2021年04月19日
唾液が少ない人生
世界の人々のなかで、どのくらいの人がPCR検査を受けたのだろうか。その結果は完全というわけでもなく、その後で感染してしまえばなんの意味もなくなってしまう検査だが、「いま」の不安というものがある。我が家をみても、全員が1回はPCR検査を受けている。体調がすぐれないとき、どうしても新型コロナウイルスへの不安に傾いていってしまう時代である。日本も簡単にこの検査を受けることができるようになってきた。
僕は体調には関係なく、海外に出たために何回もこの検査を受けた。
PCR検査は、一般的にはふたつの方法で検体をとる。鼻腔ぬぐい液と唾液だ。鼻腔ぬぐい液をとるときは、鼻の奥に綿棒を入れる。ちょっと痛い。綿棒は英語でスワブという。海外に渡航するときはPCR検査が義務づけられていることが多いから、しばしばスワブテストという説明を耳にする。
このスワブテストが一般的な方法かと思っていたが、成田空港では小振りの試験管を渡された。この線のところまで唾液を入れてください、といわれた。
試験管は細いが、底から1センチほど唾液を溜めなくてはならない。口のなかの唾液を絞りだすようにして入れたが、2ミリにも満たなかった。
「皆、簡単に唾液を溜めることができるんだろうか」
唾液をとる場所は簡易ブースのようなつくりになっていた。人の動きを見ていると気が散るので、壁に向かい、口のなかに唾液を溜める。唾液をとるには、かなり集中しないといけない。いや、そう思ったのは僕ぐらいなのだろうか。
「唾液が少ないね」
あれは小学校の高学年のときだった気がする。虫歯の治療のために歯科医にかかっていた。
「唾液が少ないと、虫歯になりやすいよ。ご飯をよく噛んで食べることだね。そうすると唾液が出やすくなるから」
歯科医の説明を、僕は口を開けたまま聞いていた。
歯科医の予測はみごとにあたった。20歳の頃には、治療はしてあるものの、奥のほうの歯はすべて虫歯だった。歳をとると、治療した歯もダメになってくる。昨年の末、一ヵ所が入れ歯になってしまった。
「気をつけないと、ほかの場所も入れ歯に鳴っちゃいますよ」
歯科医からそういわれているが。
僕は唾液の少ない人生を歩んできたのかもしれない。「固唾を呑む」ということわざがあるが、どうしてもぴんとこない。原稿でも使っていない気がする。
試験管を手にそんなことを考えてみる。しばらくじっとしていないと唾液が溜まらないのだ。僕の後からブースに入った人はもう出ていってしまった。唾液というものは、焦って出せるものでもない。
これからも何回か唾液の採取で苦労するのだろうか。
■コロナ禍でも旅に出たい。そんなオンラインサロンをはじめます。詳細は以下。
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01v8b3bubhj11.html
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg?view_as=public
面白そうだったらチャンネル登録を。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=旅先で食べた料理の再現シリーズを連載中。
○旅をせんとやうまれけむ=つい立ち止まってしまうアジアのいまを。
○アジアは今日も薄曇り=沖縄の離島のバス旅シリーズを連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
僕は体調には関係なく、海外に出たために何回もこの検査を受けた。
PCR検査は、一般的にはふたつの方法で検体をとる。鼻腔ぬぐい液と唾液だ。鼻腔ぬぐい液をとるときは、鼻の奥に綿棒を入れる。ちょっと痛い。綿棒は英語でスワブという。海外に渡航するときはPCR検査が義務づけられていることが多いから、しばしばスワブテストという説明を耳にする。
このスワブテストが一般的な方法かと思っていたが、成田空港では小振りの試験管を渡された。この線のところまで唾液を入れてください、といわれた。
試験管は細いが、底から1センチほど唾液を溜めなくてはならない。口のなかの唾液を絞りだすようにして入れたが、2ミリにも満たなかった。
「皆、簡単に唾液を溜めることができるんだろうか」
唾液をとる場所は簡易ブースのようなつくりになっていた。人の動きを見ていると気が散るので、壁に向かい、口のなかに唾液を溜める。唾液をとるには、かなり集中しないといけない。いや、そう思ったのは僕ぐらいなのだろうか。
「唾液が少ないね」
あれは小学校の高学年のときだった気がする。虫歯の治療のために歯科医にかかっていた。
「唾液が少ないと、虫歯になりやすいよ。ご飯をよく噛んで食べることだね。そうすると唾液が出やすくなるから」
歯科医の説明を、僕は口を開けたまま聞いていた。
歯科医の予測はみごとにあたった。20歳の頃には、治療はしてあるものの、奥のほうの歯はすべて虫歯だった。歳をとると、治療した歯もダメになってくる。昨年の末、一ヵ所が入れ歯になってしまった。
「気をつけないと、ほかの場所も入れ歯に鳴っちゃいますよ」
歯科医からそういわれているが。
僕は唾液の少ない人生を歩んできたのかもしれない。「固唾を呑む」ということわざがあるが、どうしてもぴんとこない。原稿でも使っていない気がする。
試験管を手にそんなことを考えてみる。しばらくじっとしていないと唾液が溜まらないのだ。僕の後からブースに入った人はもう出ていってしまった。唾液というものは、焦って出せるものでもない。
これからも何回か唾液の採取で苦労するのだろうか。
■コロナ禍でも旅に出たい。そんなオンラインサロンをはじめます。詳細は以下。
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Posted by 下川裕治 at 12:06│Comments(0)
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