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ナムジャイブログ

2021年01月25日

午後は仕事をしない

 緊急事態宣言の東京も、春の気配が感じられるようになった。寒い信州で育ったから、春のにおいや色には敏感である。南向きの田の畔にオオイヌノフグリという青い小さな花をみつけると、縮こまった背中がのびる思いがしたものだった。「春は名のみの風の寒さや」の時期である。
 事務所に向かう途中、中野駅近くの南側斜面で、オオイヌノフグリを探した。みつからなかったが、代わりにタンポポがひとつ、黄色い花をつけていた。東京の春は信州より早い。そういえば梅も咲きはじめている。
 日本の花見といえば桜が定着したが、かつては梅だった。奈良時代、梅を観ながら歌を詠んだことが花見の原型だ。酒も飲んだだろう。当時の気候がいまの日本と大きく違わないから、花見はおそらく昼だったはずだ。夜は寒く、花見どころではない。
 知人から昼酒を誘われた。緊急事態宣言で飲食店は夜の8時まで。ゆっくり酒も飲めないから……と知人はいった。
 小石川後楽園の庭園のなかに、江戸時代の飲み屋を再現した建物がある。その前にこう書かれている。
「酒を飲むに昼は九分夜は八分にすべし」
 江戸時代は昼酒派が多かったらしい。いや世界の多くの国で昼酒があたり前だった気がする。
 スペインのある街で昼食に誘われた。旅行会社を経営するスペイン人だった。昼食ではしっかりとワインを飲み、食後のコーヒーが出てきた。エスプレッソとブランデー。コーヒーはブランデーのチェイサーのようにして飲むのだという。こういう飲み方をはじめて知った。
 コーヒーとブランデーの相性は驚くほどよかった。
 しかし酔った。
 知人はその足で自宅に帰った。シェスタである。僕は宿に戻った。アルコールの酔いも手伝い、すっかり寝てしまった。スペイン人は夕方、また出社するのだが、それは信じられないことだった。どこからそんな気力が湧いてくるのだろう。もし僕がその環境に置かれ、出社しなくてはならないなら、昼酒は飲まない。
 翌朝、彼と会った。ピシッと髪を整え、仕事をこなしている。そのとき、ふと思った。
「彼がちゃんと仕事をするのは昼までではないだろうか」
 江戸時代の日本人は、かなりのんびり仕事をしていた。当時の暮らしを描いた本を読むと、そのあたりがわかる。「昼九分……」。それは昼以降、仕事をしない環境から生まれた言葉かもしれない。いつからか、人々は多くの仕事を背負い、それをこなす勤勉さを強要されていった。
 閑話休題。緊急事態宣言下の昼酒である。楽しかったが、その後がつらかった。仕事に戻ったが、エネルギーが湧いてこない。以前からそうだった。だから昼酒は苦手だった。今回、やっと気づいた。午後、仕事をしようとするから、昼酒はつらいのだ。
 新型コロナウイルスは、そんな勤勉さをたしなめている? そんなわけはないか。


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Posted by 下川裕治 at 16:28│Comments(0)
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