2019年11月11日
北の港の案山子はカモメ?
朱鷺という鳥が好きだ。朱鷺色はもっと気に入っている。黄を帯びた桃色といったらいいだろうか。落ち着きのある色だと思う。しかしいちばん好きなのは、朱鷺という漢字。朱色のサギ。そういえば、五木寛之の「朱鷺の墓」という小説を高校時代に読んだ。朱鷺という文字が好きだったからだろうか。
朱鷺の天敵はカラスだという。卵を奪ったり、雛を襲ったりするらしい。
その話を聞いたとき、「なぜ?」と疑問に思った。
あれはいつだったか。津軽半島の蟹田港にいた。ここから下北半島にむけてフェリーが出る。訪ねたのは冬だった。
津軽半島の冬の港。そこは暗く、寒く……だからそそられるものがあり、つい足を向けてしまったのだが、いざ、港にきてみると、することはなにもない。波止場の縁石に座って、ぼんやりするしかない。蟹田港には、番小屋のようなつくりの小屋が並んでいた。そこで獲れた魚を処理しているようだった。ときおり、ビニールの前かけ姿のおばさんが現れ、魚の内臓や骨などを小屋裏のゴミ捨て場に捨てていた。それをめがけて、カモメとカラスが集まってくる。しかしそこには、はっきりとした力関係があった。カモメの方が強いのだ。カラスはごみ箱を突くカモメの集団に近づけず、遠巻きにして、カモメが食べるおこぼれを狙っていた。
カモメはカラスに比べて体も大きい。色も白く、猫のようなはかなげな声で鳴く。しかしかなり気が荒いところがある鳥である。それをカラスも知っているのだろうか。
その光景を見たとき、カラスはカモメの卵や雛を襲わない気がした。そんなヒエラルキーを感じてしまった。
とすると、朱鷺というのは、かなりおっとりとした性格なのかもしれない。
今年の9月、カナダの北極海に面した町にいた。トゥクトヤクトゥクという村だった。ホワイトホースから1000キロ以上の道を進んできた。カナダの北極海……と意気込んでやってきたが、いざ到着すると、することはなにもない。そこでインディアンがサケの燻製をつくっていた。小さな小屋がいくつか並んでいた。熾からかすかに煙が出ていた。スモークするサケを処理し、内臓や頭などを彼らは海岸に捨てた。すると、蟹田港とまったく同じことが起きた。カモメがついばみ、それをカラスが遠巻きにしている。北極海の海岸でも、同じ力関係だった。
サケの燻製小屋の屋根には、カモメの置物がとりつけられていた。北極海から吹きつける冷たい風にくるくるとまわる。
「これってカラス避け?」
米が実った水田につくられる案山子役が、北極海の港ではカモメ。インディアンの知恵だろうか。
【告知】
■「“読まれる旅行記”の書き方」講座は11月12日。詳細はhttps://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01quvz10ixmk1.html
■“旅情報ノート”クラブの内容は、以下のサイトで http://www.arukubkk.com/
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=タイの国境旅を連載中。
○旅をせんとやうまれけむ=つい立ち止まってしまうアジアのいまを。
○アジアは今日も薄曇り=台湾の秘湯シリーズがはじまりました。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
朱鷺の天敵はカラスだという。卵を奪ったり、雛を襲ったりするらしい。
その話を聞いたとき、「なぜ?」と疑問に思った。
あれはいつだったか。津軽半島の蟹田港にいた。ここから下北半島にむけてフェリーが出る。訪ねたのは冬だった。
津軽半島の冬の港。そこは暗く、寒く……だからそそられるものがあり、つい足を向けてしまったのだが、いざ、港にきてみると、することはなにもない。波止場の縁石に座って、ぼんやりするしかない。蟹田港には、番小屋のようなつくりの小屋が並んでいた。そこで獲れた魚を処理しているようだった。ときおり、ビニールの前かけ姿のおばさんが現れ、魚の内臓や骨などを小屋裏のゴミ捨て場に捨てていた。それをめがけて、カモメとカラスが集まってくる。しかしそこには、はっきりとした力関係があった。カモメの方が強いのだ。カラスはごみ箱を突くカモメの集団に近づけず、遠巻きにして、カモメが食べるおこぼれを狙っていた。
カモメはカラスに比べて体も大きい。色も白く、猫のようなはかなげな声で鳴く。しかしかなり気が荒いところがある鳥である。それをカラスも知っているのだろうか。
その光景を見たとき、カラスはカモメの卵や雛を襲わない気がした。そんなヒエラルキーを感じてしまった。
とすると、朱鷺というのは、かなりおっとりとした性格なのかもしれない。
今年の9月、カナダの北極海に面した町にいた。トゥクトヤクトゥクという村だった。ホワイトホースから1000キロ以上の道を進んできた。カナダの北極海……と意気込んでやってきたが、いざ到着すると、することはなにもない。そこでインディアンがサケの燻製をつくっていた。小さな小屋がいくつか並んでいた。熾からかすかに煙が出ていた。スモークするサケを処理し、内臓や頭などを彼らは海岸に捨てた。すると、蟹田港とまったく同じことが起きた。カモメがついばみ、それをカラスが遠巻きにしている。北極海の海岸でも、同じ力関係だった。
サケの燻製小屋の屋根には、カモメの置物がとりつけられていた。北極海から吹きつける冷たい風にくるくるとまわる。
「これってカラス避け?」
米が実った水田につくられる案山子役が、北極海の港ではカモメ。インディアンの知恵だろうか。
【告知】
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○クリックディープ旅=タイの国境旅を連載中。
○旅をせんとやうまれけむ=つい立ち止まってしまうアジアのいまを。
○アジアは今日も薄曇り=台湾の秘湯シリーズがはじまりました。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
Posted by 下川裕治 at 11:43│Comments(1)
この記事へのコメント
僕、三重の松阪市在住で、近くに伊勢湾が、あります。海の街って感じでもありませんが、カモメパワー、試してみたいです。
Posted by たかしま at 2019年11月12日 22:37
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