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ナムジャイブログ

2018年07月30日

列車旅というもの

『鉄路2万7千キロ 超長距離列車を乗りつぶす』(新潮文庫)という、長いタイトルの本が発売になった。
 インド、中国、ロシア、カナダ、アメリカという国を走る長距離列車に乗りぬいた旅行記である。短い路線でも4000キロを超え、最も長いシベリア鉄道は9000キロを超える列車旅である。
 ひと口に長距離列車といっても、それを決めることに苦労した。世界の列車は、乗り継いでいけば延々と続くわけで、長距離という列車旅の定義からはじめなくてはならなかった。列車名が変わらないというひとつのルールを決めた。その結果、大国といわれる国を走る列車になっていった。
 この旅には、もうひとつの決めごとがあった。途中下車不可というものだった。編集者との打ち合わせのなかから、なんとなくそういうことになってしまった。
 その行程が長くなるほど、旅のなかに生活が生まれる。たとえばシベリア鉄道は6泊7日。来る日も、来る日も列車に乗り続けることになる。「退屈じゃないですか?」。人からよく訊かれた。乗り終えた感覚からすれば、退屈ではなかった。しかし単調だった。人は長い列車旅のなかでどんな行動をとるものなのか。僕の原稿はどこか車内での生活づくりに彩られていく。朝、マイナス20度のホームで飲むコーヒー。コンパートメントのなかの人間関係……。それは旅というより、旅の日常である。
 弾丸旅行の対極にあるような旅。日々、気になるのは些細なことだ。明日の昼はなにを食べようか。今夜は枕の位置を変えるとよく眠ることができるかもしれない。
 こうして列車旅は続いていく。
 僕はときどき思うことがある。旅の本質とは、そんな些細なことの積み重ねではないか……と。頭のなかが白くなるトラブルがそう起きるわけではない。列車が停まってしまうような天候にしばしば見舞われるわけではない。
 淡々と続く旅のなかに、旅の本質は潜んでいる気がする。それは、贅沢な旅でもある。時間だけはたっぷりあるのだ。
 今回は途中下車ができないなかで、その時間感覚に浸れた気がする。そんな旅を、読者の方々がどれだけ楽しんでもらえるかは、別の問題かもしれないが。
 5つの超長距離列車のなかで、どれがいちばんお薦めですか? そんな質問もよくいただく。それぞれ一長一短といったところなのだが、やはり、シベリア鉄道だと思う。
 6泊7日──。ただ列車に揺られ続ける。列車旅の本質がそこに横たわっている。そんな時間が、一生のなかに1回ぐらいはあっても間違いではない気がするのだ。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=玄奘三蔵が辿ったシルクロードの旅。いまは中央アジア編を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。インドネシアの列車旅の連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記


Posted by 下川裕治 at 11:25│Comments(3)
この記事へのコメント
移動する事が旅の楽しみの私です。
人生で1度ぐらいは、そんな旅をしてみたいです。
船旅よりは陸路がいいなぁ。
Posted by hinai at 2018年07月30日 16:17
素敵です。
本当に最近…時間的贅沢>金銭的贅沢だと感じています。
Posted by amy at 2018年08月01日 16:47
怠け者の僕にはぴったりかも知れない。
とは言えこんな長距離、長時間閉じ込められたらどうなるか。
メンタルの変化か楽しみです。

何日目で嫌で仕方なくなるか。
何日目で諦めて身を委ねるか。
何日目で楽しくなってくるか。

いったいどう成ってしまうのかな。
Posted by たぬきまるだいすけ at 2018年08月07日 17:25
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