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ナムジャイブログ

2024年01月29日

甘いコーヒーでパソコン休暇?

 パソコンが起動しなくなってしまった。10日前の木曜日のことだ。
 その日、バンコクから陸路でカンボジアのシェムリアップに向かった。スムーズに越境し、ポイペトからバスでシェムリアップに入った。パブストリートに近い安めの宿に着いたのは午後4時頃だった。夕方、人と会うことになっていたが、少し時間がある。パソコンを開いて原稿を書くことにした。
 僕のいまの状況は、連載や不定期のものを含めると、ほぼ毎日のように締め切りがある。シェムリアップではアンコール古道を歩くことになっていたので原稿を書く時間はあまりないと思い、早めに原稿を送ってあった。だから直近の締め切りがあったわけではない。しかしシェムリアップからバンコクに戻る3日後には締め切りが待っている。少しは原稿を進めておこうと思ったのだ。
 本のように長い原稿は手書きになることも多いが、日々の原稿はパソコンを使っている。旅先で書くことも多い。空港では膝の上にパソコンを置いて原稿を書く。宿でもよく原稿を書く。僕は安宿派だから、部屋にオフィスのようなデスクがあることはまずにない。テーブルすらないことも多い。そういうときは、ベッドの上にパソコンを置き、枕を座布団代わりにして原稿を書くことになる。
 シェムリアップの宿は、ベッド脇にサイドテーブルがあった。そこにパソコンを置くことにした。椅子はベッドである。壁のコンセントにパソコンとスマホの電源ケーブルを差し込んだ。
 部屋にはコーヒーとカップ、電気ポットが置かれていた。コーヒーはスティック状で、なかにはインスタントコーヒー、砂糖や粉末ミルクがすでに混ざって入れられているタイプ。アジアのホテルではよく部屋に置かれている。かなり甘い。
 原稿を書きはじめると、スマホにラインが届いた。それを読もうとしたとき、コードがひっかかり、コーヒーの入ったカップが傾いてしまった。
 キーボードの3分の1ほどにコーヒーがこぼれてしまった。まずい……。急いでティッシュで拭きとったが、キーの間にも流れ込んでいる。電源を落とし、キーをとりはずしてそのコーヒーも拭いた。
 大丈夫だろうか……。電源を入れてみた。反応がおかしい。そしてパソコンを立ちあげるパスワードの入力ができなかった。しばらく時間をおいて再度やってみたがだめだった。スマホで対処法を調べると、24時間ぐらい放置すると復活することもあると書かれていた。
 翌朝、再び電源を入れた。やはりだめだった。知人に訊いてみた。ひとりがこういった。
「砂糖がだめみたいです。ブラックならトラブルになりにくいらしい」
 あの甘いコーヒーがいけなかったのだろうか……。
 土曜日にはバンコクに向かい、日曜日には帰国することになっていた。修理に出す時間はない。なんとかスマホで代用できないだろうか。しかし2000字を超えるような原稿をスマホで入力することは……。仲間と運営しているユーチューブの画面録画の締め切りもある。調べると、それもスマホでできるらしい。しかし操作に手間どりそうだった。結局、金曜日の晩、日曜日以降の締め切りの相手にお詫びの連絡をした。このブログも1回、休載するというメールを送った。
 連絡が終わると、ぽそッとしてしまった。
 することがない。突然に手に入れたパソコン休暇のようなものだが、日々のルーティンにパソコンが入り込んでいたから、その空白が埋められない。
 窓からネオンが眩しいパブストリートを眺める。以前の僕なら、パソコンが壊れたことを口実に街に出ていた気がする。そこで目にした世界が原稿にも反映されていた。その晩はそんな気力もなかった。こんなに腰が重くなった人間が旅を書いていいのだろうか。起動しなくなったパソコンがベッド脇に置かれていた。

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Posted by 下川裕治 at 11:30Comments(2)

2024年01月22日

休載のお知らせ

カンボジアのシェムリアップの宿で、原稿を書いているとき、コーヒーをこぼしてしまい、パソコンが起動しなくなってしまいました。

今週、休載します。すいません。

  

Posted by 下川裕治 at 15:08Comments(2)

2024年01月15日

あと9年か

 いま台北にいる。台北では「歩く台北」の製作が進んでいて、そのチェックとか打ち合わせなどで滞在しているのだが、なんとか日程を合わせて総統選の空気を感じてみたかった。1月11日に台北に入り、12日の夕方、民進党や国民党の選挙対策本部を見て、夜は投票前夜のイベントにでかけた。イベントを見るのは今回がはじめてではないが、その熱気は台湾ならではだ。
 そして昨夜は新竹のホテルで開票速報を見ていた。選挙の対策本部に出向いてもよかったのだが、テレビのほうが速報が充実していてわかりやすい。
 イベントから速報への空気は、香港と比べると、選挙ができるという熱気でもあった。中国との距離を置く政策を掲げる民進党の得票数が順調にのび、しばしば挿入される選対本部前の盛りあがりを眺めながら、改めてそう思った。
 香港が中国に返還されるときにつくられた香港の憲法にあたる香港基本法のなかで、やがて自由選挙に至ると明記されたにもかかわらず、中国は最後まで自由選挙を認めなかった。自由選挙というのは、台湾や日本など民主主義を謳う国々で行われている選挙のことだ。中国は次々に自由選挙への障害をもちだし、最後には「愛国」まで登場させた。
 しかし台湾は1996年の総統選で自由選挙を選択していた。李登輝の時代だ。しかしその基礎をつくったのは、蒋介石を継いだ息子の蒋経国だった。彼は晩年、台湾の戒厳令を解除し、新聞の発行を許し、野党の誕生を黙認した。そこで台湾は民主主義を政治にとり込んでいくことになる。
 ここが台湾と香港の違いだった。李登輝は総統は1期4年で2期までといういまの総統選の枠組みもつくっていく。
 しかしそれから27年──。
 今回の総統選は、民進党、国民党、そして民衆党が候補者を立てた。そこから伝わってきたのは、台湾人の変質だった。民主主義に舵を切った台湾は着実な経済成長の軌跡に乗り、生活レベルもあがった。いまの若者は、台湾に民主主義が誕生した時代の肌感覚もない。彼らの意識は、台湾人としてのアイデンティティに向かい、安定した生活を求めるようになってきている。もう政治の時代はピンとこない。
 それは台湾の政治家も十分にわかっていることだった。しかし国民党は中国共産党とのつながりのなかで中国と台湾が抱える政治の世界から離れることができない。国民党に対抗する形で生まれた民進党も政治の軋轢を抱えている。両党はその隘路のなかにいる。そこから距離を置く民衆党の柯文哲氏の得票率が26%を超えたのはその証左かもしれない。民進党と国民党を比べると、政治の世界がピンとこない層を民進党のほうが若干多くとりこめたように映る。それが勝因だったのだろうか。
 いまの台湾の無党派層を見ると、中国のZ世代とだぶってしかたない。中国人と台湾人の意識はかなり近づいている気がする。しかしその意識と中国共産党はかなり乖離している。そこに引きずられる台湾の政界。今回の台湾の総統選からは今後の大きなうねりが潜んでいる。
 ある新聞がこんな比較をしていた。いま3期目の習近平がもう1期つづけ、それが終わるのが2032年。今回、台湾の総統になった頼清徳が2期務めるとすると、それが終わるのも2032年。
 あと9年か……。


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Posted by 下川裕治 at 10:17Comments(0)

2024年01月08日

憧れのメール

 今日は1月7日。三連休の中日である。昨年の暮れから、春に出る本のゲラと格闘している。考えてみればここ10年、いや20年、年末年始は本の原稿を書いたり、ゲラのチェックに没頭したりと、部屋にこもるような日々をずっとつづけている気がする。理由は簡単だ。年末年始の休みが終わる日に、原稿やゲラのチェックの締め切りが設定されることが多いのだ。つまりそれは、担当編集者というか、出版社の事情である。
 1年のうちで長い休みといえば、一般的にはゴールデンウイークとお盆、そして年末年始だろうか。ゴールデンウイークは年によって日程が変わり、お盆は日程をずらす人も多く、統一感がなくなってきている。確実な長い休みとなると年末年始になる。そして僕の年末年始はいつも締め切りというプレッシャーに晒されている。
 昨年末、大学時代の仲間との集まりがあった。マスコミ関係が多く、若いときは土曜や日曜、長い休みなど縁がない日々を送っていた。しかし最近は様子が違うらしい。ひとりがこんなことをいった。
「日曜日に部下にメールを送ったんだよ。そうしたら、『休みの日に仕事のメールを送らないでください』っていうメールが返ってきた。新聞記者が……だよ」
「それ、パワハラですよ。休みの日に連絡をいれるのは」
 その会話を聞きながら、正直なところ、軽くイラついた。それは会社や勤め人の発想だからだ。
 僕は原稿を書いて生きてきた。いってみればフリーランスである。その締め切りは、短いエッセイや本も、休み明けに設定されることが多い。長い休みをのぞけば、月曜締め切りが多くなるのだ。つまり世間の人が休む日曜日に原稿を書く。そんな業界たから、年を通して休みの日というものがなくなってしまった。
 こういう仕事を選んでしまった以上、甘んじて受けなければいけない環境なのかもしれないが、そういう僕の耳に、
「休みの日に仕事のメールを送らないでください」
 という返事は不協和音になって届く。彼らがその休んでいる間に、フリーランスは原稿を書いているのだと……。連絡を送る、送らないといった問題ではない。
 フリーランスといっても、会社社会の枠組みから離れて生きることはできない。しかし会社は勤め人の流儀を声高に語られると、僕は「なんなんだ」と思ってしまう。
 そういう話をすると、会社に勤める人からはこういわれるのかもしれない。
「会社社会の人間関係のストレスはかなりのもんなんですよ。休みを入れないともたないんです。その点、フリーランスは……」
 年明けから愚痴っぽい話になってしまって申し訳ない。そういう原稿を日曜日の夜に書いている僕はなんなのか。
「休みの日に仕事のメールを送らないでください」
 これはフリーランスにとってけっして送れない憧れのメールである。


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Posted by 下川裕治 at 12:46Comments(0)