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ナムジャイブログ

2020年11月23日

ユダヤ人虐殺と感染症

 自宅に引きこもっている。コロナ禍とは関係はない。長い原稿を書かなくてはならないからだ。僕の日常は、旅と引きこもりの繰り返しである。それは10年前、いや、20年前から変わらない。
 原稿を書かなくてはいけないのだが、こういう時期は、本が輝きを増す。
『疫病と人類』(山本太郎著 朝日新書)をぱらぱらとめくってしまう。
 そのなかで、14世紀に起きたユダヤ人大量虐殺に触れている。ペストが流行するなか、ユダヤ人が井戸に毒を投げ込んだという風評が広がる。それが虐殺の正当化につながる。
 多くの庶民は、ユダヤ人から金を借りていた。そのとり立ては厳しく、妬みの感情が生まれる。そこにペスト禍。ユダヤ人を悪者にして、借金を棒引きにし、さらに妬みを晴らそうとする。ユダヤ人の処刑には、ペスト禍以前は善良な市民だった人たちが加わったという。
 その内容を詳しくしりたくて、『ユダヤ人迫害史』(黒川知文著 教文館)を読む。
 新型コロナウイルスの感染が広がるなか、人々はポストコロナに世界に明るい材料を求める。新しい生活スタイルに希望を託そうとする。それは当然のことだ。
 しかしそこには、実現不可能な絵空ごとも多く含まれている。それに比べると、歴史はあまりに冷徹だ。
 パンデミックの後、国家主義が台頭する傾向が強い。中世にヨーロッパで起きたペストの大流行を経て、教会は権威を失い、国家が前面に出てくる。そして大航海時代、植民地主義へとつながっていった。
 直近の話でいえば、分断化した社会は、その溝をさらに深めていく可能性が高い。
 マニラに住む知人がとzoomで話をする。フィリピンは世界で最も厳しいというわれる行動制限が敷かれている。いまでも深夜は外出禁止令だ。シャッターを閉めた飲食店もかなりある。失業者はすでに300万人を超えているという。そんな人たちは、ひとつ30円ほどのサバの缶詰だけをおかずにごはんという日々をすごしているという。フィリピンのある調査会社の調べでは、約30%が飢えを感じはじめているという。
 この状態が続けばなにが起きるかわからない。新型コロナウイルスを抑え込んでいる国でも、分断はより深刻になりつつある。
 ペスト禍のユダヤ人虐殺を過去のできごとと片づけられない状況にしだいに近づいている気がしないでもない。
 政治家はコロナ禍のなかで厳しい規制に走りがちだ。規制を緩め、感染が広まることへの非難を避けようとするからだ。そしてこういう時期は、政治家への支持率はあまりさがらない。旗下結集効果という。
 しかしそのなかで、分断や格差はますます広がっていく。それほど悲観に走らなくてもいいのかもしれないが。

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Posted by 下川裕治 at 12:44│Comments(0)
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