------------------------------
新刊『台湾の秘湯迷走旅』(双葉文庫)発売を記念して、旅行作家の下川裕治さんをお招きして、知られざる台湾の秘湯・名湯についてスライドを眺めながらたっぷりと語っていただきます。前作『新東京珍百景でチルする』では、「新東京珍百景探険隊」と称してカメラマンやライターの方々と一緒に、東京激坂、世界一広い?女子トイレ、高所ドア、日本一短い青信号、消えつつある海中電柱、海底人道トンネル、純粋階段など、謎があふれる知られざる東京の珍百景を写真を中心に紹介した下川さん。新刊は、温泉大国として知られる台湾の中でも、谷底や山奥に隠れるようにある超のつくような秘湯に、水先案内人である台湾在住の温泉通と、日本から同行したカメラマンとともに車で挑戦した過酷な温泉旅が綴られています。今回のイベントでは、一緒に取材した広橋腎蔵さん、中田浩資さんにも参加していただき、下川さんが台湾の秘湯を現地取材した際の苦労話や秘話など、本に書けなかった貴重なエピソードを交えながらお話していただきます。下川さんのファンの方はもちろん、台湾好きの方や台湾の知られざる秘湯に興味のある方ははぜひご参加ください!
※トーク終了後、ご希望の方には著作へのサインも行います。
-------------------------------
●下川裕治(しもかわゆうじ)
1954年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。新聞社勤務を経てフリーに。アジアを中心に海外を歩き、『12万円で世界を歩く』(朝日新聞社)でデビュー。以降、おもにアジア、沖縄をフィールドに、バックパッカースタイルでの旅を書き続けている。『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)、『「生き場」を探す日本人』『シニアひとり旅バックパッカーのすすめ アジア編』(ともに平凡社新書)、『ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅』(中経の文庫)など著書多数。
◆下川裕治さんブログ「たそがれ色のオデッセイ」
http://odyssey.namjai.cc/
-------------------------------
【開催日時】
・12月11日(木) 19:30 ~
(開場19:00)
【参加費】
各1000円※当日、会場入口にてお支払い下さい
【会場】
旅の本屋のまど店内
【申込み方法】
お電話、ファックス、e-mail、または直接ご来店のうえ、お申し込みください。
TEL&FAX:03-5310-2627
e-mail :info@nomad-books.co.jp
(お名前、ご連絡先電話番号、参加人数を明記してください)
※定員になり次第締め切らせていただきます。
【お問い合わせ先】
旅の本屋のまど TEL:03-5310-2627 (定休日:水曜日)
東京都杉並区西荻北3-12-10 司ビル1F
http://www.nomad-books.co.jp
主催:旅の本屋のまど
協力:双葉社
詳細は以下です。
今回は、東京での◆下川裕治さんスライド&トークイベント◆新刊「台湾の秘湯迷走旅」発売記念のお知らせです。
◆下川裕治さんトークイベント◆
「知られざる台湾の秘湯・名湯を巡る旅」
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新刊『台湾の秘湯迷走旅』(双葉文庫)発売を記念して、旅行作家の下川裕治さんをお招きして、知られざる台湾の秘湯・名湯についてスライドを眺めながらたっぷりと語っていただきます。前作『新東京珍百景でチルする』では、「新東京珍百景探険隊」と称してカメラマンやライターの方々と一緒に、東京激坂、世界一広い?女子トイレ、高所ドア、日本一短い青信号、消えつつある海中電柱、海底人道トンネル、純粋階段など、謎があふれる知られざる東京の珍百景を写真を中心に紹介した下川さん。新刊は、温泉大国として知られる台湾の中でも、谷底や山奥に隠れるようにある超のつくような秘湯に、水先案内人である台湾在住の温泉通と、日本から同行したカメラマンとともに車で挑戦した過酷な温泉旅が綴られています。今回のイベントでは、一緒に取材した広橋腎蔵さん、中田浩資さんにも参加していただき、下川さんが台湾の秘湯を現地取材した際の苦労話や秘話など、本に書けなかった貴重なエピソードを交えながらお話していただきます。下川さんのファンの方はもちろん、台湾好きの方や台湾の知られざる秘湯に興味のある方ははぜひご参加ください!
※トーク終了後、ご希望の方には著作へのサインも行います。
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●下川裕治(しもかわゆうじ)
1954年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。新聞社勤務を経てフリーに。アジアを中心に海外を歩き、『12万円で世界を歩く』(朝日新聞社)でデビュー。以降、おもにアジア、沖縄をフィールドに、バックパッカースタイルでの旅を書き続けている。『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)、『「生き場」を探す日本人』『シニアひとり旅バックパッカーのすすめ アジア編』(ともに平凡社新書)、『ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅』(中経の文庫)など著書多数。
◆下川裕治さんブログ「たそがれ色のオデッセイ」
http://odyssey.namjai.cc/
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【開催日時】
・12月11日(木) 19:30 ~
(開場19:00)
【参加費】
各1000円※当日、会場入口にてお支払い下さい
【会場】
旅の本屋のまど店内
【申込み方法】
お電話、ファックス、e-mail、または直接ご来店のうえ、お申し込みください。
TEL&FAX:03-5310-2627
e-mail :info@nomad-books.co.jp
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※定員になり次第締め切らせていただきます。
【お問い合わせ先】
旅の本屋のまど TEL:03-5310-2627 (定休日:水曜日)
東京都杉並区西荻北3-12-10 司ビル1F
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主催:旅の本屋のまど
協力:双葉社
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2020年11月16日
ポストコロナとは格差の時代?
2週続けて東北に向かった。先週は『奥の細道』を辿る旅で、仙台から石巻、一関、新庄といったルートを歩いた。今週は家族で秋田県の乳頭温泉にでかけた。
乳頭温泉への旅行は、Go Toトラベルである。新幹線や宿泊代がずいぶん安くなる。コロナ禍で打撃を受けた観光業界への支援策である。しかし訪ねるのは、メジャーな観光地に傾く。その世界ではGo Toトラベルで受けとるクーポンを簡単に使うことができる。
ちょっと戸惑ってしまった。先週は『奥の細道』を辿り、記事を書く旅だから、観光地ばかりを訪ねるわけではない。そういった街では、クーポンを使うことができる店があまり多くない。先週も書いたが、政府が勧めるキャンペーンは、旅ではなく旅行を対象としている。メジャーな観光地に行かないと、その恩恵はあまり受けられない。
先週、山形県の新庄市に2泊した。ひとり500円のクーポンを2枚もらった。カメラマンも同行していたから、ふたりで2000円。使うことができる店を調べた。近くにあったのは、駅前の2軒のチェーン店だった。
1日目はそのうちの1軒の鶏肉料理の店に行った。翌日は海鮮料理。宿で領収書を見てみると、ともに本社は東京。モンテローザだった。新庄まで来て……。クーポンに振りまわされしまう自分が切なかった。
それが地方都市の現実だった。観光客がそれほど多くない街の飲食店は、キャンペーンに積極的にはなれない。手続きをしても、観光客がそれほどやってこないのだから、恩恵には与れない。しかしチェーン店は違う。全国一律にキャンペーンを受け入れる。
少し前、『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』(光文社新書 樋口耕太郎著)という本を読んだ。
そのなかで酒税に触れている。沖縄の酒税といえば泡盛業界である。沖縄の本土復帰から41年間、泡盛業界は酒税の優遇措置をうけてきた。その額は約410億円にのぼる。しかし泡盛業界には大手から多くの零細企業まである。その業界に一律、酒税の優遇措置を与えると、大手がより多くの優遇を受けることになってしまう。
つまり援助によって、強いも企業はますます強くなり、弱い企業はますます弱くなるという構図が生まれてしまう。沖縄に貧困がなくならない理由である。
援助というものは、無神経に提供すると、そういう結果を生む。それが意図したものかどうかが難しいところなのだ。
Go TOトラベルもよく似ている。地元の小さな飲食店に援助は届かず、大手チェーン店に利益が集まっていってしまう。
Go TOトラベルを使って旅行をすると、その現実が手にとるように見えてしまう。
「結局、そういうことか?」
それがポストコロナの時代?
コロナ禍は格差をより広げてしまうのだろうか。
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乳頭温泉への旅行は、Go Toトラベルである。新幹線や宿泊代がずいぶん安くなる。コロナ禍で打撃を受けた観光業界への支援策である。しかし訪ねるのは、メジャーな観光地に傾く。その世界ではGo Toトラベルで受けとるクーポンを簡単に使うことができる。
ちょっと戸惑ってしまった。先週は『奥の細道』を辿り、記事を書く旅だから、観光地ばかりを訪ねるわけではない。そういった街では、クーポンを使うことができる店があまり多くない。先週も書いたが、政府が勧めるキャンペーンは、旅ではなく旅行を対象としている。メジャーな観光地に行かないと、その恩恵はあまり受けられない。
先週、山形県の新庄市に2泊した。ひとり500円のクーポンを2枚もらった。カメラマンも同行していたから、ふたりで2000円。使うことができる店を調べた。近くにあったのは、駅前の2軒のチェーン店だった。
1日目はそのうちの1軒の鶏肉料理の店に行った。翌日は海鮮料理。宿で領収書を見てみると、ともに本社は東京。モンテローザだった。新庄まで来て……。クーポンに振りまわされしまう自分が切なかった。
それが地方都市の現実だった。観光客がそれほど多くない街の飲食店は、キャンペーンに積極的にはなれない。手続きをしても、観光客がそれほどやってこないのだから、恩恵には与れない。しかしチェーン店は違う。全国一律にキャンペーンを受け入れる。
少し前、『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』(光文社新書 樋口耕太郎著)という本を読んだ。
そのなかで酒税に触れている。沖縄の酒税といえば泡盛業界である。沖縄の本土復帰から41年間、泡盛業界は酒税の優遇措置をうけてきた。その額は約410億円にのぼる。しかし泡盛業界には大手から多くの零細企業まである。その業界に一律、酒税の優遇措置を与えると、大手がより多くの優遇を受けることになってしまう。
つまり援助によって、強いも企業はますます強くなり、弱い企業はますます弱くなるという構図が生まれてしまう。沖縄に貧困がなくならない理由である。
援助というものは、無神経に提供すると、そういう結果を生む。それが意図したものかどうかが難しいところなのだ。
Go TOトラベルもよく似ている。地元の小さな飲食店に援助は届かず、大手チェーン店に利益が集まっていってしまう。
Go TOトラベルを使って旅行をすると、その現実が手にとるように見えてしまう。
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それがポストコロナの時代?
コロナ禍は格差をより広げてしまうのだろうか。
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2020年11月09日
東京歩きという空白
『新東京珍百景でチルする』(メディアパル刊)が発売になった。企画と撮影や原稿の一部を担当した。
僕は海外を紹介するガイドブックの編集にもかかわっている。新型コロナウイルスの感染拡大のなか、その種のガイドの発行は難しい。アジアのなかでは。観光目的での渡航ができないからだ。観光客を受け入れる業界も苦しんでいるが、ガイドブックの世界も青息吐息。そんな事情もあるのだが、企画の発端はむしろ国内旅行だった。政府の肝入りではじまったゴートゥートラベルへの不快感が生んだ本といってもいい。
ゴートゥートラベルを否定するつもりはない。コロナ禍のなか、日本の旅行業界は瀕死状態に陥った。それをなんとかしなくてはいけない意図はわかる。しかしそのシステムに違和感を覚えてしまった。
ゴートゥートラベルは旅なのか……という疑問符である。いや、正確にいうと、僕の旅との不協和音である。
旅行費用が安くなることはありがたい。しかしその恩恵を受けるには、IT系の旅行会社が企画する商品を買うという流れがベースにある。その日、どこまで辿り着くことができるのかがわからない僕の旅とは違う。ニュアンスの違いでいえば、旅行と旅の違いか。
僕の周りには、そんな感覚の持ち主が多いから、彼らと話しているなかから、東京の珍百景が浮かびあがってきた。
珍百景は観光地ではない。その場所を自分で探さなくてはならない。頼りになるのは、ガイドではなく足とグーグルマップという世界なのだ。
企画に心が動いたメンバーが、東京のなかを歩いた。あまりに勾配が急で通行止めになった坂。点灯時間が短すぎる信号。東京からとり残されてしまったような商店街……。
歩いた知人たちが中間報告を送ってきてくれた。
「これ、意外と面白い……」
珍百景を探し歩くという行為には旅が潜んでいたのだ。知らない街をとぼとぼ歩き、めざす光景を探す。この道だろうか。何回か、行きつ戻りつという非合理さ。そこで不思議な光景に出合ったときの妙な感動。
東京のなかにも、しっかりと旅があった。
僕は純粋階段を探した。純粋階段というのは、階段をあがってもなにもなく、ただ降りるしかない階段のことだ。まったく無用な存在なのだが、それをみつけたときには達成感があった。場所は僕の仕事場の近くだった。階段だけに注意を払いながら歩く日々を1週間。そこでまったく意味がない階段に出合った。それを前にしながら思ったものだ。
僕は旅をしていた……。
旅とはそういうものだと思う。有名温泉に安く泊まることも旅だが、そこには無意味な要素がない。旅の時間がつくる空白の時間がない。
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僕は海外を紹介するガイドブックの編集にもかかわっている。新型コロナウイルスの感染拡大のなか、その種のガイドの発行は難しい。アジアのなかでは。観光目的での渡航ができないからだ。観光客を受け入れる業界も苦しんでいるが、ガイドブックの世界も青息吐息。そんな事情もあるのだが、企画の発端はむしろ国内旅行だった。政府の肝入りではじまったゴートゥートラベルへの不快感が生んだ本といってもいい。
ゴートゥートラベルを否定するつもりはない。コロナ禍のなか、日本の旅行業界は瀕死状態に陥った。それをなんとかしなくてはいけない意図はわかる。しかしそのシステムに違和感を覚えてしまった。
ゴートゥートラベルは旅なのか……という疑問符である。いや、正確にいうと、僕の旅との不協和音である。
旅行費用が安くなることはありがたい。しかしその恩恵を受けるには、IT系の旅行会社が企画する商品を買うという流れがベースにある。その日、どこまで辿り着くことができるのかがわからない僕の旅とは違う。ニュアンスの違いでいえば、旅行と旅の違いか。
僕の周りには、そんな感覚の持ち主が多いから、彼らと話しているなかから、東京の珍百景が浮かびあがってきた。
珍百景は観光地ではない。その場所を自分で探さなくてはならない。頼りになるのは、ガイドではなく足とグーグルマップという世界なのだ。
企画に心が動いたメンバーが、東京のなかを歩いた。あまりに勾配が急で通行止めになった坂。点灯時間が短すぎる信号。東京からとり残されてしまったような商店街……。
歩いた知人たちが中間報告を送ってきてくれた。
「これ、意外と面白い……」
珍百景を探し歩くという行為には旅が潜んでいたのだ。知らない街をとぼとぼ歩き、めざす光景を探す。この道だろうか。何回か、行きつ戻りつという非合理さ。そこで不思議な光景に出合ったときの妙な感動。
東京のなかにも、しっかりと旅があった。
僕は純粋階段を探した。純粋階段というのは、階段をあがってもなにもなく、ただ降りるしかない階段のことだ。まったく無用な存在なのだが、それをみつけたときには達成感があった。場所は僕の仕事場の近くだった。階段だけに注意を払いながら歩く日々を1週間。そこでまったく意味がない階段に出合った。それを前にしながら思ったものだ。
僕は旅をしていた……。
旅とはそういうものだと思う。有名温泉に安く泊まることも旅だが、そこには無意味な要素がない。旅の時間がつくる空白の時間がない。
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○旅をせんとやうまれけむ=つい立ち止まってしまうアジアのいまを。
○アジアは今日も薄曇り=沖縄の離島のバス旅シリーズを連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
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Posted by 下川裕治 at
11:59
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