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ナムジャイブログ

2015年06月15日

レトロ旅ができなくなる

『一両列車のゆるり旅』という本が発売になった。双葉文庫である。このブログでもときどき登場した旅である。
 僕には珍しく、日本の旅を中心にまとめている。地方交通線という、JRのローカル線のなかでも、「超」がつくローカル線を乗り継ぎ、泊まるのは駅前旅館という、レトロな旅である。
 地方交通線と駅前旅館は互いに寄り添うように、いまの時代まで生きてきた。駅前旅館の多くが、近年、ビジネスホテルに代わっていった。ビジネスホテルに建て替えるには、それなりの資金がいる。そこで地元の銀行に融資を依頼することになる。
 JRの路線は幹線と地方交通線に分かれている。乗客が多い幹線の駅前にある宿は、融資を受けることができる。ビジネスホテルの宿泊客を見込めるからだ。しかし地方交通線は難しい。1日に数本の列車しか走っていない路線が多い。利用するのは、地元の高校生か、車の運転をしない老人ばかりだ。ビジネスホテルをつくっても、経営がなりたたないのだ。銀行融資を受けられないのだ。
 駅前旅館の多くは、兼業旅館である。ご主人は会社勤めをしている。宿を切り盛りするのは奥さんだ。そんな状況だから、廃業するケースが少ない。宿泊客が少なくても、それなりにやっていける。
 こうして地方交通線の沿線に、駅前旅館が残っているわけだ。
 しかし駅前旅館のこれからは危うい。跡継ぎがいないのだ。そのへんは、日本の農家に似ている。そうこうしているうちに、駅前旅館を経営するおばさんも年をとっていく。いまは60歳台から70歳台。年金を受け取る年齢である。彼女らが体調を崩したら、駅前旅館は消えていってしまう。
 厳しい状況だが、駅前旅館に泊まっていく旅は楽しかった。日本のビジネスホテルはマニュアル化され、どこも同じような顔をのぞかせる。しかし駅前旅館を仕切るのはおばさんだから、彼女らの流儀が宿を支配しているのだ。どこか下宿のおばさんに接するような感覚なのである。それに、駅前旅館は安い。1泊2食付きで、6000円台といったところが多い。温泉旅館のように豪華な食事は期待できない。家庭料理の域なのかもしれないが、気を遣った料理を出してくれる。
 僕は1週間ほど前に61歳になったが、この年齢の男が泊まるには頃合いの宿なのだ。
 この本が売れればいいなぁ……と思っている。2弾目が決まれば、また、駅前旅館に泊まることができる。いや、取材ではなくてもいいのかもしれない。これから日本では駅前旅館に泊まっていけばいい。
 しかし駅前旅館は減る一方だ。地方交通線にも乗らなくてはいけない。こちらも将来は危うい。多くの路線で採算がとれていないからだ。急がないと、日本のレトロ旅もできなくなってしまう。


Posted by 下川裕治 at 14:42│Comments(1)
この記事へのコメント
下川さんが沖縄以外の日本を旅しているのは知りませんでした。
意外で驚きました!!

日本のディープな所が好きなので
これから出る下川さんの本が
とても楽しみです。

色々な旅の話もっと、もっと聞きたいです。
Posted by たぬきまるだいすけ at 2015年06月18日 19:24
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