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ナムジャイブログ

2013年10月28日

空港での口げんかとベトナム

 ベトナムの本ばかり読んでいる。
 ベトナムには何回となく訪ねているが、あるとき、ひとりのベトナム人がいった言葉がずっと引っかかっていた。
「もし南ベトナムが勝っていたら、ベトナムは韓国ぐらい発展していたかもしれない」
 ベトナムという国を歩きながら、この言葉は、収まりのつかないものとして横たわっていた。アメリカ軍が撤退し、北ベトナムと南ベトナムは統一された。世界の多くの人々がこの結末を歓迎した。日本でもベトナム反戦運動は広がりをみせ、戦争の終結で平和が訪れたという気運に包まれていた。
 しかしベトナム人は、単に「抗米戦争」が終わったと見ている。その後、ベトナム軍のカンボジア侵攻があり、中越戦争とまだ戦争は続いていたのだ。
 ベトナム軍をカンボジアへ向かわしたものは、中国の膨張主義と覇権主義だったといわれている。ベトナムは中国に比べれば小国にすぎないが、アメリカに勝ってしまった。その自信が、中国と密接な関係にあったポル・ポト政権への侵攻へつながる。それは戦争に勝ってしまったことの代償だろうか。
 ひとりのベトナム人の言葉は、勝った北ベトナムに向けられていた。もちろん彼は負けた南ベトナム出身である。
 大国と小国……。アジアを歩いていると、喉に刺さった骨のような刺激がいつもある。中国、アメリカ、そしてロシアである。グルジアは親米色の強い政権から、ロシア寄りに舵を切りそうだ。大国とのバランスのなかで生きていかなくてはいけない小国の運命のようにも映る。
 バンコクと日本の往復に、しばしば中国系の航空会社を利用する。先日も北京経由で東京に戻った。スワンナプーム空港の搭乗待合室に座っていると、搭乗券とパスポートをチェックするカウンターで、中国人女性とタイ人スタッフがもめていた。どうも、「パスポートと搭乗券を知り合いに預けてあるが、その知人が免税店で買い物をしているので、先に私をなかに入れろ」と要求しているようだった。しかしそのいい方が、まさにけんか腰なのだ。中国人の添乗員が割って入った。
 しかたなく、タイ人スタッフがマイクを貸し、添乗員が中国語で館内放送をした。
 それから10分ほどがたっただろうか。パスポートと搭乗券を預かっていた男性が、免税品の入った袋を手にやってきた。
 と、そこで殴りかからんばかりのけんかが起きてしまった。「どうして早くこない」、「そんなことは知るか」といった内容だと思うのだが、その口論の激しさに、タイ人スタッフや乗客が立ち尽くしてしまった。
 中国人のこういった激しさと、ベトナムが警戒した膨張主義や覇権主義が直接に結びつくわけではない。しかし人間の意識の奥で重なっているような気がしないでもない。
 ベトナム戦争以降のベトナムを見ると、そんな気になってくるのだ。

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Posted by 下川裕治 at 12:23│Comments(0)
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