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ナムジャイブログ

2015年06月22日

病室まで締切が追いかけてくる

 このブログが読まれる頃、僕は病院に入院しているはずだ。
 手術を受けることになった。
 手術……。若干の緊張を引きずった言葉かもしれない。しかし病名は脱腸。正式には鼡径ヘルニアという。腸が出てきてしまった病気である。足のつけ根部分は筋肉の隙間で、なにかのショックで腸が垂れ下がってしまったようになっている。仰向けになると、腸はもとの位置に収まる。
 つまりは老化である。腸が飛び出ることを防いでいる膜が弱くなってきてしまったらしい。人工の膜をその部分に貼りつける手術になる。
 病院によっては、日帰りで手術をしてくれるところもあるようだが、僕はそういうわけにはいかない。不整脈という持病があり、そのため、血液の凝固を防ぐワーファリンという薬を飲んでいる。この薬をいったん切り、血液が固まりやすい状態にしないと手術ができないのだ。そのために入院しなくてはならない。
 僕は病院という場所が嫌いではない。胸躍るような場所ではないが、どこかほっとする空間でもある。不整脈のチェックのために、2ヵ月に1回程度は病院に出向く。医師と話をする。そこには、原稿とか締切といったものとは無縁の世界がある。医師は平等に接してくれる。病院の外では、編集者の冷たい視線に晒されていても、病院に入ると、すべてから解放されたような気になるのだ。
 こういういい方をすると、病気に悩んでいる人は不愉快に思うのだろうが、病気のメカニズムの話を聞くのも好きだ。そこは科学の世界である。精神力とか感情、意識といったものを排除した世界はある意味、心地いい世界なのだ。
 そんなことがわかったところで、病気が治るわけではないのだが。
「鼡径ヘルニアが老化だとすると、人間は最後には皆、そうなるんですか」
「150歳ぐらいまで人が生きれば、そういえるかもしれませんね」
「つまり直立歩行を選んだ人間の宿命」
「そうともいえます」
 そんな会話を医師と交わす。
 しかし病院も世間とは隔絶しているわけではない。
「入院ですか。その間の締切なんですが、どうされます?」
「ゲラが出るので、病室に届けます」
 はたしてどんな入院になるのやら。



Posted by 下川裕治 at 12:47│Comments(1)
この記事へのコメント
かつて乗ったジャンピングバスのような過酷な乗り物が
腸にダメージを蓄積させてしまったのでしょうか?

今後の旅に影響が無いといいのですが、とても心配です。

入院したら締切伸ばしてくれる・・・
なんて甘いことは通用しない世界なのですね。

どうかご自愛ください。
Posted by たぬきまるだいすけ at 2015年06月22日 20:05
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