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ナムジャイブログ

2014年12月23日

駅のイメージを刷り込まれた『駅』

 いま、秋田県の能代にいる。朝、7時台の東北新幹線に乗って古川。そこから陸羽東線と陸羽西線に乗って酒田。日本海に沿って羽越本線、奥羽本線を北上してきた。
 古川からはすべて各駅停車。青春18切符の旅である。
 各駅停車に乗り、駅前旅館に泊まる旅を続けている。明日は五能線から北海道へとさらに北に進んでいくつもりだ。
 この旅に出る前、高倉健が主演する『駅』という映画を観た。そのロケ地でもある留萌線にも乗ってみるつもりだ。
 映画を観ながら遠い記憶が蘇ってきた。20代の頃、この映画を観ていた。そして、僕のなかの駅というイメージがつくられていった気がする。
 映画にはいくつかの北海道の駅が登場するが、たしかな記憶に残っていたのは上砂川だった。そこにいるのは、主演の高倉健ではなく、根津甚八という役者だった。
 映画のなかで彼は犯罪者を演じている。赤いミニスカートの女を見ると異常な性欲を抑えきれずに暴行に走ってしまうという役どころだった。札幌で犯行に及び逃亡していた。彼は妹に連絡を入れ、上砂川の駅で会うことになる。
 夜になり、ホームに立つ妹が、線路の上を綱渡りをするような恰好で歩いてくる兄をみつける。妹が駆け寄っていくのだが、周囲には妹が兄に会うことを知った警察が待機していた。
 駆け寄る妹の背後に、警察が見える。しかし彼は逃げることができない。近づく妹を支えるように抱いてしまうのだ。捕まることがわかりながら、逃げることができない男。それを根津甚八が演じている。その表情が秀逸だった。警察がいることへの怯え、妹に連絡を入れてしまった後悔……。それでも妹が駆け寄ってくる。
 北海道の炭鉱駅。線路を照らす灯……。
駅を思い描いたとき、いつも僕のなかで浮かびあがってくる光景だった。それを刷り込んだのが、この映画だった。
 人には忘れることができない光景というものがある。それは風光明媚な眺めとか絶景といわれるものではない。自分の精神状態と普通なら通りすぎてしまう光景がシンクロしたとき、忘れえないものになる。それは映画のワンシーンということもある。そういう光景を人はいくつかもっているはずだ。
 上砂川の駅はもうない。その後、テレビドラマのなかで悲別という架空の駅のロケ地にもなり、いまはちぇっとした観光地になっているという。そういう駅を見たくはない。イメージが崩れてしまう気がするからだ。
 そういえば、根津甚八という役者を最近、映画やテレビで見ていない。調べると、鬱や椎間板ヘルニアなどを患い、闘病生活も送っていたという。
 年月が経つということはそういうことなのかもしれないが、線路の上で演じた姿は僕の脳裡にしっかりと焼きついている。
 能代駅についたときも、ホームから線路を眺めてしまった。東北の寒くて寂しい駅である。そのときも、なぜか上砂川の駅の光景を思いだしていた。



Posted by 下川裕治 at 12:00│Comments(0)
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