2019年08月19日
スポーツ大好き人間にはなれない
昨年の11月から、山を歩く機会が多い。ネパールのアンナプルナ山塊のトレッキング、そして台湾の野渓温泉、日本の常念岳……。野渓温泉というのは、河原に湧出する温泉のことで、日本では野天温泉といったりする。温泉が湧くのは川底。そこまで1~2時間、山道をくだらなくてはならない。くだった後は、その道を登ることになる。完全に登山である。
僕の旅に抱く読者のイメージは、快適な旅ではない。つらい道のりを歩き、長距離バスに乗る……そんな旅である。その流れの企画ばかりだから、年をとっても、きつい旅ばかりだ。
しかし山歩きは違う。本当にきつい。高校時代、山岳部で山に登っていたから多少の自信はあった。しかしその自信も、60歳をすぎた頃からきれいになくなってしまった。筋力の衰えは唐突にやってきて、登るスピードが急に遅くなってしまった。人の老化話を聞かされるのはつまらないことだとは思うが、本人にしたら切実な悩みでもある。
若い頃、登った山小屋の主人からこんなことをいわれたことがあった。彼はそのとき、60歳代だったと思う。
「湯を沸かすわずかな時間でもスクワットをしてますよ」
僕は若く、その言葉の切実さもわからずに聞き流していたが、いまになると、その言葉の意味がよくわかる。
しかし言葉が伝わっても、スクワットをするか……というと別問題である。人には体を動かすことが好きなタイプと、それほど関心がないタイプがいる。僕は後者である。原稿を書くことを生業とする人には、運動嫌いという人が少なくない。
ところが年をとり、体力が落ちてくると、周囲の人は、判で捺したように、「運動をしなさい」というのだ。老化を防ぐため、好きでもない運動に汗を流すことを強いるようなところがある。しかし急にウォーキングをはじめたりするのだが、もともと、体を動かすことへの熱意が高くないから、長くは続かない。年をとったからといって、スポーツ大好き人間には変身できないのだ。
なにかが違う──。常念岳を登りながら考える。一般的なコースタイムでは4~5時間で常念岳を望む常念小屋に着くのだが、僕は7時間もかかってしまった。しかし山はどこにも行かない。ゆっくり歩いても山小屋には着くのだ。
こういうことをいうと、頑固で孤独な老人への道を進んでいる気にもなるが、世間の速度には合わせず、自分のペースで歩く、という発想に傾く自分がいる。
学生の頃から、努力を重ねて目標を達成するという精神土壌のなかでコンプレックスを抱きながら生きてきた。年をとってもそれを繰り返していく? 目標を低くすれば、少しは楽になるのではないか。夕日に染まる常念岳を眺めながら考えていた。
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下川裕治をリーダーに、僕らの街、バンコクを紹介する旅好きライター集団。ゲストハウスに必ずあった"旅の情報ノート"に書き込むように『歩くバンコク』で情報発信し、旅好き仲間と交流できる会です。
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■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=台湾の超秘湯の旅を連載中。
○旅をせんとやうまれけむ=つい立ち止まってしまうアジアのいまを。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。いまも続いています。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
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しかし山歩きは違う。本当にきつい。高校時代、山岳部で山に登っていたから多少の自信はあった。しかしその自信も、60歳をすぎた頃からきれいになくなってしまった。筋力の衰えは唐突にやってきて、登るスピードが急に遅くなってしまった。人の老化話を聞かされるのはつまらないことだとは思うが、本人にしたら切実な悩みでもある。
若い頃、登った山小屋の主人からこんなことをいわれたことがあった。彼はそのとき、60歳代だったと思う。
「湯を沸かすわずかな時間でもスクワットをしてますよ」
僕は若く、その言葉の切実さもわからずに聞き流していたが、いまになると、その言葉の意味がよくわかる。
しかし言葉が伝わっても、スクワットをするか……というと別問題である。人には体を動かすことが好きなタイプと、それほど関心がないタイプがいる。僕は後者である。原稿を書くことを生業とする人には、運動嫌いという人が少なくない。
ところが年をとり、体力が落ちてくると、周囲の人は、判で捺したように、「運動をしなさい」というのだ。老化を防ぐため、好きでもない運動に汗を流すことを強いるようなところがある。しかし急にウォーキングをはじめたりするのだが、もともと、体を動かすことへの熱意が高くないから、長くは続かない。年をとったからといって、スポーツ大好き人間には変身できないのだ。
なにかが違う──。常念岳を登りながら考える。一般的なコースタイムでは4~5時間で常念岳を望む常念小屋に着くのだが、僕は7時間もかかってしまった。しかし山はどこにも行かない。ゆっくり歩いても山小屋には着くのだ。
こういうことをいうと、頑固で孤独な老人への道を進んでいる気にもなるが、世間の速度には合わせず、自分のペースで歩く、という発想に傾く自分がいる。
学生の頃から、努力を重ねて目標を達成するという精神土壌のなかでコンプレックスを抱きながら生きてきた。年をとってもそれを繰り返していく? 目標を低くすれば、少しは楽になるのではないか。夕日に染まる常念岳を眺めながら考えていた。
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Posted by 下川裕治 at 14:54│Comments(0)
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