2017年10月16日
タイ式トイレの謎が解けた
ひょっとしたら、いや、確実に、僕は間違いを犯していた。そして多くの日本人も僕と同じように誤解している気がする。
前号で、東南アジアの多くのトイレに備えられているハンドシャワーについて触れた。インドネシアのハンドシャワーの水圧は弱く、カンボジアのそれは、肛門の皮膚がめくれるのではないと思うほど強いと……。
そう書いたのはハンドシャワーの水を、直接、肛門にあてる洗浄法を誰もが実践していると思っていたからだ。しかし、それは間違いだった。いや、直接、あててもいいのかもしれないが、タイ人はそんな使い方をしていなかった。
原稿を書いた後、僕はタイに向かった。やはり気になっていたのだ。これはもう、訊いてみるしかなかった。
まず日本人に訊いた。彼はバンコクに20年近く暮らしている。僕と同じ使い方だった。つまりハンドシャワーの水を、直接、肛門にあてていたのだ。ところが、タイ人に訊くとこんな答が返ってきた。
「なにをいってるんですか。ハンドシャワーの水を当てるのは手ですよ。水を流しながら指で洗います。そうじゃないと、きれいになったかわからないじゃないですか」
すべてが氷解し、なんだかすっきりした気分だった。タイでも田舎に行くと、しゃがむスタイルのトイレになることがある。脇には水をためる水槽がある。洗うときは桶で水を掬い、それを流すようにして、指で洗う。そのスタイルが発展したのがハンドシャワーだったのだ。水槽と桶の代わりのシャワーになっただけで、タイ人の洗い方はまったく変わっていなかった。
トイレに置かれたゴミ箱も納得できる。タイ人は洗った尻の水滴を拭きとるためにティッシュを使う。そのゴミ箱。捨てられたティッシュは汚れていないのだ。
ところが、日本は水で洗わない。紙で拭く。だからトイレのゴミ箱には、便がこびりついたティッシュが捨てられていると思ってしまうのだ。
日本は紙拭き文化から一気に発展してウォッシュレットをつくりだした。もともと指で洗う文化がないから、肛門に直接、水をあてる方式になった。その素地がある日本人は、ハンドシャワーを目にしたとき、直接、肛門に水を吹きかけるものだと思ってしまう。そこからはじまった、誤解だった。
あるタイ人はこんなこともいった。
「日本のウォッシュレット、あれ使いにくいです。ノズルが邪魔して、手がうまく入らないんです」
たしかにそうだった。
ハンドシャワーは水で流す文化圏の産物だった。そしてウォッシュレットは紙拭き文化圏が生んだものだった。妙にすっきりして、タイのトイレに今日も座る。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=世界の長距離列車の旅。アメリカの列車旅を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅。いまは番外編を連載。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
前号で、東南アジアの多くのトイレに備えられているハンドシャワーについて触れた。インドネシアのハンドシャワーの水圧は弱く、カンボジアのそれは、肛門の皮膚がめくれるのではないと思うほど強いと……。
そう書いたのはハンドシャワーの水を、直接、肛門にあてる洗浄法を誰もが実践していると思っていたからだ。しかし、それは間違いだった。いや、直接、あててもいいのかもしれないが、タイ人はそんな使い方をしていなかった。
原稿を書いた後、僕はタイに向かった。やはり気になっていたのだ。これはもう、訊いてみるしかなかった。
まず日本人に訊いた。彼はバンコクに20年近く暮らしている。僕と同じ使い方だった。つまりハンドシャワーの水を、直接、肛門にあてていたのだ。ところが、タイ人に訊くとこんな答が返ってきた。
「なにをいってるんですか。ハンドシャワーの水を当てるのは手ですよ。水を流しながら指で洗います。そうじゃないと、きれいになったかわからないじゃないですか」
すべてが氷解し、なんだかすっきりした気分だった。タイでも田舎に行くと、しゃがむスタイルのトイレになることがある。脇には水をためる水槽がある。洗うときは桶で水を掬い、それを流すようにして、指で洗う。そのスタイルが発展したのがハンドシャワーだったのだ。水槽と桶の代わりのシャワーになっただけで、タイ人の洗い方はまったく変わっていなかった。
トイレに置かれたゴミ箱も納得できる。タイ人は洗った尻の水滴を拭きとるためにティッシュを使う。そのゴミ箱。捨てられたティッシュは汚れていないのだ。
ところが、日本は水で洗わない。紙で拭く。だからトイレのゴミ箱には、便がこびりついたティッシュが捨てられていると思ってしまうのだ。
日本は紙拭き文化から一気に発展してウォッシュレットをつくりだした。もともと指で洗う文化がないから、肛門に直接、水をあてる方式になった。その素地がある日本人は、ハンドシャワーを目にしたとき、直接、肛門に水を吹きかけるものだと思ってしまう。そこからはじまった、誤解だった。
あるタイ人はこんなこともいった。
「日本のウォッシュレット、あれ使いにくいです。ノズルが邪魔して、手がうまく入らないんです」
たしかにそうだった。
ハンドシャワーは水で流す文化圏の産物だった。そしてウォッシュレットは紙拭き文化圏が生んだものだった。妙にすっきりして、タイのトイレに今日も座る。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=世界の長距離列車の旅。アメリカの列車旅を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅。いまは番外編を連載。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
Posted by 下川裕治 at 14:03│Comments(3)
この記事へのコメント
ええええー!!!
そうだったのですね。
僕は水圧が強すぎるので
小刻みにレバーを握っては開き
ちょん、ちょん、ちょん、ちょん
と言った具合でやっていました。
真実を知ったとは言え指で洗う・・・ちょっと抵抗があります。
そうだったのですね。
僕は水圧が強すぎるので
小刻みにレバーを握っては開き
ちょん、ちょん、ちょん、ちょん
と言った具合でやっていました。
真実を知ったとは言え指で洗う・・・ちょっと抵抗があります。
Posted by たぬきまるだいすけ at 2017年11月09日 16:17
そうだったのか‼関係ないですが、下川さんの本のおかげで無事ミャンマーに行くことができました。
Posted by にしの at 2017年11月22日 12:50
タイ人の同僚や知人数名に聞いてみましたが、全員、シャワーの水は直接お尻にかけて、紙で拭き取ると言っていました。何かの間違いでは?
Posted by パロパロ at 2019年06月23日 17:13
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