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ナムジャイブログ

2021年10月25日

僕の原稿は3610円?

 先月末、「アジアのある場所」(光文社)の発売を記念したトークイベントがあった。そのなかで海外旅行に話がおよび、僕流の観光客を隔離なしで受け入れる国のみつけ方の話をした。
 イベントの後の懇親会でこういわれた。
「下川さんの話、私の隣にいた男性はがんがんメモしていてました。海外に行こうと思ってる人には貴重な話ですもんね」
「原稿にしたら売れるんじゃないですか、noteなんかで」
 去年の夏頃だった。春から世界規模で新型コロナウイルスの感染が広まり、海外への旅は難しくなってしまった。しかし、多くの人が、流行はしばらくすれば収束し、日常が戻ってくるだろうと思っていた。実際、観光への依存度が高いエリアは、入国制限の緩和に動き出していた。そんな情報が届くたびに、僕はパソコンを開いた。日本政府がつくった感染症危険度情報を点検し、その国にある在外日本大使館が翻訳した緩和策の内容をチェックする。なんとかなりそうだったら、航空券や乗り継ぎを調べていく。トランジットすら認めない国もあったからだ。
1時、2時といった時刻まで原稿を書くのが僕の日常である。そこから先は、仮想海外旅行の時間になった。その頃は日本での感染が拡大し、飲食店でアルコール類を飲みにくい状況だった。僕は買い置きのウイスキーをちびちび飲みながら画面を眺めていたこともある。チェックすることが多いから1時間、2時間があっという間にすぎていく。
 仮想といっても、実際に行く前提だった。ドバイ、ヨルダンあたりは、航空券を買う直前だった。ところが急に雲行きが怪しくなってしまう。イギリスで変異が起きたといわれるコロナウイルスの感染が急速に広まりはじめる。ようやく出てきた海外旅行の動きは、ナメクジが角を隠すようになくなってしまった。11月だった。それまでの旅検索は水の泡に化してしまった。
 費やした時間? 300時間以上? コロナ禍だからできた無為の時間だった。
 労作といわれるとこそばゆいが、そこで身に着けた渡航可能な国探しは、感染が収束に向かうとまた使うことができる。
 その記事が売れる?
 たまたまnoteでクリックディープ旅の連載をはじめるところだった。制作を担当してもらっているカメラマンに訊いてみた。簡単に設定できるという。
「で、値段はいくらにします?」
「値段?」
「そう、原稿の値段。300円ぐらいとかが多いみたい」
 自分で自分の原稿に値段をつける……。はじめてである。自分の原稿というより、渡航国を探すノウハウ原稿だが、僕が書いたことはたしかだ。
「290円」
 にします。
 Note掲載から5日がすぎた。売り上げは3610円。これをどう評価したらいいのだろうか。

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Posted by 下川裕治 at 12:29Comments(0)

2021年10月18日

クリックディープ旅の連載再開

 朝日新聞社のサイトで長く続けてきたクリックディープ旅の連載が終わった。9月末が最終の配信だった。
 さて、今後どうしようか。
 この連載は僕が原稿を書き、阿部稔哉カメラマンと中田浩資カメラマンというふたりのカメラマンの写真で綴ってきた。3人でいろいろ話し合い、noteというサイトで連載を続けることにした。
 1回目が10月15日に公開された。
https://note.com/shimokawa_note
 書いているのはエチオピアとエジプトへの旅。1回目は日本からエチオピアのアディスアベバまでの飛行機旅が中心になる。ソウルの仁川国際空港を経由するエチオピア航空の旅である。
 成田国際空港、仁川国際空港、そしてアディスアベバのボレ国際空港が登場する。この違いは興味深かった。成田と仁川はよく似ていた。新型コロナウイルスへのさまざまな水際対策、そしてその混乱が、空港に残っている。スタッフは防護服姿だ。空港に緊張感が漂っていた。
 ところがアディスアベバのボレ空港からはコロナが消えていた。いや、正確にいうと、新型コロナウイルスの感染を防ごうとする緊張が消えていた。僕が目にした空港はあまりに普通だった。
 この違いは難だろうか。
 興味のある人は写真と、僕の文章を読んでみてほしい。連載は毎週になる。
 なぜnoteで? いろいろな人に相談したが、それがこれからの流れのような気がしたからだ。
 僕は新聞社や出版社から依頼を受け、原稿を書いて原稿料をもらうという流れのなかで生きてきた。本を書く仕事が多いが、それもこの流れのなかにある。
 クリックディープ旅の連載も同様だった。その原稿料を取材費にあて、本にまとめるという構造で進めてきた。
 noteで連載をはじめるということは、自分たちで連載をまとめ、そこから原稿料に相当するものを得ていくということになる。そう簡単にはいかないとは思っているが、それが出版界の「いま」という気がしなくもない。やはり不況は根深く、旅に関しては新型コロナウイルスはまったくの逆風である。
 しかしその選択のなかに、自由さを発見した。新聞社や出版社で原稿を書くときはさまざまな制約がある。それがときに原稿の面白さの足を引っ張る。新聞社や出版社のサイトは広告を主な収入源にしているため、その制約がいちばん大きいだろうか。
 今回、原稿を書きながら、その自由さが心地よかった。新聞社や出版社が入り込んでしまった隘路から抜け出たような気がした。
 原稿料という面では苦しい局面が続くだろう。しかしこれまでとは違う自由な筆致を読者は読みとってくれるとしたら、また新しい展開がある気がするのだ。

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Posted by 下川裕治 at 09:52Comments(0)

2021年10月11日

ミャンマーは内戦状態だと思う

 ミャンマーのクーデターから8ヵ月がたった。テレビや新聞で流れるミャンマーのニュースはめっきり少なくなってしまった。
 しかしミャンマーの状況が落ち着いてきているわけではない。ヤンゴンでは毎日、爆弾事件が起きている。地方では軍と地元の人々の戦闘が激化している。死者は機械で刻むように確実に増えている。
 軍の行動は残忍さを増している。軍に反抗し、不服上運動に加わって病院を去り、ボランティアで医療活動をしていた医師が、看護師とともに殺害された。以前、軍は不服従運動の医師らを検挙はしたが、命を奪いことはしなかった。
 全国には軍に反発する人民防衛軍(PDF)が組織されている。軍は密告者にその情報を集めさせ、人民防衛軍がいるという噂がたつ村を一気に焼き討ちにする。そのたびに多くの犠牲者が出る。遺体は山積みにされ、その周りには地雷が埋められる。行方不明者を探しにくる村民が地雷の犠牲者になってしまう。
 人民防衛軍は軍が運営する通信会社の鉄塔を爆破することが多い。これに対して、軍のトップのミンアウンラインは、
「軍の中心を攻めてこい」
 と挑発する。これが暫定とはいえ、政権を担う人間の言葉だろうか。ミャンマーは確実に内戦状態なのだ。
 ミャンマーの通貨、チャットの急落が止まらない。クーデター前は1ドル1300チャット前後を推移していたが、どんどん価値がさがり、10月には1ドル3000チャットという値がついたこともあった。価値は3分の1に近づいているわけだ。
 ミャンマーは生鮮品をのぞいて、輸入に頼っている部分が多い。単純に考えれば、輸入品の価格が3倍近くに値あがりしてしまうわけだ。その日、一時的に店舗を閉めたスーパーが多かったという。値札の付け替えが間に合わなかったのだ。
 クーデター後、仕事を失ったミャンマー人は多い。ただでさえ、現金収入が減っているところへの値あげである。ガソリン代は2倍を超えているという。
 人々の暮らしは困窮度を増している。しかし軍は国民の生活に責任を負おうとしない。
 軍は海外からの車の輸入を禁止した。表向きは外貨の流出を防ぐことだが、軍はその権力で密輸ができる。
「軍はそうやって私腹を肥やすだけ。昔の軍事政権時代と同じですよ」
 市民は冷淡な視線を向ける。
「私たちは少ない友人とやっていくことに慣れている」
 政権を掌握した軍のミンアウンラインはクーデター後にそういった。
 国際的な枠組みから離脱するしか軍が生きていく道はない。人々の生活はますます苦しくなり、経済は停滞し、若者には希望がなくなっていく。事態は深刻になる一方だ。運営するYouTubeでは、粘り強く現状を続けていくつもりだが。
 

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Posted by 下川裕治 at 17:38Comments(1)

2021年10月04日

薄気味悪い宣言の解除

 今日(10月3日)の東京は、気もちのいい秋晴れだった。湿度が低く、空が高かった。
 妻と娘は、北アルプスの涸沢の山小屋の予約がとれたといってでかけてしまった。僕も行こうかと思ったが、本の原稿の締め切りが迫っている。あと400字詰めの原稿用紙で50枚ぐらいだろうか。秋空を眺めながら原稿用紙を埋めていく1日である。
 10月1日から東京は、緊急事態宣言が解除された。最初の週末である。天気はやけにいい。多くの人が、行動規制がなくなった開放感を味わったのだろう。飲食店の酒類などにまだ規制が残っているが、緊急事態宣言解除という言葉だけで、深呼吸をしたくなる心境といったらいいだろうか。
 しかしそんな人々の心のなかは、少し複雑な気がする。緊急事態宣言の期間が長く、耐えることが日常になってきてしまったということもあるが、なぜ、こんなにも劇的に第5波が収束していったのか、誰にもわからないのだ。
 専門家はワクチン、人々の感染予防、人流の抑制、医療機関や高齢者施設での感染者の減少、気象などをあげているが、どれもぴんとこない。途中の報道では人流が増えていると盛んにいっていた。もっともわかりやすいのがワクチンだが、接種率が低い国でも急激に感染者が減少した。たとえばミャンマーがその例だろうか。
 そこで盛んにいわれるようになったのが、ウイルスの自壊説である。「エラー・カタストロフの限界」という考え方だ。
 変異株はウイルスが増殖するときの転写ミスで生まれる。そのひとつがデルタ株だったことは皆が知っている。
 デルタ株は増殖が早いことが報告されている。だから急速に感染者が増え、日本では第5波が生まれた。
 しかし増殖が早いということは、転写ミスも増えることを意味している。その結果、ある割合を超えると、生存に必要な遺伝子を壊してしまうのだという。
 しばらく前、東南アジアを中心に大変なことになったSARSウイルスは地球上から消えてしまった。その理由はわかっていない。世界規模で猛威をふるったスペイン風邪のウイルスも消えたが、永久凍土のなかから発掘された遺体からウイルスがみつけられた話は有名だ。つまりウイルスはパンデミックを起こして、最後には消えていくのか。
 ということはデルタ株は自壊する運命を背負っていたのだろうか。
 薄気味悪い世のなかだと思う。新型コロナウイルスに対して、根本的な部分での科学的な解明はない。つまりどうすればいいのか、人類は羅針盤をまだもっていない。しかしそこに緊急事態宣言といった人間がつくったルールがもち込まれ、そのさじ加減ひとつに右往左往することになる。そこからはみ出ると冷たい視線が向けられる社会がある。あるいは強い権力で抑え込み、それを社会構造の利点だと主張する。
 緊急事態宣言が終わるたびに、社会の未熟さを思い知らされてしまうのだ。

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Posted by 下川裕治 at 11:23Comments(0)