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ナムジャイブログ

2018年07月16日

バンコクが静かになった

 インドネシアのジャカルタから、バンコク。3日ほど滞在して東京に戻った。
 アジアからの飛行機が東京に着き、ターミナルビルを出たとき、いつも浮かぶ言葉がある。
「音がない……」
 成田空港に音がないわけではない。バスが走り、荷物を積み込むスタッフの声が聞こえる。バスを待つ乗客の話し声も耳に届く。
 しかしその音はくぐもったように控えめなのだ。音を出すことがはばかられるかのような空気があたりを支配している。
 そう感じはじめたのは、そう、かれこれ20年ほど前だろうか。それ以来、日本に帰国するたびに、この静けさに包まれ、僕もまた黙ってしまった。
 僕は、物を書くことを生業にしているから、その音のない世界を分析しようする。街に流れるエネルギーの違いを感じとり、経済成長のピークをすぎた国といまが盛りの国々の違いという枠組みに落とし込んでいった。
 それが正しいのかどうかはわからない。
 しかし今回、ジャカルタからバンコクに着き、ドーンムアン空港のターミナルを出たとき、同じ感覚に陥った。
「バンコクには音がない……」
 ちょうど雨あがりだったから? と自問してみる。目の前にはモーチット行きのバス停があり、車が動いていく。しかしジャカルタに比べると、やはり音がない。
 インドネシアでは、人の多さに振りまわされていた。バンコクに戻る前日は日曜日だった。そして僕は、朝7時のテガル駅で天を仰いでいた。
 インドネシアの全鉄道を制覇するという旅を続けていた。地方の鉄道にいくつか乗り、テガルからジャカルタに帰ろうとしていた。テガルはジャカルタとスラバヤを結ぶ、インドネシアいちばんの幹線の途中駅である。ジャカルタ行き列車は1日に20本近くある。ジャカルタ行きの列車は週末、混みあうことは知っていた。しかし20本もあるのだ。1席ぐらいあるだろうと思っていた。しかし甘かった。切符売り場で、「今日は1日中、満席」と伝えられた。急いでバスターミナルに向かって混みあうバスになんとか乗ったが。
 インドネシアはいま、高度経済成長のただなかにいる。街行く人は体からエネルギーを発散させている。交通というインフラは経済発展についていけない。人々は席の確保に奔走する。
 かつての日本がそうだった。そしてしばらく前のタイがその空気を孕んでいた。
 ジャカルタからバンコクに着いて感じとった街の静けさ。それはタイという国の成熟を示しているのだろう。いたずらに音を発しない社会……。同時にその事実は、タイという国の成長が終わったことを示していた。タイとかかって40年。僕はあるものを見てしまったのかもしれない。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=玄奘三蔵が辿ったシルクロードの旅。いまは中央アジア編を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。インドネシアの列車旅の連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記


Posted by 下川裕治 at 11:44│Comments(1)
この記事へのコメント
音は活気、人や物のエネルギーの様な気がします。
僕は初めて行った海外がバンコクで
ガヤガヤとした人々の賑わいやトゥクトゥクのクラクション、ビアバーからの音楽。
そう言った喧騒に何処か成長して行くアジアを感じ、そして感動をしたのだと思います。
今はすっかり静かになってしまったのですね。自然な流れですがちょっと切ないですね。
Posted by たぬきまるだいすけ at 2018年07月16日 15:18
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