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ナムジャイブログ

2019年03月25日

蚊帳のなかで眠る

 昔から蚊には悩まされてきた。蚊のいない街……世界では珍しいと思う。昨年、ウズベキスタンのタシケントにいた。このエリアの春と秋は、もう天国ではないかと思うほどいい気候に包まれる。地元の知人がこういう。
「この時期、外で寝ることができますよ。気候もいいし、タシケントには蚊がいませんから」
 そう聞いたとき本当に天国かと思った。たしかにタシケントには蚊がいない。
 いまバンコクにいる。暑くなってきた。この時期いつも思うのだが、蚊が少ない。1回も刺されないことが珍しくない。昔から思うのだが、本格的な暑気は、蚊が少ない。むしろ、その手前の時期のほうが蚊は多い。
 台湾でも同じことを聞いた。台北は、6月、7月といった時期が、いちばん暑くなる。しかし蚊は少ない。多いのは2月から4月ぐらいだという。アジアのなかでも、台湾は蚊が多いところだと思う。彼らがそういうから、たしかかもしれない。本格的な暑気の前に蚊が多くなる……。
 今年の2月。バングラデシュ南部の村で家を借りて住んでみた。その家の壁は、竹を編んだだけの一枚壁だった。隙間だらけだ。バングラデシュでは珍しくないが、こういう家に寝泊まりしたのははじめてだった。
 夜、外の気配がよくわかった。庭に入った猫の息遣い、ネズミの足音、ヤモリの鳴き声……。壁は隙間が多いから、蚊の出入りは自由である。蚊の多い時期だった。やはり暑くなる前の時期である。部屋のなかでは蚊帳を吊って寝る。
 快適に寝るためには、蚊帳のなかに蚊を入れないことだった。そのためには、まず細心の注意を払って、蚊帳を畳むことだった。朝になり、蚊帳をかたづけるのだが、そのとき、丁寧に折り畳む。なかに蚊が入らないようにするのだ。そして、蚊帳を吊るときは、速さを心がける。さっさと吊るし、下側は布団に巻き込んでいく。
 しかしいくら注意しても、蚊は入ってきてしまう。電気を消し、体を横たえると、ぷーんという羽音。あれは不快である。そのために殺虫剤を買った。蚊帳を吊った後内部に吹きかけた。
 日本のメーカーが蚊がとまると死ぬ薬剤を練り込んだ糸で編んだ蚊帳をつくった。よく売れているという話を聞いた。しかしなぜ、売れるのかわからなかった。蚊帳の外にいる蚊がとまって死んだところで、眠る側には関係のないことだ。
 ぷーんという羽音を耳にして、はじめて気づいた。そういうことだったのか……。
 蚊を殺す蚊帳──。それは、外にいる蚊ではなく、蚊帳のなかに入った蚊対策だった。
 開発者はきっと、蚊帳の中に入ってしまった蚊に悩んだのに違いない。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=再び「12万円で世界を歩く」のシリーズが連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。いまは番外編を連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記


Posted by 下川裕治 at 12:09│Comments(0)
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