2017年02月27日
本とネット社会の壁
日本では書籍の取次店の倒産や廃業が続いている。取次店というのは、本の世界の問屋にあたる。一般の人にはあまり縁がないかもしれないが、本の流通面では重要な役割を担っている。栗田で知られる栗田出版販売、太洋社……そして今月には日本地図共販が倒産した。
僕は編集にかかわり、監修を務める『歩くバンコク』をはじめとする『歩くシリーズ』も、その影響を受けた。発行は僕が席を置くメディアポルタという会社だが、発売は、日本地図共販のグループ会社のキョーハンブックス。流通の主体は日本地図共販だった。
『歩くバンコク』などのシリーズのガイドブックは、発売が難しいのでは……と思った人もいたようだが、すぐに、メディア・パルという出版社が発売元になることが決まった。
予定通り、『歩くバンコク』は、日本とバンコクで発売される。
中堅取次店の相次ぐ倒産、廃業の事実は重い。やはり本が売れないのだ。出版不況はここまできたか……という思いはある。本を書く身としたら、天を仰ぎたくなる。
出版界でよく交わされる会話は、本というものへの需要をインターネットに奪われてしまったというものだ。たしかに情報系の書籍は、ネット情報にとって代わりつつある。
しかし、読み物としての書籍は違うはずだ。
出版社は以前から、ネット上で面白いブログや記事を探している。アクセスが高いブログには目を光らせる。しかしその先になかなかつながらない。
ある編集者はこんな話をする。
「面白いブログを書いている人に連絡をとるんです。本を書いてみませんか……と。だいたい、いい返事がきます。やってみます、と。やはりネットで話題になる人は、本に憧れる人が多いんでしょう。1度、本をまとめてみたいと。でも本にならない。本というものは、400字詰めの原稿用紙で250枚とか300枚ないと、1冊にならない。でも、いままで書いたブログの文字量がその量に達していても、そのまま1冊にはならないんです。本は1冊のなかで流れがないと読まれません。ブロガーもそれがわかっている。いままでのブログをつなげようとするんですが、つながらないんです。そのうちに諦めてしまう。そう100人に声をかけても1冊の本も完成しないんです」
この問題のほうが深刻なのだ。つまりネットの世界には、優秀な若い人たちがたくさんいる。その人たちも、1冊の本を書こうとする。しかしネット原稿と本の原稿の間には、かなり高い壁がある。
本を読む人がネットの社会に流れているのではない。ネット社会という本とは別の世界ができあがってきているということなのだ。
このふたつが結びついていかなければ、本はもちろん、ネット社会も衰退していく気がする。それは本を書く者の危機感でもある。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=インドでいちばん長い列車の旅を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅が続く。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
僕は編集にかかわり、監修を務める『歩くバンコク』をはじめとする『歩くシリーズ』も、その影響を受けた。発行は僕が席を置くメディアポルタという会社だが、発売は、日本地図共販のグループ会社のキョーハンブックス。流通の主体は日本地図共販だった。
『歩くバンコク』などのシリーズのガイドブックは、発売が難しいのでは……と思った人もいたようだが、すぐに、メディア・パルという出版社が発売元になることが決まった。
予定通り、『歩くバンコク』は、日本とバンコクで発売される。
中堅取次店の相次ぐ倒産、廃業の事実は重い。やはり本が売れないのだ。出版不況はここまできたか……という思いはある。本を書く身としたら、天を仰ぎたくなる。
出版界でよく交わされる会話は、本というものへの需要をインターネットに奪われてしまったというものだ。たしかに情報系の書籍は、ネット情報にとって代わりつつある。
しかし、読み物としての書籍は違うはずだ。
出版社は以前から、ネット上で面白いブログや記事を探している。アクセスが高いブログには目を光らせる。しかしその先になかなかつながらない。
ある編集者はこんな話をする。
「面白いブログを書いている人に連絡をとるんです。本を書いてみませんか……と。だいたい、いい返事がきます。やってみます、と。やはりネットで話題になる人は、本に憧れる人が多いんでしょう。1度、本をまとめてみたいと。でも本にならない。本というものは、400字詰めの原稿用紙で250枚とか300枚ないと、1冊にならない。でも、いままで書いたブログの文字量がその量に達していても、そのまま1冊にはならないんです。本は1冊のなかで流れがないと読まれません。ブロガーもそれがわかっている。いままでのブログをつなげようとするんですが、つながらないんです。そのうちに諦めてしまう。そう100人に声をかけても1冊の本も完成しないんです」
この問題のほうが深刻なのだ。つまりネットの世界には、優秀な若い人たちがたくさんいる。その人たちも、1冊の本を書こうとする。しかしネット原稿と本の原稿の間には、かなり高い壁がある。
本を読む人がネットの社会に流れているのではない。ネット社会という本とは別の世界ができあがってきているということなのだ。
このふたつが結びついていかなければ、本はもちろん、ネット社会も衰退していく気がする。それは本を書く者の危機感でもある。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=インドでいちばん長い列車の旅を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅が続く。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
Posted by 下川裕治 at 12:08│Comments(0)
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