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ナムジャイブログ

2017年06月19日

8月のアジサイ

 梅雨である。東京は湿度の高い日が多くなった。道からのぞく家々の庭のアジサイも、いまが盛りといった感がある。
 日本各地には、アジサイで知られた寺や公園がある。休日には、スマホのシャッター音が響いているのだろう。
 アジサイをめぐる論争がある。論争というほどのことではないかもしれない。アジサイが好きか、嫌いかという話である。
 好き嫌いが分かれるのは、青や紫の色をつける6月のアジサイではない。7月、いや8月になっても咲いているアジサイのことだ。アジサイは花びらに見えるのがガクだから、長い期間、花が咲いているように見える。
 夏の暑い盛り、アジサイは色褪せ、場所によっては茶色に変色しながら、ぎりぎりで花のような形を保っている。それをどう感じるか……という話だ。
 桜にしろ、ぼたんにしろ、咲いた花が散っていくのは、日本人の美学に合っているといわれる。しかしアジサイは違う。みっともなくなっても、季節をすぎてしまっても、花としての形を維持していく。それは日本的ではないかもしれないが、そんな姿勢は美しいと感じる人たちがいる。
 つまり自分の老いに重ね合わせているわけだ。
「8月のアジサイは好きです。美しくなくなったら消えていければ、それは幸せかもしれません。でも、現実は違う。生きていかなくちゃいけない。美しく見せようと思っても無理がある。しかしその醜さもしっかり晒していく。美しい人生って、そういうことじゃないかって」
 40代になった女性は、自分の姿を8月のアジサイに投影する。
 鞄を整理していたら、昔、使っていた皮の鞄が出てきた。ところどころ壊れているが、適度にこすれ、年季が入っている。しかしこれを持ち歩くと、こんな声も聞こえてくる。
「そういう鞄を持ってかっこいいのは若い人たちです。年老いた人が持てば、みすぼらしさが募るばかり……」
 8月のアジサイが好きだという人たちは、そんな外野の声を無視し、「私はこの鞄が好きなんです」という人生を送りたいと思っている人のように思う。
「つまり頑固ってこと?」
 話は隘路に入り込む。
 シニア向けの旅の本を書き終えた。1ヵ月後には書店に並ぶだろう。そのタイトルをめぐっていろんな意見が出た。出版界では、シニアという文字が入った本はシニアが買わないという定説があるからだ。
 結局、シニアの文字はタイトルに入った。はたしてシニアは買ってくれるのか。それは8月のアジサイを美しいといい切る人がどれだけいるか……ということなのだろう。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=世界の長距離列車の旅。チベットの青蔵鉄道を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅が続く。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記


Posted by 下川裕治 at 17:32│Comments(1)
この記事へのコメント
シニアという言葉
シニア当人からすれば俺はまだシニアじゃない!
って思うのでしょうか。

僕は41歳。学生の頃はこのくらいの歳をオッサン、中高年の入り口とか思って居たのですが僕自身、まだまだ大人になりきれていないと思ったりしてしまうのです。

シニアでは無く「大人の」とか…
タイトルの方がシニアの人たちには
手に取りやすかったかも知れないけれども

シニアと自覚して旅するほうが
無理なく安全な気がするし、
読者の為な気がする…… 
とか思いましたが内容は知らないのです。
まだ読んでいないので早く読みたいです。
Posted by たぬきまるだいすけ at 2017年07月18日 22:39
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