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ナムジャイブログ

2016年03月07日

ポケットに両手を突っ込む

 このブログが配信される頃中国にいる。今回はモンゴル、ロシアと列車で進む。
 東京はだいぶ春めいてきた。いまも春の雨が降っている。しかしモンゴルやロシアはそういうわけにはいかないだろう。
 昨年の12月、内モンゴル自治区のフフホトにいた。寒かった。マイナス10度近くになっていた気がする。このくらい寒いと、足先と指先が痛くなってくる。
 街を歩く人を観察してみた。厚い防寒具は着ているが、ズボンのポケットに手を突っ込んで歩いている人が、ときどきいる。ときに手を出すと、手袋もはめていなかった。
「あれで大丈夫?」
 試してみた。
 これが意外と暖かい。指が太ももの熱を受けて暖まる。痛くはならないのだ。
 もっと寒くなるとこの技を使うことができないかもしれないが、マイナス10度ぐらいなら、両手を素手でズボンのポケットに入れたほうが暖かい。
 ポケットに両手を突っ込む……。
 この言葉をこれまで、何回か目にしている。
 知人のひとりがバンコクでの事業に失敗した。それなりの資金をもって日本からやってきたのだが、さまざまなトラブルが重なり、すべてを失ってしまった。
 メールのやりとりがあった。彼はいろいろ努力したが、結局は諦めた。700万円ほどの金がバンコクの空に消えた。
「ポケットに両手を突っ込んで、口笛を吹いて日本に帰りますよ」
 そう彼はメールを送ってきた。大変だとは思うが、どこか潔さがあって、好感がもてた。彼も悔しいだろう。強がりだとわかる。しかし、泣きごとをいってもしかたない。
 ポケットに手を突っ込むということは、なにももっていないことを示す。なにもなくなってしまった。かえって、さばさばした気分といったら、知人はどう思うだろうか。
 一度、荷物を全部盗られてしまったことがある。タイのメーサイに向かう夜行バスでのことだった。パスポートと金は大丈夫だったが、それ以外、荷物がなにもない。警察には一応、届けたが……。
 僕は鞄もザックもなく、そう、両手をポケットに突っ込んで、ミャンマーに向かう国境を越えた。悔しかったが、妙に気楽でもあった。荷物がなくても旅はできる──そこまではいえないが。
 欲がないわけではない。しかし、金や物がなくなったことは、もうり返しがつかない。なにもなくなると、目に入る風景が変わってくる。妙に瑞々しく映るものだ。
 皆さんがこのブログを読む頃、僕はポケットに両手を突っ込んで、北京の街を歩いている。


Posted by 下川裕治 at 14:14│Comments(1)
この記事へのコメント
荷物はなくとも~
現金&パスポート!
それだけあれば何とかできるものですね。
逆だと困っちゃうのですが・・・

下川さんのポケットに手を入れて歩く・・・
僕も寒空の日本で実践してみます。
Posted by たぬきまるだいすけ at 2016年03月16日 22:13
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