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ナムジャイブログ

2021年06月21日

記憶との闘い

 韓流ドラマにときどきはまる。去年、仕事の関係で「愛の不時着」を一気に観た。すると韓流ドラマに火がついてしまった。「梨泰院クラス」、「トッケビ」を続けて観た。こういう観方をすると、韓流ドラマが食傷気味になる。粗も見えてくる。ストーリー展開や台詞まわしなどが鼻につき、しだいに離れていってしまう。
 それから半年ほどたった頃、なにかの拍子で再び韓流ドラマをちらっと観てしまい、また……。今年の2月頃だろうか。毎日のように「マイ・ディア・ミスター」を観ていた。これまで見てきた韓流ドラマのなかで、いちばん面白いような気がした。
 韓流ドラマは、ときどき、唸る台詞に出合うことがある。
「愛の不時着」でこういうシーンがあった。登場した女性が、「最近、鬱っぽい」といったとき、「ダイエットしてるの?」という会話が続く。
 鬱を発症した脳ではセロトニンという物質が不足しているという報告がある。糖質ダイエットでブドウ糖が不足してしまうこともよくない。
 しかしそれ以上に、多くの人がダイエットで気分の落ち込みを経験している。そういういまの人たちの暮らしを、ドラマのなかにするっと入れる。日本のドラマとは、リアリティというものへの感性が違う気がする。
「マイ・ディア・ミスター」では、煙草を使っていた。主人公は建設会社の部長だが、さまざまなトラブルに巻き込まれる。精神的に追い詰められたとき、コンビニで煙草を買って、ゴミ箱の前で喫おうとするのだが、ライターの火がなかなかつかない。
 あるときは行きつけの飲み屋から出、店の前で煙草を喫おうとするのだが、指で挟んだままで、ただうつろな瞳で路上を眺め続けている。飲み仲間がその姿を知人に伝える。
「煙草を手にしているけど、喫わない……」
 煙草に手がのびることで、精神状態を表現しようとしている。
 その前提になっているのが、若い頃から煙草を喫い、40代、50代になり、なにかのきっかけで禁煙したという経験である。韓国の多くの男たちは、そういった過去を共有しているという思いがあるから、煙草を喫おうとするシーンに結びつく。
 僕はいま、その経験のただなかにいる。禁煙をはじめて3ヵ月になろうとしている。不安のなかで煙草に手がのびるという発想は少しステレオタイプのようにも思う。が、たしかにそんな面はある。
 僕はどちらかというと、記憶との闘いといったらいいだろうか。40年以上、煙草を喫ってきたから、煙草の記憶はもう数えきれないほどある。日々の生活になかにも煙草の記憶はあるが、梅雨の長雨にも記憶がある。駅に行くと喫煙コーナーの記憶が蘇る。
 おそらく、もう体は煙草を欲していないない。しかし記憶が煙草を誘う。
 それは不思議な感覚でもある。

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Posted by 下川裕治 at 12:16│Comments(0)
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