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ナムジャイブログ

2018年04月23日

カシュガルの鉄パイプ訓練

 2週間ほど前、僕は中国のカシュガルにいた。キルギスに向かう国境が閉鎖され、停滞を余儀なくされてしまったことは、このブログでもお話しした。
 そのカシュガルで、僕は毎日、鉄パイプ訓練を見ていた。北京時間の12時、新疆ウイグル自治区時間で午前10時、街の人は手に鉄パイプをもって集まってくる。鉄パイプにもいろいろな種類がある。2メートルほどの鉄パイプが多いが、先端に突起が出ているものもある。なかには野球のバットのようなこん棒をもっている人もいた。
 どうも20軒から30軒の家や商店がひとつの単位になっているようだった。カシュガルだから、住民は漢民族とウイグル人が混じっている。歩道には公安や訓練の指導係が待っている。
 皆、横一列に並び、合図と一緒に、「エイッ」と鉄パイプを突き出すのだ。これが街なかで、一斉に行われる。それも毎日。日曜日も休まず……。
 戦前の竹やり訓練を思い出してしまう。といっても僕は、映像でしかその訓練を見たことがない。竹やりは鉄パイプに代わったが、スタイルは似ていた。
 公安は胸に「南疆民兵」と書かれた制服を着ていた。彼らはヘルメットで防備し、いつも一帯の警備にあたっている。彼らが真剣な面もちで声を挙げる。
 いったいどれだけの住民が、鉄パイプ訓練の有効性を認めているのだろうか。ウイグル人の反政府暴動を抑えることが目的ということはわかるのだが。
 日本の竹やり訓練も、いまとなっては滑稽ですらある。アメリカの戦闘機が飛来する空襲に対して、なにか役にたったのだろうか。重装備のアメリカ兵と本当に竹やりで闘えと軍部は指導した精神性に首を傾げる。
 鉄パイプ訓練や竹やり訓練は、政府のプロパガンダのように思う。太平洋戦争末期日本軍は様々なスローガンを掲げた。絶望的な戦局のなかで生まれたものが、「一億玉砕」だった。軍部は本土決戦になびき、その流れのなかで、当然のように竹やり訓練が生まれてきた。スローガンを貫徹するために必要な訓練だった。
 戦争が日本の敗戦で終わったとき、皆を洗脳していた「一億玉砕」は、その色を一気に失うことになる。
 戦争にはそんなスローガンが必要なのかもしれないが、中国はいま、その戦時体制を新疆ウイグル自治区で演出しているように思えてしかたない。
 カシュガルの商店は、どこも鉄格子がはめられている。店の人がそれを開けてくれないと、水も買えず、食事もできない。それも壮大な軍事演出に映る。
 鉄パイプを握るウイグルの人たちは、そのからくりがわかっている気がする。かけ声は小さく、熱は入っていない。竹やり訓練に駆り出された日本人も……。ただ本心は口にできない。カシュガルにいるとその空気だけははっきりとわかる。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=玄奘三蔵が辿ったシルクロードの旅。今は中国編を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。インドネシアの列車旅の連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記


Posted by 下川裕治 at 14:07│Comments(1)
この記事へのコメント
ゾッとします。
今この時も彼らは戦う準備を強いられて
居るのでしょうか。
重装備の兵の前では無意味と理解しながらも…

チベットも、香港も、(台湾)も、
経済大国である大国のはずの
中国とは線を引きたいと思っている。
各地でマグマ溜まりができているのを感じます。
歴史的な瞬間が迫っているのでしょうか?
Posted by たぬきまるだいすけ at 2018年05月14日 15:40
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