2021年05月10日
ワクチンクーポンの平等論
新型コロナウイルス対策は、地球規模で失敗を重ねてきた。「なんとか抑え込んだ」という国もあるが、それは比較論にすぎない。もともと備えていた権威主義を発揮し、「私たちは新型コロナウイルス抑え込んだ」と声高に語られても、世界の人々がうそ寒さを抱くだけだ。
中国にしても、「私たちも同じように苦しんでいる」と発信すれば、共感する人もいると思うのだが、そこに権威主義が歯止めをかけてしまうから、中国嫌いばかり増殖させてしまう。
そういった政治的な話も含めたウイルス対策というフィルターをかければ、すべての国が失敗したと思う。
その失敗はさまざまな世界に波及する。僕は原稿を書くことを生業にしているから、言葉が汚れていくことが気にかかる。行政はさまざまな言葉を発してきたが、それがさしたる効果も生まないから、人々はその単語を耳にしただけでうんざりする。
たとえば「三密」。感染拡大を気にするひとは、「三密」を避けているというのに、何回も大きなピークに襲われ、それは変異株のためだと説明を受けても、「去年、あれだけ神経を遣ったのに……」という反発が生まれてくる。「三密」という言葉は、これからは遣いにくいだろう。
ウイルス感染拡大を防ぐ緊張感は色褪せ、政治家の演説のような空虚な響きを抱えもってしまう。
そんななか、唯一、裏切らなかったのはワクチンだ。当初は開発に3年はかかるといわれていたが、ほぼ1年で接種がはじまった。専門家はこれまでの新薬開発を参考に3年といったのだろうが、各国が対策の手詰まり感に陥っていくなかで、ワクチンへの期待値は高まり、やや乱暴な進み方をとり、接種に辿りついた。そして着実な成果をあげはじめ、世界はワクチンになびいている。
しかしその接種方法で不協和音が響く。平等という理念との葛藤だ。ワクチン接種を望む人の数に対してワクチンが少なすぎる。さて、どうやって接種するかという話だ。
阪神・淡路大震災を思い出す。僕は取材のため、1ヵ月近く、震災対策の現場を見続けていた。全国から膨大な支援物資が届いた。そのなかに畳があった。寒い時期だった。避難所に畳を敷けばずいぶん助かる。しかし避難所に敷き詰めるほどの畳は届いていない。
そこで行政は悩む。避難所に敷き詰めることができるまで待つ? それでは今晩、温かくしてほしいという送り主の善意が霧散してしまう。
同じ構図がワクチンにもある。平等を待つか、感染者が多いエリアからはじめるか。平等論は自己責任の問題も絡み、答えが出るものではない。「運の平等論」、「関係性の平等論」など哲学的考察は興味深いが、ワクチンの前では……。
僕のもとにもワクチンクーポンが届いた。ネットを通して予約したが、接種は1ヵ月以上先。そこに平等はどれほど作用しているのだろうか。
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg?view_as=public
面白そうだったらチャンネル登録を。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=旅先で食べた料理の再現シリーズを連載中。
○旅をせんとやうまれけむ=つい立ち止まってしまうアジアのいまを。
○アジアは今日も薄曇り=沖縄の離島のバス旅シリーズを連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
中国にしても、「私たちも同じように苦しんでいる」と発信すれば、共感する人もいると思うのだが、そこに権威主義が歯止めをかけてしまうから、中国嫌いばかり増殖させてしまう。
そういった政治的な話も含めたウイルス対策というフィルターをかければ、すべての国が失敗したと思う。
その失敗はさまざまな世界に波及する。僕は原稿を書くことを生業にしているから、言葉が汚れていくことが気にかかる。行政はさまざまな言葉を発してきたが、それがさしたる効果も生まないから、人々はその単語を耳にしただけでうんざりする。
たとえば「三密」。感染拡大を気にするひとは、「三密」を避けているというのに、何回も大きなピークに襲われ、それは変異株のためだと説明を受けても、「去年、あれだけ神経を遣ったのに……」という反発が生まれてくる。「三密」という言葉は、これからは遣いにくいだろう。
ウイルス感染拡大を防ぐ緊張感は色褪せ、政治家の演説のような空虚な響きを抱えもってしまう。
そんななか、唯一、裏切らなかったのはワクチンだ。当初は開発に3年はかかるといわれていたが、ほぼ1年で接種がはじまった。専門家はこれまでの新薬開発を参考に3年といったのだろうが、各国が対策の手詰まり感に陥っていくなかで、ワクチンへの期待値は高まり、やや乱暴な進み方をとり、接種に辿りついた。そして着実な成果をあげはじめ、世界はワクチンになびいている。
しかしその接種方法で不協和音が響く。平等という理念との葛藤だ。ワクチン接種を望む人の数に対してワクチンが少なすぎる。さて、どうやって接種するかという話だ。
阪神・淡路大震災を思い出す。僕は取材のため、1ヵ月近く、震災対策の現場を見続けていた。全国から膨大な支援物資が届いた。そのなかに畳があった。寒い時期だった。避難所に畳を敷けばずいぶん助かる。しかし避難所に敷き詰めるほどの畳は届いていない。
そこで行政は悩む。避難所に敷き詰めることができるまで待つ? それでは今晩、温かくしてほしいという送り主の善意が霧散してしまう。
同じ構図がワクチンにもある。平等を待つか、感染者が多いエリアからはじめるか。平等論は自己責任の問題も絡み、答えが出るものではない。「運の平等論」、「関係性の平等論」など哲学的考察は興味深いが、ワクチンの前では……。
僕のもとにもワクチンクーポンが届いた。ネットを通して予約したが、接種は1ヵ月以上先。そこに平等はどれほど作用しているのだろうか。
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg?view_as=public
面白そうだったらチャンネル登録を。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=旅先で食べた料理の再現シリーズを連載中。
○旅をせんとやうまれけむ=つい立ち止まってしまうアジアのいまを。
○アジアは今日も薄曇り=沖縄の離島のバス旅シリーズを連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
Posted by 下川裕治 at 16:51│Comments(0)
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。