2017年09月18日
異質な中国人たち
カンボジアの列車に乗ってきた。シアヌークビルからプノンペンまで230キロほどだ。東南アジアの全鉄道に乗るという酔狂な旅はまだ続いている。第1弾で『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』が刊行されたが、東南アジアの鉄路線はまだまだ残っているのだ。
軽い気持ちではじめてしまったが、これが予想以上に時間がかかり、そうこうしているうちに、カンボジアの列車が走りはじめてしまったのだ。修復のために全面運休していたのだが。
乗車記は、追って本で読んでもらうとして、今回はシアヌークビルの中国人の話である。
シアヌークビルへはタイから陸路で向かった。バンコクを深夜に発車する夜行バスでトラートへ。そこからソンテオという乗り合いトラックで国境。カンボジアに入国し、乗り合いタクシーに乗ってシアヌークビルに着いた。列車を確認するために駅で降ろしてもらった。発車は午前7時。駅に近いホテルに泊まった。
着いたのは昼ごろだった。昼食をとろうと宿を出た。緩い坂道に沿って新しくつくられた数階建てのビルが並び、1階が店舗になっていた。食堂は数軒あったが、1軒のインドネシア料理の店を除いて、残りはすべて中国料理だった。その間にあるのは中国人向けのスーパー。カンボジア式の食堂が1軒もないのだ。
最近のカンボジアやラオスでは、ときおりこういう一画に出くわす。中国人労働者のための街が、郊外にできあがっているのだ。
いまのカンボジアは、中国なくして成り立たない。橋や道路、工業団地など、中国の援助で建設が進む。中国から労働者がやってくる中国スタイルの援助である。アセアンは南沙諸島をめぐって中国に抗議する声明を出したかったが、カンボジアが強硬に反対した。カンボジアを歩くと、反対せざるを得ない状況がよくわかる。
しかたなく中国料理の食堂に入った。中年のおじさんふたりで切り盛りしていた。写真付きのメニューから、ワンタンそばを頼んでみた。するとおじさんは、
「グットチョイス」
と英語を口にして笑顔をつくった。珍しく愛想のいい中国人だった。夕方、中心街まで行こうとすると、激しいスコールが街を洗っていた。しかたなく、宿に近い中国料理の食堂に入った。壁には魚や肉の高そうな1品料理の写真が掲げられていた。なにか定食のようなものはないだろうか。30代の店長らしき中国人がスマホで英訳してくれる。焼きそばに落ち着き、ビールも1本頼んだ。すると彼はサービスだといってピーナツとザーサイを小皿に盛ってきた。
彼らは労働者や観光客とは違う。カンボジアに住み、中国人相手の商売をはじめた人たちだ。背水の陣で移り住む中国人が多いという。カンボジア社会でそれなりに苦労しているのかもしれない。中国の進出を支えている商売魂。反感を買う中国人団体客とは異質な中国人たちだった。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=世界の長距離列車の旅。アメリカの列車旅をがはじまる。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅。いまは番外編を連載。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
軽い気持ちではじめてしまったが、これが予想以上に時間がかかり、そうこうしているうちに、カンボジアの列車が走りはじめてしまったのだ。修復のために全面運休していたのだが。
乗車記は、追って本で読んでもらうとして、今回はシアヌークビルの中国人の話である。
シアヌークビルへはタイから陸路で向かった。バンコクを深夜に発車する夜行バスでトラートへ。そこからソンテオという乗り合いトラックで国境。カンボジアに入国し、乗り合いタクシーに乗ってシアヌークビルに着いた。列車を確認するために駅で降ろしてもらった。発車は午前7時。駅に近いホテルに泊まった。
着いたのは昼ごろだった。昼食をとろうと宿を出た。緩い坂道に沿って新しくつくられた数階建てのビルが並び、1階が店舗になっていた。食堂は数軒あったが、1軒のインドネシア料理の店を除いて、残りはすべて中国料理だった。その間にあるのは中国人向けのスーパー。カンボジア式の食堂が1軒もないのだ。
最近のカンボジアやラオスでは、ときおりこういう一画に出くわす。中国人労働者のための街が、郊外にできあがっているのだ。
いまのカンボジアは、中国なくして成り立たない。橋や道路、工業団地など、中国の援助で建設が進む。中国から労働者がやってくる中国スタイルの援助である。アセアンは南沙諸島をめぐって中国に抗議する声明を出したかったが、カンボジアが強硬に反対した。カンボジアを歩くと、反対せざるを得ない状況がよくわかる。
しかたなく中国料理の食堂に入った。中年のおじさんふたりで切り盛りしていた。写真付きのメニューから、ワンタンそばを頼んでみた。するとおじさんは、
「グットチョイス」
と英語を口にして笑顔をつくった。珍しく愛想のいい中国人だった。夕方、中心街まで行こうとすると、激しいスコールが街を洗っていた。しかたなく、宿に近い中国料理の食堂に入った。壁には魚や肉の高そうな1品料理の写真が掲げられていた。なにか定食のようなものはないだろうか。30代の店長らしき中国人がスマホで英訳してくれる。焼きそばに落ち着き、ビールも1本頼んだ。すると彼はサービスだといってピーナツとザーサイを小皿に盛ってきた。
彼らは労働者や観光客とは違う。カンボジアに住み、中国人相手の商売をはじめた人たちだ。背水の陣で移り住む中国人が多いという。カンボジア社会でそれなりに苦労しているのかもしれない。中国の進出を支えている商売魂。反感を買う中国人団体客とは異質な中国人たちだった。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=世界の長距離列車の旅。アメリカの列車旅をがはじまる。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅。いまは番外編を連載。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
Posted by 下川裕治 at 11:48│Comments(1)
この記事へのコメント
中国人のチャレンジ精神にはいつも感心してしまいます。
一方で多くの日本人、僕もそうなんですけど、
安全、安定志向が強く背水の陣で挑む精神がないように思えます。
日本は定職に就くのが難しくなってきたなぁと思っていたのですが、実は安定した仕事が中国と比べれば多いのではないかと思ってしまいます。
世界中に背水の陣で挑む中国人は、どこかヒアリに似た印象を受けます。
一方で多くの日本人、僕もそうなんですけど、
安全、安定志向が強く背水の陣で挑む精神がないように思えます。
日本は定職に就くのが難しくなってきたなぁと思っていたのですが、実は安定した仕事が中国と比べれば多いのではないかと思ってしまいます。
世界中に背水の陣で挑む中国人は、どこかヒアリに似た印象を受けます。
Posted by たぬきまるだいすけ at 2017年09月22日 09:42
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