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ナムジャイブログ

2014年12月01日

思い込めば、それが上海蟹

 これまで2回、騙されていた。
 マカオの料理店で、その味を口にしたときに、そう思った。
 上海蟹である。
 11月は上海蟹のシーズンである。高価なものだから、そう簡単には食べることはできない。
 マカオの広東料理店に3人で入った。入口脇のケースのなかに蟹が並んでいた。大閘蟹と書いてある。上海蟹は中国語でこう書く。
 値段が貼ってあった。268パタカ。4000円ほどである。円安がこたえる。
「せっかくだから、1匹食べましょうか」
 ただ蒸すだけなのだが、出てくるまでに時間がかかった。女性店員がつきっきりで解体してくれる。上海蟹はそれほど大きな蟹ではないから、なんだか申し訳ない気がする。
 甲羅をはずし、蟹みその部分を箸で挟んでいただく。
「ん?」
 クリーミーな高級チーズのような舌触りだった。味は濃く、蟹というより、やはりチーズに近い。
「こういう味だったのか」
 30年以上前、生まれてはじめて上海蟹を食べた。場所は上海。普通の食堂だったが、上海蟹があった。たしか20元、300円ぐらいだった気がする。
「こういうもんですか」
 それが素直な感想だった。上海蟹は淡水の泥になかで棲息する蟹だから、海の蟹のような風味はしない。しかし濃い味ではない。特徴もない。普通の蟹だった記憶がある。
 2回目は日本だった。その頃はグルメブームで、上海蟹を食べてみよう、という誘いを受けた。なんでも中国から直輸入したものだという。7000円ぐらいだった。
 値段が高い割に、その会はあっさり終わってしまった。たしかに蟹だったが、「こういうものか」というレベルだった。
 しかしマカオのレストランで食べた上海蟹は別物だった。僕は食通ではないが、違いは歴然としていた。
 上海に暮らしたことがある知人に訊いてみた。本当の上海蟹の味がわかる人はいるのだろうか……と。
「たぶん、中国にもいないと思いますよ。本物と思えば、それが本物ですね」
 意味深い言葉が返ってきた。上海蟹は陽澄湖で獲れたものが最高だといわれる。その蟹にはタグがつけられるようになったが、中国らしくタグの偽造も行われ、客観的な判断がなかなかできない。僕が食べた上海蟹もタグはついていなかった。陽澄湖の蟹にしても、鮮度とか個体差もあるかもしれない。
 やはり自分の舌ということらしい。だから僕は上海蟹を食べたのかどうか……も自信をもっていえないのだが。
 マカオに詳しい人に訊くと、いまの香港は景気が悪く、高級食材はマカオに流れているという。その言葉を信じようか。
 いや、そういうことではない。自分が上海蟹だと思い込むこと。それがきっと上海蟹なのだろう。たぶん。


Posted by 下川裕治 at 13:53│Comments(0)
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