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ナムジャイブログ

2014年10月13日

ネットの外側に広がる宿

 九州に行ってきた。ローカル線の各駅停車に乗り、駅前旅館に泊まる旅──という取材である。今回は日田彦山線、九大本線、豊肥本線、肥薩線に乗り、福岡県から鹿児島県まで道のりだった。
 これまで水郡線、只見線、身延線、大糸線といったローカル線に乗ってきたが、途中の駅近くにある駅前旅館探しに苦労する。
 理由は、この種の宿が、インターネット予約という世界の外にあるからだ。市役所や町役場に訊ね、地図で調べながら探していく。以前は数多くの駅前旅館があったが、廃業しているところも多い。
 駅前旅館の多くがインターネット予約できない理由は、高齢化である。パソコンを使わないという人もいるが、多くが、多くの客が泊まってしまうと対応できないのだ。だいたいが50代、60代といった女性が切り盛っている。ご主人は別の仕事というところが多い。一家で経営するほどの客が泊まらないのだ。いや、宿泊客が減ってしまったといってもいい。
 しかし駅前旅館は味わい深い。駅前のビジネスホテルにはない気楽さと温かさが流れている。切り盛る女性は、工事関係の人など、1ヵ月、長くなると1年という宿泊客を受け入れてきた。宿というより、下宿のおばさん風情が漂っている。1泊2食付で、5,000円から6,000円と値段である。
 酒類を部屋に持ち込んでもなにもいわれない。夕食が終わり、部屋で少し酒でも……というと、コップや氷を用意してくれる。すべて無料である。まあ、下宿なのである。
 九州の人吉では87歳のおばあさんの宿に泊まった。連絡すると、
「もう食事はつくれないので、泊まるだけならいいですよ」
 といわれた。昭和34年、1959年にできた宿だった。かつては道路工事の人が何ヵ月も泊まったという。高度成長の時代だった。公共工事が多かった。
「道がよくなって、工事関係の人も八代から車で通うようになりました。昔はこのあたりには30軒も宿があったんですけど」
 道をつくる公共工事で一時的に地方は潤うが、最終的にはその道によって地方の町が衰退していくという絵にかいたような構図が流れている。
 しかし長年、さまざまな客を受け入れてきたおばあさんの言葉は、マニュアルにはない温かさがある。人吉は温泉の町だが、この種の宿に温泉はない。家族風呂である。
「お湯をどんどん入れながら入ると、温泉みたいでよかですよ」
 おばあさんが笑いながらいう。
 翌朝、宿を出ようとすると、おばあさんが毛糸でつくったハンコ入れをくれた。
「食事が出せないお詫びです。これからもちょぼちょぼやっていきます。お互い頑張りましょうね」
 ネットが通じない宿には、こういう世界が広がっている。それがいまの日本でもある。


Posted by 下川裕治 at 10:32│Comments(1)
この記事へのコメント
今回の記事は感動しました。

これから、年寄りが居なくなって味のある駅前旅館が無くなったら、無味乾燥のビジネスホテルが出来るのでしょうね。

画一的な日本が広まれば、高齢化社会と重なり、衰退するのが見えます。

タイなんかも最近は熱気が少なく、BTSやMRTに乗っていると違和感を覚えます。
Posted by シンシン at 2014年10月13日 23:27
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