2021年07月05日
「クリックディープ旅」の連載が終わる・前編
「クリックディープ旅」というネット連載が9月いっぱいで終わることになった。連載ペースは週1回、10年以上続いた。多くの本が生まれた連載でもあった。
新潮文庫の『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』、『「裏国境」突破東南アジア一周大作戦』などの長くて辛い旅。『週末アジアでちょっと幸せ』ではじまった朝日文庫の『週末アジアシリーズ』は10冊を超えている。双葉文庫の『一両列車のゆるり旅』や『東南アジア全鉄道制覇の旅』などの鉄道旅。そして中経の文庫の『ディープすぎるユーラシア縦断鉄道旅行』などの『ディープすぎる旅』シリーズなどだ。きちんとカウントしたわけではないが、40冊以上の書籍にまとまっているはずだ。
その元になった連載といえば存在感はあるが、そこには出版社や新聞社という活字の世界とネットとの間で揺れる内部事情が横たわっていた。振り返ると、右往左往の10年なのである。
話がもちかけられたのは朝日新聞社の広告局からだった。新聞の購読者数が減少するなかで、広告媒体としての新聞という存在に危機感が漂っていた。時代はネット社会にうごきつつある。そのなかで、広告局がサイトの運営に入り込んでいくという構図だった。
当時、ネットの広告代金はクリック数で決められていた。広告局の担当者は、こう口を開いた。
「クリック数が増える企画がほしいんです」
そこで考えたのが「クリックディープ旅」だったのだ。ひとつの旅を紹介していく。写真15点を基本的には時系列にまとめ、その写真に僕が説明を書いていく。
つまり読者は、「次はどこへいくんだろうか」、「ちゃんとバスは目的地に着くの」といった旅を追体験していく。そうして進んでいくうちに15回はクリックしてくれる。1点の旅紹介で1クリックの15倍。そんな下心ありありの企画だったのだ。
そのとき、なぜ、写真説明の字数を150字前後にしたのか、記憶はない。日々、本の原稿を書いているわけで、せめて150字ぐらいはないと、いいたいことも書き込めない……程度の動機だった気がする。
しかしこの字数が、やがて連載を支えていくことになる。旅の続き写真にしてクリック数を稼ごうとする子供騙し作戦はクライアントからすぐに見破られ、その内容を観ている時間の長さに広告料金が対応するようになっていったのだ。そこで文字数の多さだったのだ。
この企画がスタートした頃から、一般の方が自分の旅のブログを写真中心で掲載するようになっていった。写真が縦に何枚も続き、そこに10字から20字といった写真説明が添えられるスタイルだった。それに比べると、「クリックディープ旅」の原稿は長かった。僕が書くものだから情報というより、読み物に近くなる。それがネット社会では特徴になっていった。
しかし企画がはじまるまでには高い壁があった。それはギャランティを含めた費用だった。そこで本の販売が落ち込む出版社が絡んでくることになる。 (続く)
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg?view_as=public
面白そうだったらチャンネル登録を。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=東京再発見の旅を連載中。
○旅をせんとやうまれけむ=つい立ち止まってしまうアジアのいまを。
○アジアは今日も薄曇り=コロナ禍の海外旅行を連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
新潮文庫の『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』、『「裏国境」突破東南アジア一周大作戦』などの長くて辛い旅。『週末アジアでちょっと幸せ』ではじまった朝日文庫の『週末アジアシリーズ』は10冊を超えている。双葉文庫の『一両列車のゆるり旅』や『東南アジア全鉄道制覇の旅』などの鉄道旅。そして中経の文庫の『ディープすぎるユーラシア縦断鉄道旅行』などの『ディープすぎる旅』シリーズなどだ。きちんとカウントしたわけではないが、40冊以上の書籍にまとまっているはずだ。
その元になった連載といえば存在感はあるが、そこには出版社や新聞社という活字の世界とネットとの間で揺れる内部事情が横たわっていた。振り返ると、右往左往の10年なのである。
話がもちかけられたのは朝日新聞社の広告局からだった。新聞の購読者数が減少するなかで、広告媒体としての新聞という存在に危機感が漂っていた。時代はネット社会にうごきつつある。そのなかで、広告局がサイトの運営に入り込んでいくという構図だった。
当時、ネットの広告代金はクリック数で決められていた。広告局の担当者は、こう口を開いた。
「クリック数が増える企画がほしいんです」
そこで考えたのが「クリックディープ旅」だったのだ。ひとつの旅を紹介していく。写真15点を基本的には時系列にまとめ、その写真に僕が説明を書いていく。
つまり読者は、「次はどこへいくんだろうか」、「ちゃんとバスは目的地に着くの」といった旅を追体験していく。そうして進んでいくうちに15回はクリックしてくれる。1点の旅紹介で1クリックの15倍。そんな下心ありありの企画だったのだ。
そのとき、なぜ、写真説明の字数を150字前後にしたのか、記憶はない。日々、本の原稿を書いているわけで、せめて150字ぐらいはないと、いいたいことも書き込めない……程度の動機だった気がする。
しかしこの字数が、やがて連載を支えていくことになる。旅の続き写真にしてクリック数を稼ごうとする子供騙し作戦はクライアントからすぐに見破られ、その内容を観ている時間の長さに広告料金が対応するようになっていったのだ。そこで文字数の多さだったのだ。
この企画がスタートした頃から、一般の方が自分の旅のブログを写真中心で掲載するようになっていった。写真が縦に何枚も続き、そこに10字から20字といった写真説明が添えられるスタイルだった。それに比べると、「クリックディープ旅」の原稿は長かった。僕が書くものだから情報というより、読み物に近くなる。それがネット社会では特徴になっていった。
しかし企画がはじまるまでには高い壁があった。それはギャランティを含めた費用だった。そこで本の販売が落ち込む出版社が絡んでくることになる。 (続く)
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg?view_as=public
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○クリックディープ旅=東京再発見の旅を連載中。
○旅をせんとやうまれけむ=つい立ち止まってしまうアジアのいまを。
○アジアは今日も薄曇り=コロナ禍の海外旅行を連載中。
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Posted by 下川裕治 at 12:13│Comments(0)
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