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ナムジャイブログ

2018年10月15日

生々しい家族

 突然タイ人の知人から連絡が入った。彼は中部タイのナコンサワンに住んでいる。いま、どんな仕事をしているのかは知らない。年齢は、そう50歳ぐらいだろうか。内容はこんなものだった。
 ビザが降りたので、アメリカに行く。仕事はなんなのかよくわからないが、娘がすべて手配してくれた。1年ほどアメリカに住んだら、妻と息子を呼ぶつもりだ。息子をアメリカの大学に入れようと思う。
 唐突な話だった。彼は英語をほとんど話すことができないと思う。その彼がアメリカで働くのだという。
「ビルの掃除、ゴミの回収……どんな仕事でもするよ。なんとか息子をアメリカの大学に通わせたいんだ」
 なんだか中国人と話しているような気分になった。
 優秀な娘がいるという話は、彼の口から聞いていた。オーストラリアに留学し、そこで知り合ったアメリカ人と結婚。いまはアメリカの西海岸で車関係の仕事をしているようだった。なんでも年収は1000万円を超えているのだという。
 子供をペンション、つまり年金だと考えるタイ人は多い。子供を立派に育て、その子供が親を養う発想だ。
 そして家族の誰かが成功したら、その人が家族を支えていくと考えるタイ人も少なくない。その誰かが、女性というあたりがタイらしい。タイ人のことだから、うまくいかなかった……と、あっさりアメリカから帰ってくるかもしれないが、娘を頼りに父親が渡米することは確かだった。
 支えあう家族──。知人のイギリス人はその姿に感激してタイ人女性と結婚した。家族のつながりで悩む男にとっては、タイをはじめにする東南アジアの国々は鬼門なのだろうか。
 そこには、国家と個人の関係が潜んでいる。社会保障というものは、個人が国家を信用しているから成立する。だから日本の年金制度は問題なのだ。日本人の多くは、一時期、老後の暮らしは国家が保証してくれると思っていた。
 タイの社会保障は脆弱だ。それを国家の成熟度の低さに結びつける専門家はいる。しかしその一方で、社会保障が充実しているという国の男たちが、アジア人に刷り込まれた家族が支えあう姿に老後の幸せを重ねる。
「家族があえば国家はいらない」
 とでもいいたげに。
 日本人の老人の多くは、家族に迷惑をかけずに生きたいと考える。家族愛のようなものはあるのかもしれないが、金銭的なやりとりは嫌われる。愛情と金銭は別のものという発想なのだ。それに比べると、アジアの家族は生々しい。しかしそれだからこそ、彼らの家族には、夢がいっぱい詰まっている。少々頼りないが。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=玄奘三蔵が辿ったシルクロードの旅。いまはインドから中国に戻る帰路編を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。インドネシアの列車旅の連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記


Posted by 下川裕治 at 14:02│Comments(0)
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