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ナムジャイブログ

2019年06月24日

外国人労働者のしたたかさ

『日本の異国』(晶文社。室橋裕和著)を読みながら、バッファーという言葉を思い出していた。緩衝材とでも訳そうか。最近では、外国人労働者に対して使われることが多い。
 以前、シンガポールのリー・シェンロン首相がこの言葉を遣い、人権派から非難を浴びたことがある。
「外国人労働者は、シンガポールにとってはバッファーである」
 人手不足を補うために受け入れるが、その問題が解決されれば出ていってもらう……という文脈だった。
 いまの日本は、バッファーという言葉こそ遣わないものの、目先の人手不足を解消するために、技能研修生をはじめとする外国人労働者を受け入れている。
 そういった国レベルの発想を、みごとなほどに笑い飛ばしてくれるのが本書である。ひとり、ひとりの人間は、国の思惑など関係なく、したたかに生きている……と。
 この本は、日本に暮らす外国人、とくにアジア人を中心に、丁寧に接触し、そのコミュニティや生活を描いている。フィリピンやミャンマーのコミュニティを耳にしたことがある人はいるかもしれないが、モンゴルや国がないクルド人の社会まで日本には生まれている。筆者はその嗅覚に任せるように、日本のなかの異国に分け入っている。
 それぞれの国は違った経済状況を抱えている。日本のいまは人手不足だろうか。経済界からは、外国人の働き手の日本入国の壁を低くしてほしいという要求が寄せられる。その圧力のなかで、政府は技能研修生という資格を拡大解釈していく。単純に労働ビザを発給してしまうと、バッファーにならないのだ。政府はもう少し、巧妙に外国人政策を練っているのかもしれないが、それほど難しい制度ではないので、カモフラージュも難しい気がする。
 しかしもし、技能研修生をバッファーだととらえるなら、それがいかに甘い発想か、本書は穏やかな口調で語っているようにも思うのだ。やってきた外国人と日本人の間には、唐突に恋愛が生まれることもある。外国人同士の間に子供が生まれることもある。なかには病気で入院する人もいる。彼らは皆、日本人と同じ人間なのだ。
 前にも書いたが、僕は外国人が経営する飲食店によく足が向く。日本人の店より、温かい空気に包まれているからだ。日本人の店はマニュアル化されていたり、トラブルを避けることばかりが優先され、ときに息苦しさを覚えてしまう。外国人の店は優しい。どうも筆者もそのタイプらしい。読んでみるとそのあたりは伝わってくる。
 そうとらえれば、本書は日本の飲食店ガイドでもある。著者の意図とは違うかもしれないが。

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○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記


Posted by 下川裕治 at 15:49│Comments(1)
この記事へのコメント
何度も読み返していては立ち止まる、仏教の本て何だろう?
Posted by フランソワーズフランソワーズ at 2019年07月05日 22:23
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