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ナムジャイブログ

2022年09月26日

静かに食べるという美意識

 最寄り駅の前に深夜まで営業しているそば屋がある。帰りが遅くなったときに寄ることがあるが、そこで食べている客が発する音が気になることがある。
 そばは食べるとき、ズルッという啜る音がする。それが気になるわけではない。僕の耳に届くのは、「くちゃ、くちゃ」という音なのだ。見ると、啜る音ではなく、口から聞こえてくる。そばを咀嚼している音である。
 こういう人を、俗にクチュラーというらしい。躾といった世界でもなさそうで、鼻が悪く、口で呼吸する人に多いという。たしかにクチュラーは若い人というより、中年の男性が多い気がする。
 その音への反応にも個人差があるようで、僕はどうも気になってしまうタイプらしい。
 明日、タイのバンコクに向かう。
 昔から思うのだが、タイ人の食べ方は美しいと思う。そして音がしない。クチュラーに出会ったこともない。
 クイッティオというそばを啜るときも音をたてない。箸のもち方も妙に正しい。どこか楚々とした風情が伝わってくる。
 これは東南アジア全域にいえることだと思う。カンボジア、ラオス、ミャンマー……。どこも食べ方がきちんとしている。静かに食べる。タイ人の家庭をいくつか見てきたが、躾が特別に厳しい様子もないのだが。
 タイで日本風のラーメン屋に日本人の知人と入ったことがある。隣のタイ人女性が、麺をレンゲに載せて口に運んでいた。
「あれでおいしいんだろうか。ラーメンはやっぱり、丼から麺をずるずる啜らないと」
 知人はそういった。
 以前、タイでテレビを見ていると、貧しい子供たちに食事を提供しているという企業のPRが流れた。皿に盛られたご飯におかずが載せられ、痩せた少年が食べるシーンが映しだされた。
 腹が減っている設定だと思うが、少年は物静かにゆっくりと食べる。空腹を満たすためにがっつくような演出はしていなかった。
 それがタイ人の美意識にも映った。むさぼるように食べるシーンを流すと、視聴者から反感を買う……と。食べるものもない環境に置かれてしまった少年を助けるというストーリーである。日本人ディレクターなら、無心に食べるシーンを撮った気がする。
 食べ方という視点で眺めれば、中国人のそれは荒い。中国でもクチュラーには出会っていないが、食べ方だけを見ると品がない。東南アジアの対極にあるのが中国といったところだろうか。その中間にいるのが日本?
 タイへ行くのは、「歩くバンコク」の制作のためだ。店で食事をする機会が多くなる。あの楚々とした食べ方の世界に入っていくかと思うと、少し気が楽になる。


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Posted by 下川裕治 at 12:06Comments(0)

2022年09月20日

【新刊プレゼント】沖縄の離島 路線バスの旅

下川裕治の新刊発売に伴う、プレゼントのお知らせです。

【新刊】沖縄の離島 路線バスの旅




下川裕治 (著)
沖縄の離島 路線バスの旅

双葉社


◎ 本書の内容
沖縄の離島の路線バスを乗り尽くそうという旅。路線バスが走る島は11島。その路線バスを走破する旅は大変だった。突如、始発便に登場する盲腸路線。バス会社のサービスが仇になる。しかしそこで僕は沖縄に出合っていた。

【プレゼント】

新刊本『沖縄の離島 路線バスの旅』 を、

抽選で"3名さま"にプレゼントします!

応募の条件は以下です。

1.本を読んだ後に、レビューを書いてブログやSNS、ホームページに載せてくれること。
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応募は以下の内容をご記入の上、下記のお問合せフォームよりご連絡ください。応募受付期間は2022年10月7日まで。当選発表は発送をもってかえさせていただきます。

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1.お問合せ用件「その他」を選んでください。

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沖縄の離島 路線バスの旅

  

Posted by 下川裕治 at 10:38Comments(0)

2022年09月19日

ポストコロナでクレジットカードが消える?

 先週、発売になった「沖縄の離島 路線バスの旅」(双葉社刊)のトークイベントが9月22日にある。
http://www.nomad-books.co.jp/event/event.htm
 トークイベントでは、こんな話もしようかと思うのだが、僕にとっての初沖縄は沖縄本島ではなく、離島だった。石垣島である。離島から僕の沖縄ははじまったわけだ。
 そのときは台湾からフェリーで石垣島に入った。アジアをまわった帰路だったのだ。
 旅の資金は少なかった。石垣島で底をついたが、いまのみずほ銀行の前身である第一勧業銀行のキャッシュカードをもっていた。口座にはそこそこの金額が入っていた。
 ところが石垣島の銀行では現金を引き落とすことができなかった。当時、都銀と沖縄の地銀のATMは連携していなかったのだ。それを僕は知らなかった。
 石垣島からフェリーで沖縄本島まで行くつもりだったが、切符を買う現金がない。かなり焦った。困って船会社に話してみた。第一勧業銀行があるのは、沖縄本島の那覇。すると船会社は、那覇で現金を引き落として船賃を払うことを許してくれた。いまよりはキャッシュカードの威力があったのだろうか。あるいは沖縄の船会社は優しかったのか。
『沖縄の離島~』の取材で石垣島に行ったとき、知人はコンビニでPay Payを使って払っていた。
「便利さー。クレジットカードはもっていないけどね。石垣島はクレジットカードで払えるところは多くないけどPay Payは多いよ」
 知人はそういった。
 通常、キャッシュカードからクレジットカードの時代に移っていくものだが、沖縄はクレジットカード時代を省略してしまったということか。
 僕は海外に出向くことが多いから、クレジットカードに頼る旅が長くつづいた。しかしそのクレジットカードの雲行きが怪しい。
 ラオスで昨年開通したラオス中国鉄道。僕は駅に出向き、現金で切符を買った。クレジットカードは使えなかった。切符を買うためにヴィエンチャン市内にある発券オフィスを訪ねた知人はこういわれたという。
「ONE PAYしか使えません。現金やクレジットカードでは支払いができないんです」
 ONE PAY? 知人はヴィエンチャン在住の知人に頼んで払ったという。
 その後、タイのバンコクに行った。宿の近くのクイッティオというタイ風のそばの店に入ると、タイ人たちの多くが、スマホのQRコードを、店のおじさんのスマホにかざしている。支払いはこれで終わりだという。現金で支払う人は少ない。訊くと、タイに銀行口座がないとQRコードを取得できないという。そのそば屋はクレジットカードは使えないという。もともとクレジットカードとは無縁の店が、QRコード決済になびいていた。
 日本の店もQR/バーコード決済に絞る店が増えているという。
 この状況はかなり困る。海外でクレジットカードが使いづらくなると、現金に頼るしかなくなる。日本にやってくる外国人も戸惑うことになる。
 コロナ禍に間に、支払い形態の流れが変わった。その国に暮らす人には進化なのだろうが、外国人には退化に映る。これがポストコロナ?


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Posted by 下川裕治 at 22:22Comments(0)

2022年09月12日

【イベント告知】新刊『沖縄の離島 路線バスの旅』発売記念

下川裕治の新刊 『沖縄の離島 路線バスの旅』 発売を記念して、トークイベントを開催いたします。
詳細は以下です。ぜひ、ご参加ください!

新刊『沖縄の離島 路線バスの旅』発売記念




◆下川裕治さん  トークイベント◆

「路線バスで巡る沖縄の離島旅の魅力」




新刊『沖縄の離島 路線バスの旅』(双葉社)の発売を記念して、旅行作家の下川裕治さんをお招きして、路線バスで巡る沖縄の離島旅の魅力についてスライドを眺めながらたっぷりと語っていただきます。

前作『「おくのほそ道」をたどる旅』では、日光、遊行柳、白河の関、松島、平泉、立石寺、出羽三山、象潟、出雲崎など、約300年前に松尾芭蕉が門人の曾良を連れて旅した「奥の細道」の1612 キロのルートを路線バスと徒歩で巡り、名所・旧跡を訪ね歩いた下川さん。

新刊は、沖縄の離島で路線バスが運行している久米島、宮古島、石垣島、竹富島、西表島、与那国島、座間味島、伊江島、伊平屋島、粟国島、渡嘉敷島などを、バス運転手と会話を交わし、食堂で沖縄そばを啜り、民宿に泊まってビールを飲みながら、沖縄の離島の路線バスの旅の心地よさを再発見する1冊になっています。

変わりゆく沖縄と、変わらない沖縄の日々の営みに思いを馳せながら路線バスに揺られて取材をした下川さんならではの貴重な沖縄の離島の話が聞けるはずです。下川ファンの方はもちろん、沖縄の離島の旅に興味のある方や地方の路線バスの旅が好きな方はぜひご参加ください!

※トーク終了後、ご希望の方には著作へのサインも行います。




●下川裕治(しもかわゆうじ)

1954年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。新聞社勤務を経てフリーに。アジアを中心に海外を歩き、『12万円で世界を歩く』(朝日新聞社)でデビュー。以降、おもにアジア、沖縄をフィールドに、バックパッカースタイルでの旅を書き続けている。

『「生き場」を探す日本人』『シニアひとり旅バックパッカーのすすめ アジア編』(ともに平凡社新書)、『ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅』(中経の文庫)、『日本の外からコロナを語る』(メディアパル)など著書多数。  

●下川裕治さんのブログ
「たそがれ色のオデッセイ」
http://odyssey.namjai.cc/



◆開催日時

9月22日(木)19:30~(開場19:00)

◆参加費

1000円(会場参加) 
※当日、会場にてお支払い下さい

1000円(オンライン配信) 
※下記のサイトからお支払い下さい
https://twitcasting.tv/nomad_books/shopcart/178187

◆会場

旅の本屋のまど店内  
 
◆申込み方法

お電話、e-mail、または直接ご来店の上、お申し込みください。

TEL&FAX:03-5310-2627
e-mail :info@nomad-books.co.jp
(お名前、お電話番号、参加人数を明記してください)
 
※定員になり次第締め切らせていただきます。

◆お問い合わせ先

旅の本屋のまど TEL:03-5310-2627 (定休日:水曜日)
東京都杉並区西荻北3-12-10 司ビル1F
http://www.nomad-books.co.jp

主催:旅の本屋のまど 
協力:双葉社
  

Posted by 下川裕治 at 16:41Comments(0)

2022年09月12日

「東大」を支えた絶対味覚

「東大」のミヤコさんが亡くなられた。東大は那覇の栄町にあるおでん屋である。
 9月15日に発売になる「沖縄の離島 路線バスの旅」(双葉社刊)の最後のゲラのチェックに追われているときだった。
 その本のなかで栄町や栄町市場の店などをコラムに書いている。
 またひとつ、僕にとっての沖縄が消えていってしまう……。
 ゲラを読み進めながら思いは乱れた。
 9月22日に、この本のトークイベントが、「旅の本屋のまど」である。
http://www.nomad-books.co.jp/event/event.htm
 会場に集まる人のなかには沖縄好きが多いだろう。そんな人なら1回は、東大の焼きテビチを食べたことがある気がする。トークイベントは、焼きテビチ話からはじまるのだろうか。僕は東大のミミガーのほうが焼きテビチより好きだったのだが。
 ミヤコさんは絶対音感ならぬ絶対味覚をもった人だったと思う。ボリビアで生まれ、沖縄のおでん屋の東大を継いだが、そういう出自とは関係はない。生まれもった才能に映った。
 僕らがよく通っていた頃は、すでに知る人ぞ知る店だったが、いまのように観光客が店の前に列をつくるほどではなかった。当時、那覇に住んでいた仲村清司氏と待ち合わせたことが多かっただろうか。待つこともなく店に入ることができた。
 一度、近くの物件を一緒に見てほしい、とミヤコさんからいわれたことがあった。僕と仲村氏はミヤコさんの後をついて、近くの空き店舗を見た。1階だけでなく、2階まである店舗だった。
 おそらくお客さんが増えていたのだろう。3倍近い広さのある店……。ミヤコさんは勝負にでようと思っていたのかもしれない。
「本土からの観光のお客さんが増えて、ときどきいわれるんです。ゴーヤーチャンプルーありますかって。おでん屋は普通、ないんですけど……。でも、つくってみようかと思って。でも、もう1000回ぐらいつくったけど、なにか納得が行かなくて。これからつくるから食べてみてくれますか」
 出されたゴーヤーチャンプルーの緑色に目を瞠った。こんなに緑色が濃いゴーヤーチャンプルーは見たことがなかった。ゴーヤーはほくほくで、これまで食べたゴーヤーチャンプルーとは時空が違った。ミヤコさんはなにをめざしているのかわからなかった。しかしまだ彼女の舌が納得しないのだ。焼きテビチやミミガーの域には達していないのだろう。
 そうこうしているうちに、東大はどんどん有名になってしまった。沖縄のおでん屋らしく、夜の9時半開店にもかかわらず、9時をすぎると店の前には観光客の長い列ができ、ドアが開いて5分ほどで満席という店になった。僕は足が遠のき、新型コロナウイルスに見舞われ、気がつくと訃報が届いた。
 一度、取材で夏の甲子園の予選を観た帰りに寄ったことがあった。炎天下の高校野球観戦で、僕は腕や首筋が日に焼け、赤みを帯びて熱をもっていた。ミヤコさんは何回も氷入りのビニール袋をくれた。もう大丈夫、といっても聞く耳をもっていなかった。その徹底ぶりが、ゴーヤーチャンプルーにも通じていた気がした。
 絶対味覚を裏打ちする性格……。絶対味覚を失った東大……。つらい話だ。


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Posted by 下川裕治 at 16:29Comments(0)