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ナムジャイブログ

2013年04月29日

危うい部屋食の女性たち

 昨年の夏、サハリンを訪ねた。そこでひとつ、開眼した。ロシアは部屋食の国……ということにやっと気づいた。
 これまで何回かロシアを歩いてきたが、食事では苦労してきた。食堂というものが極端に少ないのだ。人口が3万人ほどの街で、食堂が一軒ということも珍しくない。食堂をみつけたら食べておけ──それは、ロシアの旅の鉄則のように思えた。
 しかしロシアには、食料品を中心にした雑貨屋がかなりある。そこに並ぶ総菜類は充実している。その品ぞろえと食事が結びつかなかった。僕はアジアを歩くことが多いから、食事は食堂という発想が染みついていたのかもしれない。
 雑貨屋で総菜やパンを買い、ホテルの部屋で食べれば……。そういうことだった。そういう国だったのだ。
 考えてみれば、ホテルの部屋食という習慣は珍しくない。イスラム教徒の女性は、食堂に入ることを敬遠する。食堂に入ったとしても、個室を選ぶ。ホテルでは当然、部屋食である。
 欧米には、きちんとしたレストランはあるのだが、ひとりで気軽に食事ができる店が少ない。アジアの屋台世界もない。ファストフードもな……と、夜の路上で悩む。しかしスーパーマーケットの総菜コーナーはかなり充実している。ひとりで欧米に出向き、現地の味となると、この総菜が手っとり早い。
 ひとりの日本人女性が、旅先ではひと晩、必ず部屋食になるといった。理由は違っていた。人には見せられない食べ方がホテルではできるからだという。
 ストレスが要因なのかもしれない。彼女は出張先のホテルで夜、ひとりで酔いつぶれるのだという。ビールや焼酎を買い込み、ひとり酒盛りをするのだ。子供はいないが、結婚はしている。しかし家ではそんな姿を夫に見せるわけにはいかない。会社の同僚が見たら引いてしまうだろう。
 ある女性は、大量のケーキやチョコレートを買い込み、吐き気がくるまで食べ続けるのだといった。いつもは栄養に気遣った食事を心がけているのだが。
 ホテルの部屋で食べる……。それは食堂が少ないことや、宗教的な理由によるものだった。いまもそうだろう。しかし日本では、ちょっと危うい部屋食を、ひっそりと行われている。心の均衡を保つための部屋食ということなのかもしれない。
 しかしその種の部屋食は後味が悪い。翌日は自己嫌悪に陥る。しかしそうせざるを得ないものが、心に覆いかぶさっているということなのだろう。
 サハリンで開眼した部屋食を日本に置き換えると、こんなことになってしまう。


(お知らせ)
 朝日新聞のサイト「どらく」連載のクリックディープ旅が移転しました。「アジアの日本人町歩きの旅」。1回目は韓国にもあった日本人町(前編) です。アクセスは以下。
http://www.asahi.com/and_M/clickdeep_list.html


Posted by 下川裕治 at 11:56│Comments(0)
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