2016年05月23日
違法コピーの国のエネルギー
バンコクから日本に帰る日、1枚のDVDを買おうと思った。「クーカム」というタイの映画である。日本では「メナムの残照」という原作本が知られているのだろうか。
日本人の知人から頼まれていた。ショッピングモールのビデオショップで簡単に手に入るものだと思っていた。
タイ人の知人に訊いた。彼は、こういった。「タイ人は安いコピーしか買わないよ」
「それって違法コピー?」
「そう、屋台とか、そういうDVDを集めている店」
「でも、日本人に頼まれたから、ちゃんとしたものじゃないとまずい気がする」
「ちゃんとしたもの? それを売っている店は……知らないなぁ」
空港に行く途中、ショッピングモールに寄った。ビデオショップは2軒あったが、どちらにもタイの映画はなかった。ハリウッドものがずらりと並んでいた。
タイ人の知人に電話をかけた。
「やはりね。タイ人は高いタイの映画のDVDなんて買わないから、店も置かないってことだろうね」
原稿を書いて収入を得ているから、この種の著作権問題には敏感になる。アジアは全体的に著作権の管理が甘い。違法コピーが幅を利かせている。
僕が得る原稿料とか印税とうものは、著作権使用料といい換えることができる。タイの映画のDVDは、違法コピーが主流だから、そこから著作権使用料は、捻出されない。いったいどうやって映画の製作費を捻りだしているのか。これは昔から疑問だった。
しばらく前、タイの映画製作会社が、日本で企画を募集する場に立ち会った。独立系だが、映画を製作する日本人監督につきあったのだが、彼が提示した製作費に対して、タイの映画製作会社のスタッフはこういった。
「どうしてそんなに安く映画ができるんですか? 一般的にタイの映画は、もうひとケタ上の製作費はかけますよ」
違法コピーが氾濫するタイのほうが、日本より多くの資金で映画をつくっていたのだ。これをどう考えればいいのだろうか。
興行収益、スポンサーの存在、製作プロダクションの資金力……タイ式錬金術ということなのだろうか。
著作権は正当な権利だろう。しかし、守りの論理でもある。著作権で守られた日本の映画に元気がないのは、その問題のような気がしてならない。いい作品というものは、違法コピーとか著作権を超えた収益を生む。そのアプローチは、違法コピーが氾濫する国の収益構造に似ている。なんだか潔いのだ。
それがアジアのパワーの核になっているような気がしないでもない。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=ユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅。ロシアに入国。
http://www.asahi.com/and_M/clickdeep_list.html
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
http://dot.asahi.com/dot/2016042600040.html
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。いまはタイ南部をうろうろしてます。
http://tabilista.com/cat/se-asia/
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
http://tabinote.jp/
日本人の知人から頼まれていた。ショッピングモールのビデオショップで簡単に手に入るものだと思っていた。
タイ人の知人に訊いた。彼は、こういった。「タイ人は安いコピーしか買わないよ」
「それって違法コピー?」
「そう、屋台とか、そういうDVDを集めている店」
「でも、日本人に頼まれたから、ちゃんとしたものじゃないとまずい気がする」
「ちゃんとしたもの? それを売っている店は……知らないなぁ」
空港に行く途中、ショッピングモールに寄った。ビデオショップは2軒あったが、どちらにもタイの映画はなかった。ハリウッドものがずらりと並んでいた。
タイ人の知人に電話をかけた。
「やはりね。タイ人は高いタイの映画のDVDなんて買わないから、店も置かないってことだろうね」
原稿を書いて収入を得ているから、この種の著作権問題には敏感になる。アジアは全体的に著作権の管理が甘い。違法コピーが幅を利かせている。
僕が得る原稿料とか印税とうものは、著作権使用料といい換えることができる。タイの映画のDVDは、違法コピーが主流だから、そこから著作権使用料は、捻出されない。いったいどうやって映画の製作費を捻りだしているのか。これは昔から疑問だった。
しばらく前、タイの映画製作会社が、日本で企画を募集する場に立ち会った。独立系だが、映画を製作する日本人監督につきあったのだが、彼が提示した製作費に対して、タイの映画製作会社のスタッフはこういった。
「どうしてそんなに安く映画ができるんですか? 一般的にタイの映画は、もうひとケタ上の製作費はかけますよ」
違法コピーが氾濫するタイのほうが、日本より多くの資金で映画をつくっていたのだ。これをどう考えればいいのだろうか。
興行収益、スポンサーの存在、製作プロダクションの資金力……タイ式錬金術ということなのだろうか。
著作権は正当な権利だろう。しかし、守りの論理でもある。著作権で守られた日本の映画に元気がないのは、その問題のような気がしてならない。いい作品というものは、違法コピーとか著作権を超えた収益を生む。そのアプローチは、違法コピーが氾濫する国の収益構造に似ている。なんだか潔いのだ。
それがアジアのパワーの核になっているような気がしないでもない。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=ユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅。ロシアに入国。
http://www.asahi.com/and_M/clickdeep_list.html
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
http://dot.asahi.com/dot/2016042600040.html
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。いまはタイ南部をうろうろしてます。
http://tabilista.com/cat/se-asia/
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
http://tabinote.jp/
Posted by 下川裕治 at 18:58│Comments(0)
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