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ナムジャイブログ

2013年10月07日

アジアの空が曇りはじめてしまった

 皆、そういう歳になってきたということだろう。海外、とくにアジアに住む日本人の知人たちに、親の介護の問題がふりかかりはじめている。
 バンコクで会社を経営する知人は、今年に入り、月の半分を九州に滞在している。母親の介護のためである。弟がひとりいるが、東京に住んでいる。交代で介護にあたっているわけだ。
 九州にいる間は、頻繁にスカイプやバイバーでバンコクの会社に指示を出しているのだが、思うようにはいかない。焦る日々が続くのだという。
「しかし人の道みたいなものがあるような気がしましてね。やはり親ですから。母は痴呆が入っているから手がかかるんです。会社?心配ですよ。でもね……」
 日本との往復生活に入って半年になる。彼はもう60歳近い。飛行機に乗るのさえ、疲れるのだという。
 海外に地盤をつくった人にとって、親の介護はさまざまな思惑が錯綜する。日本にいる兄弟にしたら、「勝手に行って、海外で好きなことをやって……」という思いがつきまとう。それを肌で感じるから、できる限りのことはしてあげたいと思う。
 しかしホーチミンシティで働く知人は、姉の思いが気になってしかたない。
「父が倒れて、急にベトナムからしばしば帰るようになったけど、本心は遺産がほしいんじゃないの?」
 そうダイレクトに苦言を口にされたわけではない。親しくしている甥が、酒のついでに話してくれたという。悔しかったが、そんな風に見られてしまう面もある。
 飛行機が便利になっても、海外と日本の間には距離がある。そう頻繁に帰ることはできない。親の介護のときぐらいという思いが、日本の社会で空転する。
 ひとりの知人は、介護目的でアジアの仕事を整理して、日本に帰国した。ところが鬱を再発してしまった。もともと日本で鬱に陥ってしまい、アジアに暮らして改善していった過去がある。
「やっぱりアジアのほうがいいみたい。でも親は帰ってきてすごく喜んだんです」
 しかし、鬱を再発してしまっては、生きることも難しくなる。揺れる心境が痛いほどわかる。
 僕自身、人のことをいっていられる環境ではない。しかしアジアの旅を続けなくてはならないのだ。それは仕事のためだけなのだろうか。自分の人生だろうか。
 のびやかに見あげたアジアの空が、スコールの前のような不穏さをたたえてきてしまっている。

 朝日新聞のサイト「どらく」連載のクリックディープ旅が移転しました。「アジアの日本人町歩きの旅」。アクセスは以下。
http://www.asahi.com/and_M/clickdeep_list.html



Posted by 下川裕治 at 15:28│Comments(1)
この記事へのコメント
下川様
初めまして。今週末3回目の台湾に行ってきました。行く前に台湾のことをもっと知っておこうと何気なく本屋で見つけた「週末台湾・・・」という御書を拝見しすっかり我が意を得て乗り込みました。台北で下川様が定宿にしているという駅北の旅館は残念ながらやめていました。その代りに同類の「北門大旅社」1泊700$(看板には650$とありましたが)というのを、長安街西路145巷3(中源代販店裏手)で見つけ3泊してきました。色々な事を考えながらのとても楽しい一人旅でした。興味深い本を有難うございました。
Posted by 玉井英世 at 2013年10月08日 16:57
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