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ナムジャイブログ

2021年01月11日

緊急事態宣言下の疎外感

 新年早々、東京に緊急事態が宣言された。連日、2000人を超える新型コロナウイルスの感染者が発表されている。
 金曜日の晩、リモートのトークイベントがあった。終わったのは夜の9時をまわっていた。その日から、緊急事態宣言が発令されていた。駅への道すがら、なにか食事でもと思ったが、店は軒並み閉まっていた。
 飲食店、とくにアルコール類を出す店での飲み会で感染が多いようで、その種の飲食店は夜8時までの営業になった。酒を出さない店舗は1月12日から夜8時までの営業なのだが、その種の店もシャッターを降ろした店が多かった。
 自宅の最寄り駅は中央線の阿佐ヶ谷駅なのだが、駅周辺の店も多くが閉まっていた。コンビニを頼るしかない。
 家路につきながら、とらえどころのない疎外感に包まれていた。それは昨年、1回目の緊急事態宣言のときもそうだった。しかし今回は飲食店にターゲットを絞った規制。以前にもまして鼻白む思いが募る。
 多くの店が自主的に店を閉めたことをいっているのではない。世間というものと、自分の存在の乖離が浮きたってしまうのだ。
 僕は酒を飲むが、人と一緒に飲むことは好きではない。バーのように、店の人と話すところも好きではない。ただひとりで飲めればいい。
 阿佐ヶ谷駅前に深夜まで営業している蕎麦屋がある。こういう店が僕には合っている。なにも話さなくてもいいからだ。講演の後や飲み会の後で寄ることが多い。
 だから飲食店が8時に閉まっても、なにかを制限されているという感覚が薄い。家でひとり、酒を飲めばいい。それで満足してしまう。「国民に多くの犠牲を強いる」という政府の言葉もぴんとこない。暗い男だと思われるかもしれないが。
 開高健がこんなことをいっていた。
「ひとりで酒を飲むのはやめなさい。それは楽しすぎるから」
 その意味がよくわかる。できるだけ人と話そうとするが、やはり苦手なのだ。
 感染予防のために飲食店を早く閉めることには賛成する。しかしその予防策の前で、僕は疎外感に包まれる。皆、話しながら酒を飲むことが好きなんだ……と。
 大阪で開高健の講演記録がみつかった。そのなかで、彼はこんなことをいっていた。
「小説は無益であるからこそ、貴重である。なにもかもが、有効であり、有益であったならば、この世はもう空中分解してしまう」
 その通りだと思う。声高にリモートワークを提唱する発想のなかには、この感覚が抜けている。開高健をして、そういわせるのだから、いったい僕はどうしたらいいのかと、東京の街のなかで立ち尽くしてしまうのだ。
 とらえどころのない疎外感の落としどころがみつからない。


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Posted by 下川裕治 at 12:19│Comments(1)
この記事へのコメント
一人飲み。良いです。
40を越えて、色々な酒場に行くようになったのも、一人で静かに飲めることが条件だった。若いうちは仲間としか行かなかった。今は一人。大事な時間です。8時閉店・・・。早すぎますね。
Posted by なかも at 2021年01月23日 12:01
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