2015年03月23日
不自由はしないが、満足はできない
カンボジアのシェムリアップのホテルに4日間、カンヅメになっていた。カンヅメというのは、出版界用語である。締め切りが迫った物書きがホテルなどにこもり、ひたすら原稿を書くことをいう。
昔は出版界も景気がよかったから、経費でのカンヅメがあった。が、いまはよほどのことがなければ、費用をもってはくれない。しかし自宅などで書いていると、どうしても煮詰まってくるので、自腹を切ってカンヅメになる。
これを「ひとりカンヅメ」というらしい。シェムリアップのカンヅメも、「ひとりカンヅメ」だった。
アンコールワットにも出かけず、ただひたすらホテルにこもっている日本人は、カンボジア人にしたら、ずいぶん奇異な存在なのに違いない。ベッドメイキングの女性もやりにくそうだった。昼間は遺跡観光の街なのだ。
朝はホテルの朝食バイキングを食べる。それから原稿を書きはじめ、昼は近くの食堂で2ドルか3ドルの飯。それからまた原稿を書いて、夜はホテルの近くに出る屋台で焼きそばをつくってもらい、部屋で食べる。こんな生活を4日間続けた。焼きそば屋台のおじさんは、笑顔でつくってくれたが、
「よく飽きもせずに毎日、焼きそばばかり食べるもんだ」
とあきれかえっていたかもしれない。
ずいぶんストイックな生活に映るだろう。だが、本人にしたら、原稿のことしか頭にないのだから、さして気にもならない。
だいたい、書いている原稿は、日本各地の地方交通線というローカル線に乗り、駅前旅館に泊まっていく旅の話だ。6月に発売される。シェムリアップで書いていたのは、北海道編。吹雪が荒れるマイナス10度の世界をカンボジアで書いていた。
シェムリアップはカンヅメに向いている街だと思う。理由はいくつかあるが、まず適度に英語が通じることだ。観光客が多いから、皆、簡単な英語を理解する。しかしあまりうまくないから、向こうから話しかけてくることはまずない。つまり、放っておいてくれるのだ。
料理がおいしい街も、カンヅメには向かない。カンボジアは、年に2~3回は訪ねているが、田舎に行くことが多い。本格的なカンボジア料理は、食べたことがない。ぶっかけ飯屋や屋台ですませることが多い。そういう世界のカンボジア料理は、驚くような味ではない。
食べ物で満足してしまうと、原稿を書く気力が起きない。
つまり不自由はしないのだが、満足はできない──これがカンヅメに向いた街ではないかと思うのだ。
4日間で400字詰の原稿用紙で80枚近く書いた。計画ではもっと進まなくてはいけなかったのだが、僕の筆力では、このあたりが限界だった。
昔は出版界も景気がよかったから、経費でのカンヅメがあった。が、いまはよほどのことがなければ、費用をもってはくれない。しかし自宅などで書いていると、どうしても煮詰まってくるので、自腹を切ってカンヅメになる。
これを「ひとりカンヅメ」というらしい。シェムリアップのカンヅメも、「ひとりカンヅメ」だった。
アンコールワットにも出かけず、ただひたすらホテルにこもっている日本人は、カンボジア人にしたら、ずいぶん奇異な存在なのに違いない。ベッドメイキングの女性もやりにくそうだった。昼間は遺跡観光の街なのだ。
朝はホテルの朝食バイキングを食べる。それから原稿を書きはじめ、昼は近くの食堂で2ドルか3ドルの飯。それからまた原稿を書いて、夜はホテルの近くに出る屋台で焼きそばをつくってもらい、部屋で食べる。こんな生活を4日間続けた。焼きそば屋台のおじさんは、笑顔でつくってくれたが、
「よく飽きもせずに毎日、焼きそばばかり食べるもんだ」
とあきれかえっていたかもしれない。
ずいぶんストイックな生活に映るだろう。だが、本人にしたら、原稿のことしか頭にないのだから、さして気にもならない。
だいたい、書いている原稿は、日本各地の地方交通線というローカル線に乗り、駅前旅館に泊まっていく旅の話だ。6月に発売される。シェムリアップで書いていたのは、北海道編。吹雪が荒れるマイナス10度の世界をカンボジアで書いていた。
シェムリアップはカンヅメに向いている街だと思う。理由はいくつかあるが、まず適度に英語が通じることだ。観光客が多いから、皆、簡単な英語を理解する。しかしあまりうまくないから、向こうから話しかけてくることはまずない。つまり、放っておいてくれるのだ。
料理がおいしい街も、カンヅメには向かない。カンボジアは、年に2~3回は訪ねているが、田舎に行くことが多い。本格的なカンボジア料理は、食べたことがない。ぶっかけ飯屋や屋台ですませることが多い。そういう世界のカンボジア料理は、驚くような味ではない。
食べ物で満足してしまうと、原稿を書く気力が起きない。
つまり不自由はしないのだが、満足はできない──これがカンヅメに向いた街ではないかと思うのだ。
4日間で400字詰の原稿用紙で80枚近く書いた。計画ではもっと進まなくてはいけなかったのだが、僕の筆力では、このあたりが限界だった。
Posted by 下川裕治 at 13:34│Comments(0)
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