2022年08月30日
コロナ禍を旅する──それも旅だった
8月30日にkindleの電子版で一冊の本が発売になる。
「コロナ禍を旅する タイ編」。添えられているのは、「試行錯誤のバンコク隔離紀行」というキャッチだ。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B9XMHCKP?ref_=pe_3052080_276849420
定価は480円。こういうことにあまり詳しくはないが、kindleのアンリミテッドに加入している人は自由に読むことができる。
僕の本は紙の本が発売され、それと同時に電子版が発売されるパターンが多い。あくまでも紙の本が主体だ。
今回は電子版がメインになる。最近は電子版も、希望すれば紙に印刷して届くようになってきた。オンデマンド形式で、1冊、1冊で対応する。その対応の準備も進めている。定価は1000円以下に抑えた。
2021年の春、僕はタイに向かった。新型コロナウイルスがまだ猛威をふるっている時期だった。
感染が広まってからほぼ1年、僕は海外に出ることができなかった。主に海外を舞台に旅の本を書いてきた僕は、羽をもがれた鳥のようなものだった。日本のなかでは、不要不急という言葉が席巻していく。感染拡大を防ぐために不要不急の行動を慎むという論調だった。
不要不急? その言葉の前で僕は悩みつづけた。わかりにくい言葉だった。曖昧な政治用語にも映った。
旅は不要不急の範疇だった。たしかに旅に出なくても人は死なない。しかし不要不急と既定された分野を生業にしてきた人にとっても不要不急なのか。そこで僕は立ち竦んでいた。それはミュージシャンも同じだったはずだ。コンサートは感染を拡大させる。しかし音楽で生きてきた人たちは収入の手段が絶たれる。それも不要不急なのか。
あの頃、僕は何回か高尾山に登った。東京都内から出ることも制限される風潮のなか、ぎりぎりの都内だった。登山道に汗を流しながら、旅が空まわりしていた。
欧米との温度差でも悩んだ。欧米ではほぼ自由な旅ができるのに、日本の政府が発表する感染危険情報は、ほとんどの国がレベル3だった。渡航の禁止なのだ。同じウイルスなのに、国の対応がこうも違う。世界の国々はウイルスを抑える共通の羅針盤をもっていなかったのだ。
そのなかでタイが扉を開きはじめた。条件は厳しかったが、渡航者受け入れに動いたのだ。その流れに僕は乗った。
旅が不要不急なものになることを受け入れたくなかった?
いや、旅に出たいだけ?
得体のしれない日本を背に飛行機に乗ることになる。300人級の大型機の座席に座るのはたった4人だったが。
タイへの旅。それは旅といえるようなものではなかった。タイで隔離2週間。日本で隔離が3日。隔離をするために海外にでたようなものだった。しかしいまの僕ははっきりといえる。
それも旅だった。
コロナ禍の旅のタイ編をまとめた。読んでみてほしい。今後、エジプト、エチオピア、世界一周、カンボジアとコロナ禍の旅を書き込んでいく。
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg
面白そうだったらチャンネル登録を。
■noteでクリックディープ旅などを連載。
https://note.com/shimokawa_note/。
○旅をせんとやうまれけむ=つい立ち止まってしまうアジアのいまを。
○アジアは今日も薄曇り=コロナ禍の海外旅行を連載中。
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
「コロナ禍を旅する タイ編」。添えられているのは、「試行錯誤のバンコク隔離紀行」というキャッチだ。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B9XMHCKP?ref_=pe_3052080_276849420
定価は480円。こういうことにあまり詳しくはないが、kindleのアンリミテッドに加入している人は自由に読むことができる。
僕の本は紙の本が発売され、それと同時に電子版が発売されるパターンが多い。あくまでも紙の本が主体だ。
今回は電子版がメインになる。最近は電子版も、希望すれば紙に印刷して届くようになってきた。オンデマンド形式で、1冊、1冊で対応する。その対応の準備も進めている。定価は1000円以下に抑えた。
2021年の春、僕はタイに向かった。新型コロナウイルスがまだ猛威をふるっている時期だった。
感染が広まってからほぼ1年、僕は海外に出ることができなかった。主に海外を舞台に旅の本を書いてきた僕は、羽をもがれた鳥のようなものだった。日本のなかでは、不要不急という言葉が席巻していく。感染拡大を防ぐために不要不急の行動を慎むという論調だった。
不要不急? その言葉の前で僕は悩みつづけた。わかりにくい言葉だった。曖昧な政治用語にも映った。
旅は不要不急の範疇だった。たしかに旅に出なくても人は死なない。しかし不要不急と既定された分野を生業にしてきた人にとっても不要不急なのか。そこで僕は立ち竦んでいた。それはミュージシャンも同じだったはずだ。コンサートは感染を拡大させる。しかし音楽で生きてきた人たちは収入の手段が絶たれる。それも不要不急なのか。
あの頃、僕は何回か高尾山に登った。東京都内から出ることも制限される風潮のなか、ぎりぎりの都内だった。登山道に汗を流しながら、旅が空まわりしていた。
欧米との温度差でも悩んだ。欧米ではほぼ自由な旅ができるのに、日本の政府が発表する感染危険情報は、ほとんどの国がレベル3だった。渡航の禁止なのだ。同じウイルスなのに、国の対応がこうも違う。世界の国々はウイルスを抑える共通の羅針盤をもっていなかったのだ。
そのなかでタイが扉を開きはじめた。条件は厳しかったが、渡航者受け入れに動いたのだ。その流れに僕は乗った。
旅が不要不急なものになることを受け入れたくなかった?
いや、旅に出たいだけ?
得体のしれない日本を背に飛行機に乗ることになる。300人級の大型機の座席に座るのはたった4人だったが。
タイへの旅。それは旅といえるようなものではなかった。タイで隔離2週間。日本で隔離が3日。隔離をするために海外にでたようなものだった。しかしいまの僕ははっきりといえる。
それも旅だった。
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Posted by 下川裕治 at
16:33
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2022年08月22日
入れ歯の連帯感
昨年の春、入れ歯をつくった。下の歯の左右で2個。安易な気もちでつくってしまったが、これが意外と大変な代物であることをいまになって知らされている。
子供の頃から歯が悪かった。歯科医からは歯の形がよくないといわれ、20歳の頃には奥歯のほとんどに治療が入っているありさまだった。
「これでは若くして総入れ歯ですよ」
という歯科医の忠告を受け、歯磨きに心を入れるようになった。その甲斐があったのだろうか、なんとか自分の歯のまま、60歳代を迎えたが、さすがに……。若い頃、治療したところが経年劣化というか、その土台の部分から弱くなり、ときに痛みが走るようになってしまった。
「もう入れ歯しかないですかね」
懇意にしている歯科医からいわれた。
かぶせた金属をはずし、そのなかの劣化した歯をとり、新しく2個の入れ歯が入ったのだが……。
僕は入れ歯に対して不勉強で、歯を入れたらもうそのままでいいかと思っていた。しかし毎日、入れ歯をはずして洗わなくてはならないことを知った。
「入れ歯というものはそういうものなのか」
年をとるごとにやることが増えていく。
入れ歯を装着するときも、最初はどうしてもフィットしない。微調整を繰り返して、なんとなく違和感のない感覚に辿り着くという手順を踏む。
ちょうどその頃、エチオピアとエジプトに行くことになった。まだ違和感は残っている状態だった。長く装着していると、なんとなく歯疲れというか、はずしたい思いが募ってくる。
エチオピア航空に乗った。コロナ禍のフライトで、成田空港から乗った飛行機はソウルを経由し、アディスアベバに向かった。
11時間もかかる長いフライトである。機内映画を2本観ても、まだ空の上だ。機内食は2回出た。コロナ禍だから機内は混みあっていない。体を横にすることができる。
僕はややきついひとつの入れ歯をはずし、ティッシュペーパーにくるんでテーブルの上に置き、体を横にして眠った。
機内放送で目が覚めた。入れ歯を装着しようとした。ところが歯がない。寝ている間に転がり落ちてしまったのだろうか。客室乗務員がゴミだと思って回収してしまった? 床の上を丹念に探したらみるからない。
「どうしようか。諦めるしかないか」
同時にふたつの入れ歯をつくったので、ひとつがいくらわからないが、4000円ぐらいはかかる気がする。
すると、通路を挟んで斜め前に座っていた韓国人の初老の男性が、僕の入れ歯を手に僕のところまでやってきてくれた。どうもティッシュペーパーがとれ、転がっていたようだった。
自分の入れ歯をこういうのもなんだが、あまり気もちがいいものではない。歯肉に似せたピンク色の台に歯と金属製の留め具がついている。韓国人の男性は、それを手渡しながら優しく笑った。
その瞬間、この男性も入れ歯を入れているのに違いないと思った。コロナ禍でもアフリカに働きに行かなくてはならない韓国人のビジネスマン。食事の後はいつも入れ歯を洗っているのだろう……。入れ歯組だけがわかる妙な連帯感。年よりは年より同士で支えあうということか。
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg
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子供の頃から歯が悪かった。歯科医からは歯の形がよくないといわれ、20歳の頃には奥歯のほとんどに治療が入っているありさまだった。
「これでは若くして総入れ歯ですよ」
という歯科医の忠告を受け、歯磨きに心を入れるようになった。その甲斐があったのだろうか、なんとか自分の歯のまま、60歳代を迎えたが、さすがに……。若い頃、治療したところが経年劣化というか、その土台の部分から弱くなり、ときに痛みが走るようになってしまった。
「もう入れ歯しかないですかね」
懇意にしている歯科医からいわれた。
かぶせた金属をはずし、そのなかの劣化した歯をとり、新しく2個の入れ歯が入ったのだが……。
僕は入れ歯に対して不勉強で、歯を入れたらもうそのままでいいかと思っていた。しかし毎日、入れ歯をはずして洗わなくてはならないことを知った。
「入れ歯というものはそういうものなのか」
年をとるごとにやることが増えていく。
入れ歯を装着するときも、最初はどうしてもフィットしない。微調整を繰り返して、なんとなく違和感のない感覚に辿り着くという手順を踏む。
ちょうどその頃、エチオピアとエジプトに行くことになった。まだ違和感は残っている状態だった。長く装着していると、なんとなく歯疲れというか、はずしたい思いが募ってくる。
エチオピア航空に乗った。コロナ禍のフライトで、成田空港から乗った飛行機はソウルを経由し、アディスアベバに向かった。
11時間もかかる長いフライトである。機内映画を2本観ても、まだ空の上だ。機内食は2回出た。コロナ禍だから機内は混みあっていない。体を横にすることができる。
僕はややきついひとつの入れ歯をはずし、ティッシュペーパーにくるんでテーブルの上に置き、体を横にして眠った。
機内放送で目が覚めた。入れ歯を装着しようとした。ところが歯がない。寝ている間に転がり落ちてしまったのだろうか。客室乗務員がゴミだと思って回収してしまった? 床の上を丹念に探したらみるからない。
「どうしようか。諦めるしかないか」
同時にふたつの入れ歯をつくったので、ひとつがいくらわからないが、4000円ぐらいはかかる気がする。
すると、通路を挟んで斜め前に座っていた韓国人の初老の男性が、僕の入れ歯を手に僕のところまでやってきてくれた。どうもティッシュペーパーがとれ、転がっていたようだった。
自分の入れ歯をこういうのもなんだが、あまり気もちがいいものではない。歯肉に似せたピンク色の台に歯と金属製の留め具がついている。韓国人の男性は、それを手渡しながら優しく笑った。
その瞬間、この男性も入れ歯を入れているのに違いないと思った。コロナ禍でもアフリカに働きに行かなくてはならない韓国人のビジネスマン。食事の後はいつも入れ歯を洗っているのだろう……。入れ歯組だけがわかる妙な連帯感。年よりは年より同士で支えあうということか。
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2022年08月15日
老いというものが少しわかってきた
北アルプスの唐松岳に登った。昨日の朝は山頂近くの小屋にいた。台風が迫っているというにに、眼前の剣岳はくっきりと見えた。山の天気はわからない。昨日は山の神が雲を払いのけてくれたような天気だった。
唐松岳は初心者向きの山だ。白馬からゴンドラやリフトを乗り継いでいけば、標高1400メートル地点まであがってしまう。そこから唐松岳まで1200メートルほどの標高差を登っていくことになる。
しかし山に登る前夜、気分はかなり落ち込んでいた。自分で決めておきながら、登りたくないという方向に針が大きく振れる。雨が激しくなったらどうしようか。膝は大丈夫だろうか。途中でバテてしまったら……。
山に登る前はいつもこんな不安に苛まれるものだ。それは若い頃も同じだったが、年をとるにつれ、その不安が増大してきた。山に登ることが億劫だという意識が強くなってきた気がする。
そんな思いを抱えながらゴンドラやリフトに乗る。天気はあまりよくない。霧が激しく動いていく。リフトの終点まで着き、登山靴の紐を締め直し、登山道を歩きはじめる。
そのとたん、不安は一気に消えていく。歩けるじゃないか……といった安堵とは違う。岩に足を乗せ、体を持ちあげる。小石が多い斜面をゆっくり登る。心のなかでは、
「ゆっくり、ゆっくり。焦らずに登ろう。このまま歩けば、きっと山頂に着く」
と繰り返している。山登りに集中しているといったらいいだろうか。若い頃、山に登っていたときの感覚が戻ってくるのだ。
つまり登りはじめれば、「山に入ってよかったじゃないか」という意識にすぐに移行するのだが、そこまでの壁が、年をとるごとに高くなってきている気がするのだ。
老いとはそういうことなのかもしれない。
その壁が年をとるごとに高くなり、最後には越えることが難しくなる。体力の問題というより意識が萎えていく。そして僕は山というものから遠ざかっていくことになる。
実は旅に出る前にも、同じような感覚に襲われる。億劫なのだ。今年にはいり、カンボジアやラオス、バングラデシュを訪ねているが、いつも旅に出る前は気が重い。昔からそういうところがあったが、登山同様、その意識が強くなってきている。
僕は旅行作家といわれている。その人間が旅に出ることへの壁に苛まれる。しかし飛行機に乗り、旅がはじまると、その壁は嘘のように消えていってしまう。昔の旅がすっと戻ってくる。旅をつづけることに入り込んでしまえばなんの問題もなくなる。
しかしその壁は、これから年を追って高くなっていくのだろう。老いとの闘いとは、そのあたりに収斂されてくるような気がする。
1週間後にはタイ向かう。その前で僕は落ち込んでいくのだろう。そしてかろうじてその壁を越えて旅ははじまる。それを繰り返していく……。老いというものが少しわかってきた。
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」。
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唐松岳は初心者向きの山だ。白馬からゴンドラやリフトを乗り継いでいけば、標高1400メートル地点まであがってしまう。そこから唐松岳まで1200メートルほどの標高差を登っていくことになる。
しかし山に登る前夜、気分はかなり落ち込んでいた。自分で決めておきながら、登りたくないという方向に針が大きく振れる。雨が激しくなったらどうしようか。膝は大丈夫だろうか。途中でバテてしまったら……。
山に登る前はいつもこんな不安に苛まれるものだ。それは若い頃も同じだったが、年をとるにつれ、その不安が増大してきた。山に登ることが億劫だという意識が強くなってきた気がする。
そんな思いを抱えながらゴンドラやリフトに乗る。天気はあまりよくない。霧が激しく動いていく。リフトの終点まで着き、登山靴の紐を締め直し、登山道を歩きはじめる。
そのとたん、不安は一気に消えていく。歩けるじゃないか……といった安堵とは違う。岩に足を乗せ、体を持ちあげる。小石が多い斜面をゆっくり登る。心のなかでは、
「ゆっくり、ゆっくり。焦らずに登ろう。このまま歩けば、きっと山頂に着く」
と繰り返している。山登りに集中しているといったらいいだろうか。若い頃、山に登っていたときの感覚が戻ってくるのだ。
つまり登りはじめれば、「山に入ってよかったじゃないか」という意識にすぐに移行するのだが、そこまでの壁が、年をとるごとに高くなってきている気がするのだ。
老いとはそういうことなのかもしれない。
その壁が年をとるごとに高くなり、最後には越えることが難しくなる。体力の問題というより意識が萎えていく。そして僕は山というものから遠ざかっていくことになる。
実は旅に出る前にも、同じような感覚に襲われる。億劫なのだ。今年にはいり、カンボジアやラオス、バングラデシュを訪ねているが、いつも旅に出る前は気が重い。昔からそういうところがあったが、登山同様、その意識が強くなってきている。
僕は旅行作家といわれている。その人間が旅に出ることへの壁に苛まれる。しかし飛行機に乗り、旅がはじまると、その壁は嘘のように消えていってしまう。昔の旅がすっと戻ってくる。旅をつづけることに入り込んでしまえばなんの問題もなくなる。
しかしその壁は、これから年を追って高くなっていくのだろう。老いとの闘いとは、そのあたりに収斂されてくるような気がする。
1週間後にはタイ向かう。その前で僕は落ち込んでいくのだろう。そしてかろうじてその壁を越えて旅ははじまる。それを繰り返していく……。老いというものが少しわかってきた。
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2022年08月09日
土曜の夜はまったり旅ばなし
東京の西荻窪にある「旅の本屋のまど」で土曜の夜、YouTubeでライブをやることになった。「土曜の夜はまったり旅ばなし」。隔週の予定だ。
この書店は旅の本ばかりが並んでいる。旅のガイドはあまり置かれていない。つまり、旅の読み物が中心と思えばいい。
店長は川田さん。彼も旅人である。このふたりで、旅ばなしをしようというライブだ。
きっかけ? やはり新型コロナウイルスかもしれない。この書店では、僕の新刊が発売になると、トークイベントを開かせてもらっていた。コロナ禍では、それもままならいこともあった。参加人数を制限したり……ということもあった。
しかし僕らが気になっていたのは、旅というものへのトーンが落ちてきていることだった。コロナ禍前は、年に2回、3回と海外に出ていた人たちの旅が封印された。旅は不要不急のものという烙印が捺された。
はじめは旅に出たくてうずうずしていた意識が、しだいに沈静化し、旅がない日常にセッティングされていく。そんな2年間、いや3年近い年月だったのだ。
新型コロナウイルスが収束に向かういまになっても、一度、引っ込んでしまった旅心がなかなか立ちあがらない。そんな人に向けて旅ばなしをしようと思ったのだ。
実は7月30日、トライアルのつもりでライブをやってみた。宣伝もあまりしなかったのだが、1000人を超える人たちが視聴してくれた。そこで隔週でやっていこうという方向が固まっていった。
前回はラオスがテーマだった。ラオスのゲストハウスは、フロントに立っても、なかなか宿の人が出てこない。そこで何分待つことができる? そこから旅人の資質のような話に広がっていった。
そのなかで、旅のYouTubeと旅の本という話になった。いまや旅の本より、旅のYouTubeという時代。それがどういうことなのか。
2回目は8月13日の夜8時半からのライブになる。そのテーマは、「こんなタイプは旅に出ないほうがいい」。僕らなりに、旅のYouTubeと旅の本の違いのようなものの話をしようと思う。そもそも旅人の資質とはいったいなんだろう。話の入口は、「どうやって旅のトラブルを避けていくか」。そこからわかる旅資質のような話……。視聴者の心に届くかどうか。いまから不安だが。
このライブでは、川田さんがおすすめの旅本も紹介する。
今日、ライブを予約した。
https://youtu.be/P2hV4aXtWvY
ほぼ1週間先だが、土曜の夜、ビールでも飲みながら視聴してみてください。YouTubeなので無料です。
少しでも旅心を思い出してくれればいいのだが。
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg
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この書店は旅の本ばかりが並んでいる。旅のガイドはあまり置かれていない。つまり、旅の読み物が中心と思えばいい。
店長は川田さん。彼も旅人である。このふたりで、旅ばなしをしようというライブだ。
きっかけ? やはり新型コロナウイルスかもしれない。この書店では、僕の新刊が発売になると、トークイベントを開かせてもらっていた。コロナ禍では、それもままならいこともあった。参加人数を制限したり……ということもあった。
しかし僕らが気になっていたのは、旅というものへのトーンが落ちてきていることだった。コロナ禍前は、年に2回、3回と海外に出ていた人たちの旅が封印された。旅は不要不急のものという烙印が捺された。
はじめは旅に出たくてうずうずしていた意識が、しだいに沈静化し、旅がない日常にセッティングされていく。そんな2年間、いや3年近い年月だったのだ。
新型コロナウイルスが収束に向かういまになっても、一度、引っ込んでしまった旅心がなかなか立ちあがらない。そんな人に向けて旅ばなしをしようと思ったのだ。
実は7月30日、トライアルのつもりでライブをやってみた。宣伝もあまりしなかったのだが、1000人を超える人たちが視聴してくれた。そこで隔週でやっていこうという方向が固まっていった。
前回はラオスがテーマだった。ラオスのゲストハウスは、フロントに立っても、なかなか宿の人が出てこない。そこで何分待つことができる? そこから旅人の資質のような話に広がっていった。
そのなかで、旅のYouTubeと旅の本という話になった。いまや旅の本より、旅のYouTubeという時代。それがどういうことなのか。
2回目は8月13日の夜8時半からのライブになる。そのテーマは、「こんなタイプは旅に出ないほうがいい」。僕らなりに、旅のYouTubeと旅の本の違いのようなものの話をしようと思う。そもそも旅人の資質とはいったいなんだろう。話の入口は、「どうやって旅のトラブルを避けていくか」。そこからわかる旅資質のような話……。視聴者の心に届くかどうか。いまから不安だが。
このライブでは、川田さんがおすすめの旅本も紹介する。
今日、ライブを予約した。
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ほぼ1週間先だが、土曜の夜、ビールでも飲みながら視聴してみてください。YouTubeなので無料です。
少しでも旅心を思い出してくれればいいのだが。
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2022年08月01日
汚れっちまったコロナ禍に
今日、4回目のワクチンを接種した。接種会場の椅子に座りながら、中原中也の「汚れっちまった悲しみに……」という詩を思い出していた。
「汚れっちまった悲しみに
なすところもなく日が暮れる……」
その一文をもじれば、
「汚れっちまったコロナ禍に
なすところもなく日が暮れる……」
そんな心境だろうか。
これから接種した場所が少し腫れ、どのくらいなのか熱が出る。そして市販の解熱剤を飲んでという経緯も織り込まれている。もう4回目なのだ。
はじめてワクチンを接種したのは去年の5月だった。そのときは、社会に緊張感が漂っていた。どこなら早く接種できる……という情報が乱れ飛び、そのなかで接種した人は得意げな面もちだった。
僕も家人から大手町の大規模接種センターのほうが早いといわれ、予約を入れた。接種会場は、大学を卒業して勤めた新聞社の近くで、少し懐かしかった記憶がある。
僕の接種した日は、予約システムにトラブルが生まれ、会場の外に長い列ができた。テレビ局がその様子を撮影していた。
1回目の接種後に6月の2回目の予約を入れた。2回目も大手町だった。
あの頃、ワクチンはウイルスから体を守る救世主のように崇められていた……といったら少しオーバーだろうか。
僕は海外に住む知人が多いから、しきりと連絡が入った。なかなかワクチンが接種できない国や、接種できても中国製という国が多く、なんとか日本でモデルナかファイザーのワクチンが接種できないか、という問い合わせだった。その文面からは焦りも伝わってきた。ワクチンを早く接種しないと、ウイルスに感染して死んでしまうといった思いが、メールの行間に漂っていた。
去年の秋、日本はワクチン接種をめぐってのドタバタがつづいていたが、ウイルスは変異を繰り返し、デルタ株が猛威をふるい、結局僕は今年の1月、3回目の接種を受けることになる。海外に出向くときも、このワクチン接種証明は必須書類になっていく。ヨーロッパを訪ねたときは、まるで水戸黄門の印籠のように、さまざまな場所で差し出すことになった。
そして今年の6月、僕はしっかりと新型コロナウイルスに感染してしまう。ワクチンがつくる抗体はそれほど長つづきしないのか、変異種はその間をかいくぐるのか……原因もわからないまま自宅待機を強いられてしまった。
この1年の間に、ワクチンへの期待は少しずつ薄れていった。しかし人間は、さまざまな手法でウイルスと闘った。そこに沈めば沈むほど、その過去は浮き立ってくる。だから失敗などではなく、「汚れっちまった……」感が募ってくる。
これからも何回かワクチンを接種していく気がする。そのたびに、「汚れっちまった悲しみに……」と繰り返すのだろうか。
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なすところもなく日が暮れる……」
その一文をもじれば、
「汚れっちまったコロナ禍に
なすところもなく日が暮れる……」
そんな心境だろうか。
これから接種した場所が少し腫れ、どのくらいなのか熱が出る。そして市販の解熱剤を飲んでという経緯も織り込まれている。もう4回目なのだ。
はじめてワクチンを接種したのは去年の5月だった。そのときは、社会に緊張感が漂っていた。どこなら早く接種できる……という情報が乱れ飛び、そのなかで接種した人は得意げな面もちだった。
僕も家人から大手町の大規模接種センターのほうが早いといわれ、予約を入れた。接種会場は、大学を卒業して勤めた新聞社の近くで、少し懐かしかった記憶がある。
僕の接種した日は、予約システムにトラブルが生まれ、会場の外に長い列ができた。テレビ局がその様子を撮影していた。
1回目の接種後に6月の2回目の予約を入れた。2回目も大手町だった。
あの頃、ワクチンはウイルスから体を守る救世主のように崇められていた……といったら少しオーバーだろうか。
僕は海外に住む知人が多いから、しきりと連絡が入った。なかなかワクチンが接種できない国や、接種できても中国製という国が多く、なんとか日本でモデルナかファイザーのワクチンが接種できないか、という問い合わせだった。その文面からは焦りも伝わってきた。ワクチンを早く接種しないと、ウイルスに感染して死んでしまうといった思いが、メールの行間に漂っていた。
去年の秋、日本はワクチン接種をめぐってのドタバタがつづいていたが、ウイルスは変異を繰り返し、デルタ株が猛威をふるい、結局僕は今年の1月、3回目の接種を受けることになる。海外に出向くときも、このワクチン接種証明は必須書類になっていく。ヨーロッパを訪ねたときは、まるで水戸黄門の印籠のように、さまざまな場所で差し出すことになった。
そして今年の6月、僕はしっかりと新型コロナウイルスに感染してしまう。ワクチンがつくる抗体はそれほど長つづきしないのか、変異種はその間をかいくぐるのか……原因もわからないまま自宅待機を強いられてしまった。
この1年の間に、ワクチンへの期待は少しずつ薄れていった。しかし人間は、さまざまな手法でウイルスと闘った。そこに沈めば沈むほど、その過去は浮き立ってくる。だから失敗などではなく、「汚れっちまった……」感が募ってくる。
これからも何回かワクチンを接種していく気がする。そのたびに、「汚れっちまった悲しみに……」と繰り返すのだろうか。
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