インバウンドでタイ人を集客! 事例多数で万全の用意 [PR]
ナムジャイブログ

2017年06月05日

金がなくても生きる方法を知っている

 九州の椎葉村に行ってきた。九州山地のほぼ中央。日本三大秘境のひとつに数えられる村である。村としては、日本で5番目の広さがあるというが、平地は4パーセントしかないという。山しかない村と思っていい。
 宮崎県なのだが、熊本空港から車で向かった。そのほうが早いらしい。この辺りでは以前、五木村を訪ねたことがある。平家の落人伝説、ダムで水没した村の中心部……。九州山地の秘境は、似通った歴史を辿っている。
 人々は斜面に畑をつくって生活しているのだが、どこもシカやイノシシの被害に悩んでいる。農作物を食べてしまうのだ。
 その原因のひとつが植林だという。木材を切り出し、その後に植林をしたのだが、そのほとんどがスギだった。材木にすることが目的だったが、スギは山の動物の餌になる実がつかない。かつての雑木林は、実のなる木が多かった。結局、餌が不足し、畑の作物を荒らしてしまうのだという。
 イノシシは、この一帯では貴重なタンパク源だった。イノシシ狩りの方法は、以前五木村でも聞いた。
 猟犬と人が一体になってイノシシを追い込んでいく。道すらない斜面を走りまわる山の男たち。イノシシ狩りのシーズンになると、目つきが変わってくるのだという。
 椎葉村で、サカメグリというイノシシ狩りのルールを知った。狩りをする場をひとつ円に見たてる。そのなかで中心角が30度ほどの扇型の部分を決め、そこでは猟をしない。追われた動物が逃げ込むエリアを設定しているのだ。扇型部分が、時計とは逆方向でまわっていくことから、サカメグリと呼ばれるようになった。
 戦後、日本の行政は、山の動物を守るために「禁猟区」をつくった。それは一定のエリアを禁猟にするもので、面の発想だった。動物たちはそこに逃げ込めばよかったが、禁猟区に追い込まれる形になる。しかしサカメグリは面ではなく方向である。動物たちはその向きに逃げる。方向だから広さに制限は生まれない。動物の数を減らさない山に暮らす人々の知恵だった。
 面で管理する手法は、稲作文化をベースにしている。禁猟区や植林の発想もその延長線上にある。しかしそれは山の文化には通用しない。
 以前、平地の文化と山の文化は、交わることはないと思っていた気がする。しかし平地は山で支えられていることがわかってきた。そこで、山の自然の保護に動くのだが、その手法が平地の論理に裏打ちされていた。山の文化圏の切ない現実は、そんな行き違いの結末でもある。
 しかし椎葉村の人々は暗くない。村で暮らすひとりがこういった。
「大丈夫ですよ。山の人は金がなくても生きる方法を知っていますから」

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=世界の長距離列車の旅。チベットの青蔵鉄道を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅が続く。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記


Posted by 下川裕治 at 11:53│Comments(0)
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。