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ナムジャイブログ

2022年06月27日

コロナ禍の旅の最後に「感染」

 新型コロナウイルスに感染してしまった。感染力が強いオミクロン株になり、どこかで罹ってしまう気がしてはいたが……。
 6月24日の早朝にタイから帰国した。6月22日にバンコクでPCR検査を受け、陰性。
 6月23日にバンコクのスワンナプーム空港から羽田行きの飛行機に乗った。そして日本入国。PCR検査の陰性証明を見せるだけだから、それほど時間はかからなかった。到着から1時間ほどでターミナルを出た。
 バンコクで搭乗する前、さかんにMySOSで登録した方が入国がスムーズという情報が流れてきた。空港の混雑を日本政府は気にしていたのだろう。
 しかしできればMySOSは入れたくはなかった。これまで3回、このアプリにはプレッシャーをかけつづけられた。1日1回のビデオ通話、GPS機能を使い居場所を追跡されている。気もちがいいわけがない。できればMySOSとは無縁の帰国を望んだ。
 結局、MySOSのアプリを入れずに入国できた。朝に家に着き、昼頃まで寝た。起きると声が少し変だった。用事があったので少し外出し、夕方帰宅したが、猛烈に眠かった。3時間ほど寝、夕食を食べてまた寝た。
 寒気で目が覚めた。体温を測ると37度8分。解熱剤を飲むと、素直に熱はさがってくれたが、オミクロン株の不安は広がる。
 家にあった抗原検査キットで調べてみた。線が2本出た。陽性だった。
 翌朝、近くの内科医でもう一度、抗原検査を受けた。やはり陽性。
「罹っていると思って間違いないでしょう。保健所に伝えるので、その指示に従ってください」
 バンコクの空港か羽田空港、あるいは飛行機の機内か……。その日のうちに保健所から電話がかかってきた。待機、つまり隔離は10日間。自宅にするか、病院かホテルという選択肢があるといわれた。途中で変更もできる……というので、とりあえず自宅待機を選んだ。
 翌日、東京都からメールが届き、ラインを使った健康状態報告がはじまった。MySOSではなくてよかった。
 1年3ヵ月ほど前、コロナ禍ではじめて海外に出た。帰国後の健康状態報告はラインだった。その後、より多くの機能がついたアプリになったが、コロナ禍が収束に向かうなかで再びラインに戻ったわけだ。
 自覚症状は重くはなかった。25日の夕方、少し熱が出たが、解熱剤が面白いように効いた。今日(26日)は熱も出ていない。その代わり鼻水が出、少し喉が痛い。しかし苦痛というほどではない。
「風邪が治っていく感じ」
 それがよくわかる。これまで罹った風邪にそっくりの経緯……。
 コロナ禍の旅を5回繰り返してきた。タイにはじまり、北アフリカ、世界一周、カンボジア、そして今回、ラオスとバングラデシュをまわった。コロナ禍の旅はこれが最後だと思っていた。世界の状況をみると、ポストコロナに移行しつつある。
 その最後に罹ってしまった。
 そういうことか。
 10日間の自宅待機は、そのしめくくりということか。

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Posted by 下川裕治 at 12:45Comments(0)

2022年06月21日

蚊が舞い込んでくる家

 重たい雨が降りつづいている。前日の昼頃に降りはじめた雨がまだやまない。大きな雨粒が波のように街に降りかかる。
 バングラデシュのコックスバザール。3年ぶりである。新型コロナウイルスの感染が収まりつつあるなかで、ようやくバングラデシュ政府は外国人への扉を開けてくれた。
 この街にきて4日目になる。ほとんど雨のなかの日々だ。雨季のバングラデシュははじめてではないが、さすがに気が重くなる。
 2日前、世話になっているいる家の奥さんに洗濯を頼んだ。それがまだ乾かない。おそらく湿度は100パーセント近くになっている気がする。
 今日、ミャンマー国境の村にいってきた。4年前、この村に1週間滞在した。バングラデシュの村で暮らすという企画だった。竹で編んだ小屋のような家で暮らした。
 この一帯は、ミャンマーからのロヒンギャ難民のキャンプが集まっている。昨日聞いたところでは、最も大きいクトゥパロンのキャンプには、150万人近い難民が収容されているという。世界最大の難民キャンプだが、それはもうひとつの街である。人口100万人レベル……。それは中規模の街である。
 そんな関係から家探しは難航した。軍や警察の目が怖く、外国人に家を貸すことを多くの人がためらった。
 そのなかでひとり、チョーバージンさんというラカイン人が手を挙げてくれた。助かった。彼の村の家を探してきてくれたのだ。
 ミャンマー国境の村である。脇を流れる川の対岸はミャンマーだった。軍の管理は厳しいはずだった。知人とはいえ、彼の好意がありがたかった。
 しかし彼は昨年末に亡くなってしまった。黄疸だったという。60歳だった。ソフトシェルの養殖を手がけ、元気に働いていた。
 今日、彼の家を訪ねた。彼には3人の娘さんがいた。長女が日本に留学する話を進めていたが、新型コロナウイルスは彼女の夢を吹き飛ばしてしまった。そして彼の死。
 彼の家は静まり返っていた。出てきたのはいちばん下の娘さんだった。高校生だ。最後の試験が残っているが、雨で延期になっているといった。
 奥さんが出てきた。僕の顔を見たとたん、急に泣きはじめてしまった。夫の死から6ヵ月。悲しみの淵のなかにまだいた。話はほとんどできなかった。
 こんなにも落ち込むラカイン人を見たのははじめてだった。バングラデシュ南部には、少数仏教徒のラカイン族が暮らしている。ミャンマー系の人たちだ。チョーバーシンさん一家はラカイン人の家族だった。
 家のなかは暗く、なにもいえずに座っていると、何ヵ所か蚊に刺された。南国の害虫は体力が弱ってくると集まってくる。それは家にもいえるのかもしれなかった。にぎわいが消えた家に蚊が舞い込んでくる。
 家から出るとまだ重い雨が降りつづいていた。

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Posted by 下川裕治 at 09:38Comments(0)

2022年06月13日

誕生日のラオス列車旅

 いまバンコクにいる。金曜日にラオスから戻ってきた。ラオスが唐突に門を開いた。新型コロナウイルス対策で、堅く門を閉ざしていたのだが、5月、ワクチン接種証明だけで入国が可能になった。ビザもPCR検査もいらない。
 ラオスではラオス中国鉄道に乗ることが目的だった。ヴィエンチャンから中国国境のボーテンまでの422.4キロの鉄道である。昨年の12月に開通した。その先は中国になり、玉渓市まで玉磨線も同じ時期に開通。そこから昆明まではすでに鉄道がある。つまりヴィエンチャンから昆明までの鉄道が開通したわけだ。いまは中国が国境を閉じているが。
 この鉄道の開通で、シンガポールからマレーシア、タイ、ラオス、中国、ロシアを経てポルトガルまで世界最長の鉄道がつながったことになる。
 いまは新型コロナウイルスやウクライナ問題が障壁になっているが、いつか乗ってみたいとは思っている。その予行練習? そんな意味合いもあった。今回はヴィエンチャンからルアンパバーンまで乗ってみた。
 そこで味わった感覚……。この鉄道はあまりに中国だった。中国そのものといってもいい。駅舎は巨大で、鉄道は国家の権威という中国の発想が伝わってくる。大きな駅名表示はラオス語と中国語だけで英語はない。乗った列車は、中国の硬座車両だった。中国からもち込んだわけだ。
 しかし画期的な路線である。これまでヴィエンチャンからルアンパバーンまではバスでひと晩かかっていたが、わずか2時間半。早い列車なら2時間で着いてしまう。途中のヴァンヴィエンからルアンパバーンまでは本当にトンネルが多い。よくこれだけの鉄道を建設したものだと思う。
 もうわかっていると思うが、この鉄道は中国が建設した。一帯一路である。中国の腹づもりは旅客よりも貨物輸送にある気がする。ラオスの南につづくタイ、カンボジア、マレーシア、シンガポールに中国の物資を運び入れるルートである。
 そこにはラオスという小国の危うい綱渡りがある。「債務の罠」である。総工費は6700億円といわれ、その3割をラオスが負担したが、大半は中国からの借り入れなのだ。
 しかし乗客のラオス人の目は輝いている。ラオス初の本格的な鉄道である。それが中国人すら敬遠する硬座車両であっても、ルアンパバーンまで2時間ほどで着いてしまう。
 ルアンパバーンでは仏教の街である。そこで朝の托鉢を見たが、僧侶は食事を受けとる一方で、道沿いに並ぶ貧しい男や子供たちに菓子などを与えていた。
 外国人観光客が頼りだったルアンパバーンは、新型コロナウイルスで多くの失業者が出た。彼らを托鉢僧が支えるという構図を僕は描いてしまった。しかしどうも違うらしい。ルアンパバーンに暮らす方に訊いたところ、以前から僧侶は菓子などを子供に与えていたという。
「三輪空寂の仏教思想では」
 と教えられた。三輪はお布施を与えたり受けとったりする人や物のこと。空寂とは世界は空であるという仏教用語だ。つまり物をあげたり、もらったり、そして物への執着を止める思想である。
 そう思うと中国の一帯一路はあまりに無粋だ。欲の塊でもある。
 列車に乗った日は僕の誕生日だった。意図したわけではないが、68歳になった。
 シンガポールからポルトガルまでの長い列車旅を、僕の最後の長旅にしようかという思いはある。そんな旅の予行演習で出合ってしまった「三輪空寂」。ラオスがまた好きになった。

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Posted by 下川裕治 at 12:57Comments(0)

2022年06月06日

密航者の街の「国境」

 3月にタイのメーソートを訪ねた。ミャンマーとの国境に近い街だ。
 ミャンマーでクーデターを起こした軍の弾圧を逃れ、1日300人ものミャンマー人がタイに逃れてきている。その何割かはメーソートで息をひそめるように暮らしている。
 メーソートから国境まで行ってみた。途中にチェックポイントはなかった。つまり国境の川をこっそり渡ったミャンマー人は、メーソートまでは辿り着くことができる。
 しかしここからバンコクに行くのは難しいという。何重のもチェック体制が敷かれているのだ。
 これがタイの国境管理術だった。ミャンマーとタイの間の国境は長い。そこを管理するのはなかなか大変だ。そこでタイの中心部に行く道でブロックするわけだ。このほうが効率がいい。
 メーソートの街で密航者が多いエリアを歩いた。密入国だから立場は不安定だが、表情は暗くない。この街にいる限り命は危険に晒されることはない。
「そういうことか」
 アジア式国境の知恵に気づいた。いまさらながら。一方の国で争乱や弾圧が起きると、人々は越境し、その先の街に潜む。軍は越境してまでは攻め込まない。そこには対外的に認められた国境がある。そこを越えると、国と国という問題に発展してしまう。そのへんを巧みに使う。こうして民間人に犠牲者が出ることを防いできた。
 ウクライナに侵攻したロシアが起きした戦争は、領土戦争である。プーチンの頭のなかにあるのは、かつて強大だったロシアの地図だという。それをロシア人のナショナリズムに結びつけ、強引な領土拡大への支持に転化している。
 ロシアがしかけたものは領土戦争だから、アジア式国境感とは異質だが、そこにあるのは国境というものへの硬直感である。アジアのように表向きの国境と、その周辺に暮らす人々への柔軟さがない。
 かつての強大だったロシアの復権は、現代と過去の衝突である。ロシア人のなかにはソ連崩壊という屈辱感が流れている。しかしソ連から独立していった国々は、いまを生きようとしている。その焦点は国境というものになる。
 中国にも似た発想がある。一部の中国人の頭のなかには、清がいちばん強大だった地図が描かれているという。それをあてはめていくと、台湾は当然、中国のものになる。それどころは、韓国や北朝鮮、ベトナムやタイ、マレーシア、そしてカザフスタンなども中国の領土になるのだという。
 中国も清の時代の中盤から、ヨーロッパの列強に圧力に晒され、屈辱をなめてきた。それをとり戻していくことはナショナリズムをより強いものにする。香港返還後にみせた中国の強硬策は、中国の復権がベースにある。
 国境とは厄介なものだ。突き詰めると、人間の本質にぶつかってしまう。
「国境がなくなればどんなに平和になるでしょう」
 という発想もあれば、
「人は人を差別しないと生きていけない」
 という言葉もある。
 しかし、メーソートの越境者には笑顔がある。足場は限りなく危ういが。

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Posted by 下川裕治 at 15:17Comments(0)