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ナムジャイブログ

2020年11月30日

休息のエネルギー

 作家の大城立裕氏が亡くなった。先月、10月27日だった。95歳だった。
 本棚にあった彼の本を抜き出す。付箋がいっぱい貼られ、書き込みも多い1冊。
『休息のエネルギー』(農文協)である。
僕は沖縄に関する書籍をかなり読んだが、そのなかでも読み込んだ1冊だった。小春日和が射し込む部屋で、原稿の締め切りがあるというのに、ついページをめくってしまった。
 大城立裕氏は、「カクテル・パーティー」という作品で芥川賞をとった小説家である。しかし、『休息のエネルギー』は小説ではない。エッセイ集とも違う。彼の沖縄論といってもいい著作である。
 大城氏は一貫して、沖縄は日本から差別されてきた……という主張を続けてきた。「カクテル・パーティー」にしても、その構造が流れている。太平洋戦争だけではなく、薩摩藩の支配、そして琉球処分と続く沖縄史の流れから、差別と被差別の関係を訴えてきた。
 しかしその話を進めるためには、沖縄の文化を伝えなくてはならない。『休息のエネルギー』とはそういう本だ。僕はこの本から実に多くの沖縄を学んだ。沖縄のテキストといってもいいかもしれない。
 僕はこの本ではじめて、「男逸女労」という言葉を知った。女が働き、男は遊んでいるという意味だ。「男ひとりを養えないようでは女とはいえない」といわれていたという。こんなエピソードも紹介されている。大城氏がある女流作家を市場に案内したときのことだ。その女流作家が、市場の女性に、ご主人はどうしているのか……と訊いた。するとこんな答えが返ってきた。
「子守をして遊んでますよ。アハハハ」
 そこから大城氏は、沖縄の女性の自信と優しさに話を展開させていく。
 大城氏は県庁で働いていた。あるとき、一本の電話がかかってきた。
「あのですね。日本の天皇が琉球音楽を盗もうとしていますが、どうしたらいいでしょうか」
 電話の主はユタのようだった。ユタというのは、沖縄の霊媒師である。しかし彼女の不安を大城氏は分析していく。そこにあるのは日本復帰後の生活様式の変化だと。
 沖縄とアメリカの関係にも言及する。そこから、休息のエネルギーという言葉が出てくる。「人間として、おたがいに休むときは平等にともに休んできた」……と。
 この本が出たのは1987年である。僕は33歳だった。この本を読んで沖縄にはまっていったといってもいい。それまでの僕の頭のなかは、沖縄を差別してきた日本人のそれだった気がする。同情は差別と同じスタンスなのだ。日本の左翼が陥っていた沖縄への隘路だった。そこから解放させてくれたのが、『休息のエネルギー』だったのだ。
 いま沖縄の本を書いている。大城氏の言葉が沁みる。


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Posted by 下川裕治 at 12:47│Comments(0)
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